

サッチャーにもメローニにもなれず、トラスへの道を歩み高市内閣が、なぜ支持され持続するのか?
2025年は、気候変動とトランプ政治に翻弄された年でした。暑い夏が長く続いて、何とかエアコンでやりすごしてきたら、今度はあっという間に冬支度、二季の師走です。今年も、多くの友人・知人を喪い、送り出しました。親友の偲ぶ会を主宰している同じ時間に、別の友人の訃報が飛び込んできました。二まわりも年下の教え子を、癌で喪いました。痛恨です。年を重ねて生きてきた証しとは言え、自分自身にも迫る「終わり」を感じます。
いや「終活」は、この国にとっても同じではないのか、と80年近くを生きてくると感じます。もうすぐGDPでインドにも追い越され5番目になるはずの落日の国で、勇ましい四文字熟語のイメージが、飛び交っています。かつて「鬼畜米英」の前座であった「暴支膺懲(ぼうしようちょう)」、「暴戻(=横暴)な支那(=中国)を懲らしめよ」の短縮形風反中国世論が、高市早苗首相の「台湾有事」は「存立危機事態」=集団的自衛権発動になりうるとの言明をめぐって、跋扈し、昂揚しています。経済政策も乱暴です。昔、「インド以下的賃金」というのがありました。平均賃金の方は、OECD38ヵ国中25位とか、中国と勇ましく対決しても、あがるのは物価だけです。
トランプは習近平との会談を「G2」と称します。日本は、何とか「G7」に留まる目下の同盟者です。トランプの関税も打撃でしたが、中国の対日報復によって、旅行や留学・文化交流の事実上の制限になりました。いったん解除された海産物輸出制限も再開され、レアアースにも影響が出そうです。どうやらトランプが、G2優先で高市を諫める鎮静化の仲介に出てきたようです。政府としては、公式の首相発言を撤回できず、一部のネトウヨは拍手喝采です。無論、高市内閣の「危機管理投資」や為替相場に、直ちに響きます。「共匪追討」(=共産主義の悪党を追い討て)や「抗日絶滅」に広がり、「インド太平洋戦争」へと拡大するのでしょうか。「いつかきた道」の火遊びです。
「善隣外交」や「誠信交隣」は、死語のようです。相手が習近平の指導する中国共産党支配の帝国主義国家ですから、この間の日本の右翼的ポピュリズムからすれば、参政党あたりから「共匪追討」が出てきそうです。国家情報局の設置・スパイ防止法制定の衝動は、「中国・北朝鮮・ロシアからの危機」という東アジア安全保障観に根ざしています。中国側の「韜光養晦」から「戦狼外交」の路線と対決し、日本共産党などが今でも唱える「アメリカ帝国主義」主敵戦略、「日米安保廃棄」などとは、根本的に対立します。「21世紀の資本論」が必要となります。



日本におけるこうした民主主義・立憲主義の形骸化、権威主義・軍国主義国家への傾きは、欧米先進国、ロ中朝の「社会主義」を名乗った近隣国家、中近東・中南米やアフリカでも幅広く見られる、21世紀第一四半期の一般的傾向です。フランス革命以来200年で培われ、確立されたはずの民主主義が、危ういのです。フランス革命以来の民主主義と人権は、「自由」を中心とした資本主義・自由主義と、「平等」に重きをおく社会主義・共産主義の対抗のなかで、「友愛・連帯」をも組み込んだそれぞれの地域毎の仕組みを作り出し、成熟してきました。日本ではそれが、明治の自由民権から第二次世界大戦後の日本国憲法になって、「平和主義」を「民主主義」にビルトインして80年たちました。それが揺らいでいます。
21世紀になって、いわゆる「戦後民主主義」の綻びが目立つようになりました。もともと敗戦と連合国の占領により作られた他力本願に近いシステムでしたから、自分たちで主体的にかちとった自由や権利の意識は薄く、憲法第9条の戦争・戦力放棄も、冷戦期の日米安保同盟・自衛隊増強によって、また冷戦終焉・ソ連崩壊によって、多分に形骸化してきました。国際連合への信頼も弱く、ヒロシマ・ナガサキに発する反核意識は「平和利用」とされた原発依存のエネルギー政策に侵食されています。3・11フクシマを経験し、ウクライナでは無人機・ドローンが原発まで攻撃しているのに、「トイレなきマンション」のままで、いまや東電柏崎刈谷さえ再稼働の動き。「非核三原則」も公然と見直されて、既成事実化した米軍の核持ち込みが、明文化されそうです。軍事化がすすみます。



2025年に鮮明になったこの傾向は、かつて「世界の警察」とよばれたアメリカ合衆国にトランプ大統領が再登場し「アメリカ・ファースト」を掲げることで決定的になりました。ロシアのプーチンとも、中国の習近平とも、イスラエルともサウジアラビアとも経済的国益を優先するディールで相対し、嘘やデマゴギーも駆使して、反対の声を押さえつけます。ウクライナ戦争勃発で、EU、NATO諸国はウクライナを支持してトランプから距離をおいてきましたが、すでに太平洋戦争より長くなった戦争のもとで、自国の移民・難民対策に手を焼くもとでは、米国の軍事力・交渉力に頼らざるをえない、欧米全体の「トランプ王朝化」が進行しています。
ただし、アメリカ国内では、そろそろ関税もMAGAも賞味期限がきて、 物価高は続いて、ラストベルト地帯の労働者への仕事と賃金は保障されていません。ニューヨークやシアトルでは、格差拡大にたまらず、平等主義の「社会主義」を容認する民主党市長が選ばれ、来年の中間選挙を前に、民主党ばかりでなく共和党内でも亀裂が深まっています。日本の高市内閣は、まだ売り出されたばかりで、支持率8割をこえ、立憲民主党支持層の65%、公明党支持層で7割、共産党支持層でも3割が支持し、特に若年層ほど歓迎し、熱狂的に迎えています。イギリスのトラス首相の国債金利高騰・為替下落による50日天下よりは、何とか長持ちするでしょうが、英国サッチャー、独メルケル政権風に持続することはないでしょう。イタリアのメローニにならった軌道微調整はありえます。2026年も、ポリュリズム政治から目を離せません。
ウェブ上でも、世代交代は進んでいます。2025年にも、私のネットサーフィンの日常的対象だったいくつかのサイトが、閉じてしまいました。中国「人民網」やロシア「スプートニク」とならべて毎日覗いていた「アリの一言」さんは、韓国問題でのすぐれた情報源だったのですが、秋になってつながらなくなりました(その後、読者のメールで、https://ameblo.jp/satoru-kihara/に移転したことを知りました)。本サイトトップも時折転載されていた「Blogみずき」さんは、時評の更新頻度が少なくなり、9月16日を最後にそのままです。
私の「ネチズンカレッジ」も、7月の旧サーバー閉鎖から新たなサーバー・ドメインに移転し、新規開学するまでが大変でした。一時は閉鎖も考え、何人もの常連の皆さんからご心配いただき、激励されて、ようやく復旧できました。そろそろデジタル「終活」を始めなければ、と思い始めたところで出会ったのが、元ベ平連の吉川勇一さんの個人サイト「吉川勇一の個人ホームページ」と運動記録サイト「旧『ベ平連』運動の情報ページ」です。故吉川さんは、2015年に84歳で亡くなっていますが、ホームページの方は「このページの最終更新日は 2013/12/04」とことわりつつ、存続しています。ご家族かどなたかが保存し、データを守っているのでしょうが、その濃い中味と肌合いがそのまま残っていて、大変味わいのあるサイトです。
写真集『ベトナム反戦闘争 1965-69 砂川』のような、吉川さんの貴重な著作や論文のデジタル版の他、「感じること・雑感・駄弁」という生活誌がきわめて面白く、有用でしだ。たとえば 「小田実さんの逝去について 」のような歴史的記録から、「腰痛はいくらかよくなってきました。でもいろいろ大変でした」 「『長生きをする意味があるか』という知人の メールのこと、など」 「連れ合いが死んで1年になります」「5~6月は同窓会や同級会が多いですね」等々、生活誌風のお役立ち発信、考えさせるつぶやきが満載です。しかも、運動記録サイトからは、「ベ平連年表」や「作家・小田実のホームページ」「小田実全集オンデマンド版全82巻」にいたる、広大な情報宇宙が広がります。本カレッジも、せっかく今夏苦労して移転・再開したからには、せめて1997年7月から30周年の2027年夏までは継続し、デジタル・アーカイフとしての機能を残そうと思い直しました。



当面のトランプ・高市対中外交については、城山英巳さんの解説、「タブーを破った外交官」田中均さんの発言、「責任ある積極財政」と称する無責任経済政策については、ハンガリー在住の経済学者森田常夫さんの論稿「島国日本が陥る幻想」をオススメします。師走の「今月の3冊」総まとめは、2025年中私が学問的に追いかけてきた「民族派保守・現実主義右派政治」の起源に迫ってみました。トランプ=安倍・高市内閣が、ベ平連の吉川さんたちが全学連・わだつみ会の頃から危惧していた朝鮮戦争前の米国占領下日本と状況が似てきたのに鑑み、この間ずっと追いかけてきた、戦後革新運動の天敵(?)、1950年設立「学生土曜会」の軌跡に関わる古書探索です。
当時の中国革命、冷戦激化、下山・三鷹・松川事件、全学連創立、レッドパージなどを背景に、南原繁・丸山真男らの全面講和を唱える戦後派知識人・学生に対抗し、「学生研究土曜会」は少数反対派として生まれました。反全学連の保守的学生を、民族派・愛国派として研究会に組織し、後に『中央公論』の現実主義、佐藤内閣沖縄返還交渉の密使、大平・中曽根内閣ブレーン集団等を産みだし、今日の政権政策ブレーンや高市内閣応援団、「スパイ防止法」制定派にまで連なることになる、右派エリート集団の歴史です。



背後に旧陸軍中野学校創設者・岩畔豪雄等の暗躍も見え隠れしますが、中心的当事者であった後の警察官僚・佐々淳行『焼け跡の青春』(文藝春秋、2003年)、『中央公論』編集長・粕谷一希『作家が死ぬと時代が変わる』(日本経済新聞、2006年)が有用です。それに、佐藤内閣対米交渉密使・若泉敬について、遺著『他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス』 文藝春秋、1994年)もありますが、後藤乾一『「沖縄核密約」を背負って:若泉敬の生涯』(2010年、岩波書店)と森田吉彦『評伝・若泉敬:愛国の密使』(2011年、文春新書)も読みたいところです。
これらについては、大山貴稔さんらがアウトラインを書き、河野有理さんは、有料国際情報サイト『フォーサイト』に「日本史はどのように物語られてきたか」という壮大な叙事詩を書いています。それらを参考にして、志垣民郎・岸俊光『内閣調査室秘録』(文春新書、2019)を片手に、国立国会図書館憲政資料室の「福留民夫氏旧蔵若泉敬関係文書」所蔵の第一次資料を見に行くのが、病気療養リハビリ中の私の、来年の目標です。



12月6日に、本年最期の尾﨑=ゾルゲ研究会第10回例会を、午後3時から拓殖大学茗荷谷文京キャンパスE館601+オンラインで開きます。神田神保町タウン誌『新・本の街』連載「国際歴史探偵の書斎から」のタイアップ・デジタル版は、11月号の第一回「竹久夢二の描いた二枚の『ベルリンの公園』の入国経路の謎」に続いて、12月号の第二回「松本清張『球形の荒野』のモデルは『亡命者』崎村茂樹か」をアップロードしました。字数制限のあるタウン誌版より、ヴィジュアルで詳しくなっています。新年号の第三回は「ゾルゲと福本和夫のドイツでの一期一会」の予定です。皆様も、くれぐれも健康に留意して、よいクリスマスと新年を!

ネチズンカレッジ2025年10月新規開講コース案内


2025年9月の新規開講に当たって、30年近い「ネチズンカレッジ」の伝統と実績を引き継ぎながら、SNS時代にマッチした新たなコースを構成していきます。
情報学中心のカリキュラム再編成
国際歴史探偵の書斎から(神保町「新・本の街」誌提携)
Global Netizen College (in English)
「ネチズンカレッジ」の30年(過去ログ)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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