ハンガリーの総選挙日程は、2026年4月12日に決まった。親プーチン親トランプのオルバン政権が存続するのか、それとも16年続いたオルバン政権に終止符が打たれるのか。ハンガリーの総選挙は今後のEUの政策遂行に大きな影響を与える選挙として注目される。
ロシアにとっても、欧州内でロシアの利益を代弁するオルバン政権の継続はきわめて重要な政治目標の一つである。ティサ党の会員名簿が流出した事件にはロシアがかかわっていると考えて間違いない。ロシアのサイバー攻撃が強まることが予想される。また、経済力のない小国ハンガリーはアメリカにとって無視できる存在だが、トランプを慕って恭順姿勢を示すオルバン政権はEU指導部を牽制し、EU内部の不協和を促進させる都合のよい存在である。だから、トランプは選挙戦で劣勢に立っているオルバンを助けたいと考えているが、世界情勢の展開に追われ、ブダペスト訪問の優先順位は極めて低い。
昨年のロシア-ウクライナの和平協議の進展の中で、オルバン政権はトランプ-プーチン会談のブダペスト開催を強く望み、一時は会談実現を期待させるところまできた。しかし、現在、その機会は遠のいている。そのため、昨年11月の訪米に際してトランプ大統領に正式な国賓招待状を手渡し、トランプ一人だけのブダペスト招聘だけでも実現したいと考えている。なんとしても、オルバン・ヴィクトルは総選挙前に世界の政治指導者をブダペストに招き、ロシアのプーチンだけでなく、トランプとも話せる国際的な指導者であることをEU首脳に見せつけ、ハンガリーの有権者の支持を得たいと考えている。
最近になって、オルバン政府はホワイトハウスでハンガリーの招聘を受ける方向で調整が始まったと喧伝し始めた。国内での支持が伸び悩んでいる中、オルバン・ヴィクトルは世界の二大国の政治家の支持を取り付け、政権の継続を図ろうとしているが、そう簡単に国内有権者の支持を広げることはできないだろう。ハンガリーの都市住民はプーチンを嫌い、トランプの言動に呆れている。
ロシアとアメリカの支持を取り付けるオルバン政権に親近感を抱いていないから、トランプ招聘が裏目になることすら予想される。
ハンガリー国内での不支持の原因(公金横領、不正蓄財、社会的倫理の蹂躙など)を解明し除去する努力を怠り、外部の大国の権力をすがるオルバン・ヴィクトルは真っ当な政治感覚を失っている。
中欧諸国の結束は強まるのか
スロヴァキアのフィッツォ政権はオルバン政権と共同歩調をとってEUのエネルギー政策に反対している。また、新政権が樹立されたチェコ(バビッシュ政権)も、オルバン政権と親和性のある政策を掲げ、対EUでハンガリーとの協調路線を歩みつつある。オルバン・ヴィクトルが主導して欧州の民族主義政党を束ねたパトリオット(欧州議会会派)は欧州議会の雑多な極右政党を結集する集団になっているが、この活動を資金的に支えているのは、パトリオット会派の中で唯一政権を維持しているオルバン政権である。
オルバン政権は政府資金でパトリオット本部建物を借り上げ、当該国で融資を受けられなくなった極右政党にハンガリーの国策商業銀行の融資を提供し、パトリオットの結束を図っている。もしここでオルバン政権が消滅すればパトリオットの資金基盤が失われ、欧州議会の勢力分布が変わることが予想される。
このように、チェコ、スロヴァキア、ハンガリーの三か国は右旋回で、ウクライナ支援に消極的になっているが、チェコとスロヴァキアは限定された形での支援を継続しており、ハンガリーとは一線を画する政策を維持している。
オルバン率いるハンガリー政府はプーチン政権との親密さを謳い、トランプ大統領の難民・移民政策に賛同する立場から両大統領の支持を受けている。EU内の「トロイの木馬」と称されるオルバン政権が4月の総選挙に勝つか負けるかで、EUの対ロシア政策が大きな影響を受ける。もしオルバン政権が崩壊すれば、ロシアはEU内での足場を失い、対トランプ政権との関係も現在のような恭順姿勢から転換される。EUの対外政策にとって、本年4月のハンガリーの総選挙はEUの結束にとってきわめて重要な政治イヴェントである。
陣営の結束を図るFidesz
Fidesz陣営は、現在の政治的力関係が実際のところどうなっているのかについて、確信を持てない状態にある。Fideszのイデオロギー分野は、少女売春や公金からの蓄財で悪名高いロガーン・アンタル(閣僚会議統括大臣の掌中にある。テレビ、ラジオ、新聞等の論調を統制する役割を持っており、ロガーンは現実の力関係をよく知っていると思われている。
しかし、政治アナリストたちはロガーンが策に溺れて、逆に現実を見失っていると見ている。Fideszの現在のイデオロギー・キャンペーンの主要な柱は、Fideszが対Tiszaで優位に立っており、総選挙で再び議席の3分の2を獲得できるという幻想を振りまくことである。この幻想イデオロギーをFidesz支持者の結束に最大限に利用している。この路線にしたがって、政府の資金で運営されている調査機関Nézöpontは、昨年来、Fideszが常にTiszaを9ポイントリードしているという世論調査結果を発表している。他の調査機関すべてがTisza党の大幅リードを伝えているにもかかわらず、今年に入っても、同様の結果を公表している。
しかし、オルバン自身はその調査結果に確信を持っておらず、オルバン宮廷の官吏が正しく現実を伝えていないのではないかという不安に駆られている。そのため、昨年来、オルバン・ヴィクトルはFideszキャンペーンの最前線に立って陣頭指揮し、宮廷官吏は集会への人集めや豪華な舞台の設置で、FideszがTiszaを圧倒している風景を演出することに躍起になっている。
昨年10月23日の「動乱69年」の行進にはルーマニアやスロヴァキアからのハンガリー人まで動員し、全国各地からバスや列車を手配し、参加者には食事やスーパーマーケットの買い物券(5000Ft)を渡して参加者を動員した。動員数を比較することで、Fideszが優位に立っていることを支持者にアピールし、支持層の結束を図っているのである。
昨年12月の地方遊説の最後のセゲド集会(「デジタル市民サークル」と称するFidesz支持者の結束組織)にはスポーツアリーナ(PickAréna)が埋めつつくされるほどの動員に成功した。およそ8,000名の参加者である。この集会に合わせてセゲド集会を開催したTisza党の集まりはFideszのそれを上回ることができなかった。Fidesz陣営は勝ち誇ったように、Fidesz優位を演出したのである。この集会主催のために、Fidesz政権から公金を得ている多くの企業からスポンサー資金が集められた。

ところが、反政府勢力が強いセゲド市民は、「それほどの数のセゲド住人がFideszの集会に参加することなど考えられない」という。事実、このFideszの集会にはハンガリー東部地域だけでなく、ルーマニアのエルディからも支持者が動員された。セゲド市民でこの集会に参加した人はきわめて少数である。百台を超えるバスがアリーナの駐車場やティサ川堤防沿いの道路に並んだ。宮廷官吏たちが苦心して人集めに奮闘した結果、8,000名近い参加者を集めることに成功したのである。参加者たちは満席になったアリーナの興奮に酔いしれ、オルバン・ヴィクトル率いるFideszが永遠にハンガリーを統治することを望んだのである。


NézöpontのFidesz大幅リードの調査結果やデジタル市民サークル集会の成功に気を良くしたFidesz支持者は、総選挙でのFidesz圧勝を確信している。しかし、当のオルバン・ヴィクトルは官製集会やNézöpontの調査結果が本当にFidesz圧勝の証かどうか、疑心暗鬼になっている。まさに独裁権力の末期症状を呈している。
政府系調査機関NézöpontはそのHPで、今総選挙を実施すれば、全国比例区の得票で、Fidesz7%(Fidesz47%,Tisza40%)がリードしていると伝えているが、政府の資金で運営されているこの機関は、ロガーン・アンタルの指示に沿った調査結果を出すことで知られている。

Nézöpontの調査によれば、7ポイント差で、FideszがTiszaをリードしており、Fideszの勝利は確実だと報告している。

しかし、Nézöpont調査は常に世論操作の疑いがもたれている。2019年のブダペスト市長選挙で、Nézöpontは「左派ですら(Fidesz系の)タルロシュ・イシュトヴァンの勝利を予想している」と発表し、政府系メディアは一斉に、これを大きく報道した。メディアを通じた世論誘導である。

ところが、実際の選挙はNézöpontと予測とは真逆の結果になった。実に7-8%の誤差である。普通の世論調査機関で、これほどの差が出ることはまずない。イデオロギー的なバイアスをかけた調査結果の公表である。しかし、Fidesz政権がメディアを金で買収し、報道指針まで通達しているハンガリーでは、このようなことが日常的に生じている。

ロガーン率いるFideszのイデオロギー操作は現在もまったく変わっていない。さまざまな手段を使って、世論を誘導することに躍起になっている。
他の世論調査はTiszaの伸長を報道
昨年後半、オルバン・ヴィクトルが陣頭指揮をとったことで、FideszとTiszaの差が縮まったと報道されてきた。その勢いで11月に100名を超える大代表団を率いて、オルバン・ヴィクトルはトランプ大統領を訪問した。トランプ大統領の機謙を取るために、アメリカに有利な小ビジネスを提案し、それとの引き換えに、「ロシアからの原油・ガス輸入に対する懲罰的関税の免除」と「通貨危機に備えた資金的保護(通貨スワップを含む)措置」を求めた。ハンガリーに帰国途上の機内で、政府系メディアを相手に、オルバン首相は「懲罰的関税の無期限免除」と「200億ドルに達するかもしれない資金的保護措置」を獲得したことを誇らしげに報告し、帰国後のTV対談でもこの二つを訪米の成果だと強調した。
しかし、無期限免除は「1年だけの措置」だとホワイトハウスから発表され、ハンガリー政府の面目が潰れた。さらに、トランプ大統領は金融メディアのインタヴューのなかで、「オルバンからそのような(資金的保護の)要請があったことは事実だが、私は何も約束していない」と語ったことから、ハンガリー政府は混乱に陥った。巨額の費用をかけた訪米で獲得したものが、「懲罰的関税措置の1年猶予」だけだったのである。トランプ大統領との親密さを誇示し、アメリカから特別の庇護をうけることに成功したという説明は、まったくの虚偽だった。これでオルバン一行の訪米評価が一変した。歴史的成功とまで評価された訪米が、逆にお金の無駄遣いと批判されることになったのである。なんとも間抜けた失態である。
にもかかわらず、オルバン・ヴィクトルはトランプ大統領のブダペスト訪問に拘っている。もはや他力本願だが、それが賢い選択とは思われない。
こういう失態が重なるから、オルバン・ヴィクトルも疑心暗鬼にならざるを得ない。本当のところ、Fideszの支持率はどれほどあるのかについて確信が持てない。もしかして、宮廷官吏が都合の良い話ばかりを伝えているのではないか。しかし、それもこれも、オルバン自身が招いたことである。
同じく政府系シンクタンクのSzázadvégが2018年9月に発行した機関誌で、政府に批判的な論文を掲載した責任を取らせるために、オルバン・ヴィクトルは編集部の総入れ替えを指示した。王様の機嫌を損なうと、飯の種を失うのである。飴と鞭を使い、従順な者を厚遇し、批判者を容赦なく切り捨てる手法で、権力の座を維持してきたのがオルバン・ヴィクトルである。だから、側近たちはみな、オルバンの機嫌を損なわない情報を伝えるようになった。独裁政権に特徴的な末期的現象である。
昨年後半に、FideszとTiszaの支持率は一時的に接近したが、最新の世論調査(Median、IDEA)は、再びTiszaがリードを広げたことを伝えている。オルバン一行が大逆転を狙ったアメリカ訪問は、ハンガリーの有権者の心に響かなった。ハンガリーでもっとも信頼のおける世論調査機関とされるMediánの最新(2026年1月初旬)の調査によれば、昨年11月の調査に比べ、Tisza党支持率が再び伸びているという。Nézöpontとは真逆の結果である。もしMediánの調査が現実を反映しているとすれば、Nézöpontの調査はブダペスト市長選と同じイデオロギー的なバイアスをかけた調査だといえる。オルバン・ヴィクトルが疑心暗鬼になる理由である。

同様の結果は、同じく年末から新年にかけて実施されたIDEAの調査はほぼMediánと同じ結果となっている。

Medián調査では投票に行くと回答した有権者の支持率の差はTiszaが12%のリード、IDEA調査では10%のリードとなっている。Nézöpontの調査を比較すると、真逆の結果で、実に政府系調査と在野の調査では18-20%の差があることになる。真っ当な世論調査で、これほどの差が出ることはない。ブダペスト市長選と同様に、ここでもNézöpontがオルバンFidesz政権に忖度していると結論される。
政治学者のトゥリュック・ガーボルは、「もしMediánの調査結果が現実を反映しているとすれば、すでに3か月を切った総選挙までの期間に、態勢を逆転することは不可能である」と述べている。Fideszがこの劣勢を座視することはないだろうが、Fideszには逆転を可能にする材料がまったくない。2月には13か月目の年金ボーナスと14か月目年金ボーナスの四分の一が支払われる。年金生活者は実に2.25か月分の年金を手にすることになる。その財政的措置はすべて国外の起債で賄われる。あまりの露骨な票買収で、若者の怒りを招くのも当然である。政府債務の累積はハンガリーの若者の肩に重くのしかかってくる。ブタペスト通信 2026年No.2(1月16日)から
「リベラル21」2026.01.20より許可を得て転載
http://lib21.blog96.fc2.com/blog-entry-6961.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion14633:260120〕










