「日本はレアアース欠乏症を克服できない」という論評について

八ヶ岳山麓から(552)

はじめに
1月12日に、レアアースの新市場を創設して中国を締め出そうという主要7カ国(G7)蔵相会議が開かれた。これには鉱物資源が豊富なオーストラリアやメキシコ、インドなどの蔵相も加わった。
この会議は、鉱物精製の現場は労働者と環境への重い負荷を伴うから、この分野で中国を上回る基準を設け、それを満たしたレアアースだけを流通させようというものだ。また同会議では世界的な供給を中国が支配するリスクへの対策として、西側企業の開発投資を促進する「最低価格制度」の導入や、中国からのレアアース類輸出の一部に課税することを検討した。
同会議に参加した片山さつき財務大臣は 「レアアースの対中国依存度をスピード感を持って引き下げていくということがほぼ合意され、非常に有意義であった」と語った。

中国はこの動きを見ていた。
人民日報国際版の環球時報紙は、会議3日後の1月15日「日本のレアアース『不安』の根源は日本にある」と題する論評を掲載した。筆者は中国国際問題研究院アジア太平洋研究所特別研究員の項昊宇(こうこうう)氏で日本問題の専門家である。日本のレアアース事情が直面する課題をよく見た内容なので、その概略を紹介したい。
以下とびとびに引く。小見出しと( )内は阿部。

〇片山さつき財務相の無知
中国商務部(省)が日本への(軍民)両用物資の輸出管理強化を発表して以来、日本国内ではレアアースの「供給停止」を懸念する声が高まっている。1月10日、片山さつき財務大臣は訪米を前に、アメリカや欧州とともに「民主国家レアアース・サプライチェーン」を構築する計画を打ち出し、「中国がレアアースを『武器化』する能力を奪う」と宣言した。
片山さつき氏のこの言説の落し穴は、通常の貿易摩擦や輸出管理を「価値観の対立」へと偽装し、日本政府の外交政策における重大な誤りを覆い隠そうとするものだ。
レアアースの国際サプライチェーンの現実は、日本の政治家たちが想像するような、数カ国の同盟国を懐柔し、資金を投入して鉱山や工場を買い取ればすぐに始められるというものではない。

〇新規参入障壁と中国のシェア
周知の通り、レアアース産業の真の参入障壁は「採掘」ではなく、極めて複雑な精錬分離と高度加工にある。アメリカ、オーストラリア、カナダなどが豊富なレアアース資源を保有しているにもかかわらず、世界で唯一、完全かつ体系的な全品目のレアアース産業チェーンを有しているのは中国だけである。
国際エネルギー機関(IEA)の報告書によると、中国は世界のレアアース精製能力の91%(2008年時点では97%)を掌握しており、日本のレアアース供給の60%が現在中国に依存している。このうち、新エネルギー自動車(EV)や国防・軍事産業などの重要産業で使用されるジスプロシウムなどの製品は、中国への依存度がほぼ100%に達している。
日本などが中国を迂回してサプライチェーンの閉鎖的ルートを構築しようとする場合、10年以上に及ぶインフラ整備期間に直面するだけでなく、克服困難な環境コストと技術的断層にも直面することになる。

〇脱中国サプライチェーンができたとしても
アメリカと日本が「脱中国化」のレアアース・サプライチェーン構築で合意点を見いだす可能性はあるが、過去1年間の「(米中)関税戦争」はアメリカに現実を認識させ、これによって米中経済貿易関係の安定維持がアメリカ政府の最優先政策選択肢となった。
日本のこの問題に関する「イニシアチブ」は、西側同盟国から言葉の上での一定の支持を得られるかもしれないが、現在の国際情勢下では各国が独自の利益を考慮するため、統一された実質的な政策や行動を取るのは難しいだろう。
ましてや、この考え方は、市場の法則から完全に離反している。かりに関係国が政治的手段で「脱中国」サプライチェーンの構築を強行できたとしても、そこで生産される製品の価格は少なくとも現在の数倍になるだろう。コスト競争力に大きく依存する自動車、電子機器、ロボット産業などにとって、このような高価な「経済的安全保障」は慢性的な自殺に等しい。政治的意志が市場の法則を無理に歪めた時、最も深刻な打撃を受けるのは往々にして自国企業の競争力である。

〇レアアースの輸出制限は高市答弁が原因だ
問題の根源は、高市早苗氏が台湾問題や軍事安全保障分野で繰り返した危険な挑発的言動にある。それにもかかわらず、日本政府は「西側レアアースクラブ」の構築によってリスクを回避できると期待しているが、この考えは一方的な願望に過ぎない。戦略資源が逼迫する局面において、いわゆる「民主主義国同盟」は往々にして強い自国優先主義を示すからである。
結局のところ、日本の「経済安全保障」が直面する真の脅威は中国からではなく、自国の指導者の戦略的誤りから生じている。この窮地は、隣国への挑発を繰り返し、地域の平和と安定を損なう行為が招いた必然的な報いである。

おわりに
項昊宇氏は、高市政権がアメリカとともに構築しようとしている「新レアアース市場」は、技術的に難しく、コスト面では負担が大きい、さらにG7諸国はあれこれ言っても、結局自国優位の選択をするから政治的にも合意形成は困難だという。
また、日本が適時、確実にレアアースを得るためのサプライチェーンが欲しいなら、「唯一の道は歴史と二国間関係に対する責任ある態度に基づき、日中四つの政治文書(注)に則り、重大な敏感問題における火遊びを止め、誤った言動を撤回し、中国との約束を確かな行動で示すことである」と主張する。
外部の力を借りて「派閥形成」を図ってもそれはむだだ、高市答弁をさっさと撤回するしか道はないというのである。
中国は第一期トランプ政権期の教訓を得ていたので、2025年トランプ氏から高関税を仕掛けられたとき、慌てることなくレアアースの輸出制限とアメリカ大豆の輸入停止を「武器」として対峙し、アメリカに譲歩することはなかった。ところが高市早苗という日本首相によって「台湾有事は日本有事」という中国内政への干渉が国会で軽く、しかもあからさまに語られた。中国指導部はアメリカと戦って勝った「自信」をもって高市答弁に報復してきたといえよう。

中国上層部のそうした政治攻勢とは別に、項昊宇氏の論評は肝心な部分が冷静で実証的であることに注目したい。これは日本に流行する「中国こき下し論」と引き比べ、中国における日本の現状分析の水準は日本のそれよりもはるかに上を行く、しかもその研究者の層が年々厚くなっていると、私は感じるのである。

注)(1)1972年の「日中共同声明」(2)1978年の「日中平和友好条約」(3)1998年の「日中共同宣言」(4)2008年の「日中共同声明」
(2026・01・23)

「リベラル21」2026.01.28より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/
〔opinion14647:260128〕