東西で違う数の数え方

ブタペスト通信

ブタペスト通信表紙写真数の数え方は日本とヨーロッパでは異なるし、ヨーロッパ大陸圏と英語圏のあいだでも異なる。この問題は翻訳する時に直面する。たとえば、次の文章を英語に翻訳してみる。
「バングラデッシュがロシア製原発新設を決定した2013年に、ハシナ元首相一族がロスアトムから50億ドルの賄賂を得ていたことが、2024年暮れに明らかになった。賄賂の総額は総工費の40%にあたる。同時期にハンガリーのオルバン首相はプーチン大統領との秘密会合を重ね、総額120億ユーロ(ロシアからの融資は100億ユーロ)の原発増設を取り決めた。
バングラデッシュの事例を参考にすれば、オルバン首相は最大で35-40億ユーロ、最低でも25億ユーロ程度の賄賂を受け取ったと推測される。25億ユーロは、1ユーロ=400Ftで計算すると、実に1兆Ftになる。
マトルチ・ジョルジュ父子が溶かした国立銀行資産はほぼ4000億Ftである。オルバン・ヴィクトルがマトルチ父子の国家資産詐取にたいして沈黙を保っている理由の一つに、マトルチ・ジョルジュがオルバンからロシアの裏金処理の相談を受けた可能性があり、マトルチはこの最高機密を知っているために、マトルチ父子への厳しい捜査を指示できないのではないか、あるいは1兆Ft以上の裏金を手にした後ろめたさから、マトルチ父子の国家資産詐取に目をつむっているのではないかと推測される」。

It was revealed in late 2024 that the Hasina family of the former Prime Minister of Bangladesh had received $5 billion (Milliarden Dollar, milliárd dollár) in bribes from Rosatom for the construction of a new Russian-made nuclear power plant in 2013. This amounted to 40% of the total project cost. During the same period, Hungarian Prime Minister Orbán held repeated secret meetings with President Putin, agreeing to expand nuclear power capacity at a total cost of 12 billion euros (with 10 billion euros in financing from Russia).

Referencing the Bangladesh case, it is estimated that Prime Minister Orbán received bribes of up to 3.5-4 billion euros, or at least around 2.5 billion euros. Calculated at 1 euro = 400 Ft, 2.5 billion euros amounts to a staggering 1 trillion (Billion, billió) Ft.

The assets of the National Bank melted down by the Matolcsy father and son amount to 400 billion Ft. One reason Viktor Orbán has remained silent regarding the Matolcsy family’s embezzlement of state assets is the possibility that Orbán consulted George Matolcsy about managing Russian slush funds. Because Matolcsy possesses this top-secret information, Orbán may be unable to order a rigorous investigation into the Matolcsy family. Or/and, he may have turned a blind eye to the Matolcsy family’s embezzlement of state assets out of guilt over having obtained over 1 trillion Ft in slush funds.

上記の翻訳文章で、英語のbillionのカッコ内に、ドイツ語とハンガリー語の訳を付した。英語のbillionはドイツ語のMilliarde、ハンガリー語のmilliárdになる。また、英語のtrillionはドイツ語でBillion、ハンガリー語でbillióになる。つまり、英語のbillionとドイツ語やハンガリーなどの大陸のbillionは数値が異なる。この違いを知らないと、間違った翻訳になる。また、英語のtrillionをそのままドイツ語やハンガリー語でtrillionと訳してしまうと、とんでもない間違いを犯すことになる。なぜなら、ドイツやハンガリーなどの欧州大陸の諸国で、trillionは(日本の100京に相当)というとんでもない数値を意味するからである。

厄介なことに、我々が高校時代(1960年代)には、英語圏内でもアメリカ英語のbillionとイギリス英語のbillionでは数値が異なることを教わった。当時、イギリスは大陸圏の数の数え方を使っていたからである。ところが、イギリスは1974年にアメリカ式の数え方に転換する法律を採択し、大陸の数え方を転換した。そこから英語圏内の数え方が同じになった。それを知らないで一昔前の観念でうっかり翻訳すると、これも間違いになる。

国際機関の統計数値はアメリカ式の数え方だから、イギリス式の数値に出会う機会がなかった。だから、法律によるイギリスの数え方に変更があったことを知らなかった。明らかに、この転換は国際金融のグローバル化に対応している。ニューヨーク市場とロンドン市場でbillionの意味が違うと、とんでもない計算間違いを犯すリスクがある。だから、これを統一することに意味があった。しかし、なぜ大陸式からアメリカ式への変更で、その逆ではなかったのだろうか。これを知るためには、数の数え方の東西比較が必要になる。英語圏と大陸圏の比較だけでなく、日本の数え方の仕組みを知ることも面白い。

短数法(short scale)と長数法(long scale)

英語圏も大陸圏も、ともに10⁶をmillion(100万)と表現するのは同じだが、そこからの表現が異なる。英語圏ではbillionが10⁹で、大陸圏では10¹²を意味する。さらに、英語圏のtrillionは10¹²(ここは日本と同じ)だが、大陸圏では10¹⁸を意味する。つまり、大陸圏のtrillionはとてつもない数(100京)を表現する。
million(10⁶)を起点として、英語圏では10³(1000倍単位)ごとに呼び名が変わるが、大陸圏では10⁶(100万倍単位)ごとに呼び名が変わる。ここから、英語圏は短数法(short scale)、大陸圏は長数法(long scale)を採っていると解説される。また、日本の数え方は10⁴(1万倍)ごとに呼び名が変わるから、万進法(myriad-based system)と呼ばれる。
ところが、大陸圏の長数法の体系は、10⁶単位の基本名称のほかに、10³単位の亜名称を含んでいる。たとえば、million(10⁶)の次はbillion(10¹²)だが、その中間にmilliard(e)(10⁹)がある。また、billionの次はtrillion(10¹⁸)だが、その中間にbilliard(e)(10¹⁵)がある。つまり、大陸圏では10⁶ごとの基本数に-illionが使われ、二つの基本数の中間に-illiard(e)という用語が使われる。大陸は長数法と言われているが、亜名称を考慮すると、事実上は1000倍(10³)単位の名称になるから、英語圏の1000倍単位の体系と同じではないかという疑問が生じる。
確かに、-illiardを考慮すると10³ごとの変化になり短数法と同じになる。しかし、-illionが基本数で、-illiardは派生数と理解すると、長数法のベースは10⁶と理解される。別言すれば、長数法の体系は事実上10⁶ⁿと10³の組合せ(10⁶ⁿと10⁶ⁿx10³を交互に組み合わせて)でできている。一見したところ、短数法と変わらないように見えるが、長数法が10⁶を基本とする体系だと言われる所以である。

世界の流れは10³単位

実際のビジネスの世界では英語圏だけでなく、大陸圏でも3桁(10³)ごとの区切りで数えている。それは短数法と長数法とも、10³単位で数えるのが便利だからである。金融グローバル時代以前は途轍もない大きな数値を使う必要性がなかったから、長数法で何の障害もなかった。しかし、金融市場の発展やGDP計算で途方もない数が日常生活の中で頻繁に語られるようになると、10⁶単位では幅が広すぎて一目で数の大きさを理解するのが難しい。だから、10³単位の方が使い勝手が良い。長数法より短数法で数えた方が、誤解を避けることができる。だから、イギリスは大陸式からアメリカ式に変更したのである。
 現在では、英語圏も大陸圏も、大きな数字を書くときに10³ごとに区切りを入れることがふつうになっているが、依然として、その区切りの表記に英語圏と大陸圏とので違いが存在する。英語圏(日本も含め)では3桁ごとの区切りにコンマ(,)を使うが、大陸ではピリオッド(.)を使う。たとえば、
英語圏 9,875.-
大陸圏 9.875,-

のように記す。それぞれの圏内で取引している分には問題ないが、英語圏と大陸圏相互の取引(インヴォイス発行)では、どの形式を使っているのかを確認しないといけない。だから、誤解を避けるために、数字を記すだけでなく、それに添えて言葉でも記し、誤解がないようにしている。
 しかし、これもいずれ統一的な標記になるかもしれない。その方が便利であることに間違いなく、無用な誤解を避けることができるからである。すでにコンマやピリオドに代えて、空白を入れることで、両者の曖昧さを避ける方法も取られている。これが統一的な標準形式になるかもしれない。

数をどのように数えるかは、文化や文明の発展に依存している。それぞれの数え方には長い歴史があり、それを紐解くだけで大きな書物になる。たとえば、ドイツ語が31をdreißig-ein(30と1)と表現しないで、ein-und-dreißig(1と30)と表現するはとても合理的とは言えない。一の位(くらい)を先に、十の位を後に読むのだが、一の位から数えるのは1~99までのことで、それ以後は百の位(千の位、万の位)を先に読み、最後に一の位と十の位を読む。たとえば、131(ein-hundert-ein-und-dreißig)は「100と1と30」という具合に読む。1~99までだけ一の位から読むのはとても合理的とは言えないが、それは1~99までの数字でほとんどの計算が済んだ時代の名残だろう。

慣れれば問題ないとはいえ、ドイツの子供たちが最初に計算問題を解くとき、とくに声を出して言葉で問題や回答を表現する時に困らないだろうか。効率的に計算する妨げになるのではないかと考える。ドイツ国内でもこの問題が話題になっていると聞いているが、長い年月をかけて形成されてきた言語習慣を修正するのは簡単ではない。
この事例のように、グローバル化が進んでも、数の数え方が統一されるわけではない。金融界でアラビア数字による表記を使っても、日本の数え方(表記)が消滅することもないだろう。【ブタペスト通信 2026年No. 4(1月29日)から】

「リベラル21」2026.02.06より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/
〔opinion14668:260206〕