――八ヶ岳山麓から(556)
昨年12月には、フランスのマクロン大統領、ドイツのワーデフール外相が訪中。1月にはアイルランドとフィンランドの首相が訪れた。ドイツのメルツ首相は2月25日就任後初めて中国を訪問した。
中国共産党の準機関紙「環球時報(2月25日)によると、今回のドイツ首相の訪問には、メルセデス・ベンツ、BMW、フォルクスワーゲン、バイエル、シーメンス、アディダスなど約30社のドイツ企業トップが同行した。ビジネス界の訪中参加意欲は定員をはるかに上回ったという。
従来、中国の電気自動車(EV)など補助金による輸出攻勢で、EU企業が不公正な競争にさらされたためにEUと中国との関係は悪化していた。だが、今日習近平主席もメルツ首相も互いに関係強化を望んでいる。中国は、トランプ関税の影響で昨年ドイツ最大の貿易相手国になった。ドイツにとって、対米外交の先行き不透明感が高まるなか、巨大市場を擁し重要鉱物の供給網を握る中国の存在は大きい。
トランプ米大統領は、各国に高関税で脅しをかけて譲歩を迫り、デンマークの自治領グリーンランド 領有、メキシコやカナダの合併を公言し、ロシアによる侵略の事実を無視してウクライナとロシアを天秤にかけ、ベネズエラ・マドゥロ大統領を拉致するなど、既成の国際秩序、信頼関係を破壊している。
これを中国国際問題研究院研究員の楊希雨氏は、こう評している。
「年末年始にかけての西側諸国指導者の訪中ラッシュには、現代世界の全体情勢、特に西側内部が激しい動揺と深い構造的調整を経験しているという重要な背景がある。百年に一度の大変革が加速する中、グローバル・サウスの集団的台頭が顕著な特徴となる一方で、『西側』全体としても前例のない政治的な動揺と関係再構築を経験している」
そして「『アメリカ主導、同盟国追随』という非対等な状態を維持しつつ、NATOにおけるアメリカの役割を従来の『一方的な義務型』から『双方向の取引型』にモデルチェンジをさせようとしている」という。(環球時報・2月25日)」
カナダのカーニー首相はスイス・ダヴォス会議で、アメリカとの信頼関係が崩壊しつつあるとして、「(アメリカ主導の)古い秩序は戻って来ない」と述べ、カナダを含めた中堅国の団結を呼びかけ、「強大な国が望むものを手に入れるため、経済的な強制力を駆使している」とアメリカを批判してヨーロッパ各国から支持された。
2月25日の環球時報社説は、ドイツ商工会議所の対外貿易責任者の「中国は信頼できる経済パートナーだ」「アメリカの気まぐれな行動を思えば、中国は予測可能だ」という発言を引いて、「こうした世論の出現は偶然ではなく、ドイツ、ひいてはヨーロッパ社会の心情を代弁している」と強調した。
また社説は、トランプ氏の一方的なやり方とMAGA政策によって「ヨーロッパ諸国は自らの対外関係を再検討せざるを得ない状況に追い込まれた。これに対処するためには、アメリカを超越した広い視点が必要だ」 として、「ここに世界第二位の経済大国の中国が自由貿易と多国間主義の確固たる擁護者として存在する」という。「貿易自由化の促進」はアメリカ主導でWTOが設立された時の原則である。いまやそれを中国が唱えることとなった。
もちろん、ヨーロッパ諸国が手放しで中国に接近しているわけではない。欧米日はレアアース(希土類)の供給を「武器化」する中国への依存低減を目指す方針で足並みをそろえたし、南米やインド、ベトナムとの関係強化や自由貿易協定(FTA)締結に動いている。ヨーロッパ首脳らの「訪中ブーム」はアメリカと中国の双方を睨みながらであることは間違いいない。
中国がヨーロッパ諸国の対中投資と貿易の拡大を大いに歓迎する。そのわけは、内需の低迷による深刻な経済不況である。
2025年の中国経済は成長率5.0%と目標を達成した。だが、アメリカのあるシンクタンクによれば、実際にはこの2分の1程度だという。わたし(阿部)は中国からのニュースからするとこれが事実に近いように感じる。
不況の主な原因は内需の不振、多くは個人消費の不振である。原因のひとつは、社会保障制度が貧弱だからである。国家公務員はともかく、一般の国民に必要な医療・教育・老人扶養などの保険制度は事実上存在しない。一部の金持ちを除けば、一般の中国人は家電や衣類などの買い替えを控えて、病気や老後のための貯金に回す。
2025年8月には、16歳から24歳の都市部における失業率が18.9%に達した。帰郷した失業農民工・学生は失業とはみなされないから、社会全体を考えれば、失業率は30~40%に達するのではあるまいか。
AI、EVなど政府補助金がある分野は急成長を遂げたが、数年で生産過剰による在庫に悩まされるようになった。公共投資の波及効果も疑わしくなっている。貿易は東南アジアなどへの輸出が大きく寄与し黒字になった。だが、トランプ関税戦争の影響で対米輸出は前年比23.0%の大幅減少となった。当然この分野は不況、倒産、そして失業を生む。加えて、欧米日企業の中国撤退が止まらない。理由は賃金の上昇、2023年の反スパイ法の強化、サプライチェーンの不安定化などである。
こうしたなか、2月24日中国政府は日本の防衛関連企業20社に対して名指しで輸出規制強化に踏み切った。中国はもともと高市早苗氏を極右、軍国主義者と見ていた上に、今回総選挙の自民党の大勝利によって高市氏が政権基盤を固めたとみて、日本への本格的な攻勢に出たのだ。対日輸出禁止措置は中国にとっても痛手にはなるが、ヨーロッパ各国の中国接近、とりわけドイツと関係改善、拡大によって経済的、技術的損害を補うことができる。
習近平主席にとって、ヨーロッパ諸国が対中投資を拡大し、市場門戸を大きく開放してくれればこれに越したことはない。トランプ米大統領との交渉にも有利に働くし、対日制裁も腰を据えて行うことができる。
ひるがえって高市首相の軍拡路線にとっては日中関係の緊張状態が続くのは好都合だ。中国が攻勢に出ているのだから防衛力を増強せざるを得ないと国民を説得することができる。したがって、台湾有事のあの国会答弁を撤回する気は起らない。
こうなると、中国の日本への経済的圧力は長引くと覚悟しなければならない。中国以外のルートからのレアアースの調達を図るとしても実現するまでには数年はかかる。それに日本産業界がどのくらい持ちこたえられるか。時がたてばたつほど、さまざまなトラブルが増え、問題の解決が困難になるのは目に見えている。(2026・02・28)
初出:「リベラル21」2026.03.13より許可を得て転送
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