難しいぞ、北朝鮮への対応

著者: 田畑光永 たばたみつなが : ジャーナリスト
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暴論珍説メモ(119)

 北朝鮮が12日午前、長距離弾道ミサイルを発射した。もっとも北朝鮮自身はこの発射を人工衛星「光明星」3号の打ち上げと言っており、その真偽はまだ国際的に確認されていない。いずれにしろ長距離弾道ミサイルを発射する技術を北朝鮮が持ったことは間違いない。
 それにしても、この一事をめぐる謎、巻き起こすであろう波紋は数多い。それにどう対処するかは、今のわが国にとっては多元方程式の解を求めるような難題である。

 まず北朝鮮がなぜこの時期にこのような擧に出たか、である。対外的に予告しながら、国内的にはほとんど事前の報道はなかったというからには、主眼は国際的な効果を狙ったものとも見えるが、現在、これによって北朝鮮がいかなるプラスを得られるかとなると、外部からは思いあたることがない。北朝鮮は米国との協議で、今年2月末、緊急食糧援助を引き出すことに合意しながら、4月に今回と同じことをしようとしたために、あたらその援助をフイにした。

 しかも4月には発射に失敗して国際的に大恥をかいた上に、国連安保理の議長声明で「さらなるミサイル発射には適切な行動をとる」と、制裁の事前通告までされてしまった。それを受けてこれまで北朝鮮への制裁に消極的だった中国も、今回の発射には反対の態度を明らかにし、現に12日の発射直後に外交部スポークスマンは簡単ながら「遺憾の意」を表明した。現状では杖とも柱とも頼みとする中国の意向に背いてまで、今回の発射に踏み切った目的は何なのか、首を傾げざるを得ない。
 とすると、国内的効果をねらったものか。それなら分からないことはない。4月の失敗は、今年「強盛大国の大門を開く」という国是に汚点をつけてしまったから、金正日の1周忌、金正恩の権力掌握1周年の機会に、権力への求心力を強めるためのリカバリー・ショットである。

 しかし、それにも疑問が残る。もしそうであるなら、失敗に備えて事前の宣伝は控えたにしても、発射成功の際の慶祝行動を十分に用意したはずである。確かに12日昼にはピョンヤンの国立劇場前の大通りで、おそらく演劇関係者と思われる一群の人たちが着飾って踊る姿がテレビの映像で流された。しかし、あの場所はピョンヤン市内でもがらんとしたところで、普段から人通りも多くない。現にテレビの画面でもまわりにはほとんど人はいなかった。「出演者たち」が急遽かり出されたことは一目で見て取れた。今後、どのような宣伝が繰り広げられるかは不明だが、国内効果説にも疑問がある。
 
一方、今度の発射で周到な計算が行われたらしいのは、情報操作である。発射予告期間に入った10日に、北朝鮮は「1段目のエンジン制御システムに欠陥を発見した」と異例の公表を行うと同時に発射予定期間を29日まで1週間延長した。翌11には韓国の情報としてミサイルを発射台から撤去したという情報が流れた。これでは誰しも発射はかなり延期されると予測する。そうした上ですぐさま12日に発射というのは一体どういうことだろう。1種の愉快犯の如くでさえある。
 日米韓を油断させて、イージス艦やPAC3に撃ち落とされないようにしたという解説もあったが、それならもうすこし間をあけて、いかにも故障が本当のように見せたほうがいいのではないかなどと素人推理までしたくなる。

 はっきりしていることは、韓国の情報機関がこれで大きな打撃を受けたことだ。12日、韓国国防省は記者会見での応対に苦しんだと伝えられた。ひょっとすると、大統領選挙の投票日が間近にせまったところで、わざと韓国情報部門にガセネタを流して、与党のパククネ候補に打撃を与えようとしたと考えられなくもないが、なんだか話が迂遠である。

 さて、今後はどういう動きになるのだろうか。4月の議長談話もあり、当面、国連安保理が舞台になるだろうが、韓国は恥をかかされたこともあり、おそらく強硬に出るだろう。中国は習近平体制が出来たばかりで、対北朝鮮政策に変化がみえるか、態度が注目される。

 日本はその韓国とも、中国とも、今、関係はよくない。こういう第3国との問題を足掛かりに中韓両国との関係を平時のそれに近づけられれば好都合だが、その中韓の態度が大きく食い違ったような場合には、身の処し方が難しくなる。
 すでに総理になったような気分らしい自民党の安倍総裁は12日の選挙演説で、北朝鮮に「より厳しい制裁を」と威勢のいいことを言っていたが、あまりに先走らないように願いたい。

初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
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