国家機密保護は、誰のため、何のため?

著者: 加藤哲郎 かとうてつろう : 一橋大学名誉教授・早稲田大学客員教授
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かと 2014.10.15  前回トップは、「自然に対する驕りは、いのちの倍返しを受ける」でした。御嶽山噴火に続いて、2週続けて大きな台風到来です。東日本大震災で津波に襲われた宮城県石巻市、岩手県釜石市にも非情の雨、仮設住宅住まいで被害を受けた方もいるようです。その雨で、福島第一原発の井戸では、過去最高のセシウム濃度の地下水が検出されました。地震も続いています。こんな国が、太陽光・地熱など再生エネルギーの普及を電力会社が妨害し、原子力発電所を再稼働させる方向を許していいのか、改めて議論する必要があります。読書の秋です。この夏読んだ原発関連書。雑誌『NONUKE VOICE』創刊号は秀逸です。今中哲二、小出裕章さんの発言はもちろんですが、たんぽぽ舎や経産省テントひろばの報告など、脱原発運動の現状報告も貴重です。小倉志郎『元原発技術者が伝えたいほんとうの怖さ』(彩流社)は、現場を知るエンジニアならでの具体的な話が満載で、「科学」と「技術」の関係を改めて考えさせられます。歴史分析では、中嶋久人『戦後史のなかの福島原発』(大月書店)、私の『日本の社会主義ー原爆反対・原発推進の論理』(岩波書店)とはやや異なる地域開発の視点からですが、3・11の衝撃を受けて、狭い意味での「専門研究」を中断して真摯に問題に取り組んだ学問的勇気に敬服し、共感します。

かと 特定秘密保護法が、いよいよ12月10日に施行されます。「運用基準」は、またしても閣議決定。パブリックコメント2万3800件から「報道・取材の自由、知る権利」を一応踏まえたかたちになってはいますが、「国際社会の平和と安全の確保」など「特定秘密」の範囲は抽象的で「特定」されていません。実際の運用をチェックする管理官は、内閣府の身内です。憲法上の「集団的自衛権」すら、閣議決定後に日米防衛ガイドライン改訂に具体化し、海外での参戦に向かっているのですから、「自衛隊の訓練・演習」以下自衛隊の動きが全55項目中19項目を占める「指定対象」公文書は国家機密、「国民の知らぬ間に参戦」さえありえます。ここは、新聞・テレビなどマス・メディアの踏ん張りどころですが、その日本のメディアが萎縮し、権力監視機能を衰退させつつあります。9月の朝日新聞社長会見以来、「朝日バッシング」は新聞・週刊誌から月刊誌におよび、安倍内閣の右傾化を報じる海外のメディアから、憂慮されています。慰安婦問題を報じた元朝日新聞記者の勤務する大学にまで、脅迫状がきて辞任に追い込まれ、言論の自由は危機に瀕しています。日本弁護士連合会や日本ペンクラブは、特定秘密保護法施行に直ちに声明を出しましたが、日本新聞協会は、韓国政府の産経新聞前ソウル支局長の在宅起訴には抗議声明を発しても、自国の異常な言論状況には沈黙です。私たちはすでに、危機の中にあります。

かと 11月8日(土)午後1−5時、明治大学リバティータワー地下1階1001教室で、「ゾルゲ・尾崎処刑70周年:新たな真実」と題する国際シンポジウムが開かれます。昨年の上海に続く、日露歴史研究センター主催の第8回国際シンポジウムで、コーディネーターは日露歴史研究センター代表・白井久也さん、パネリストに、ゾルゲ・尾崎秀実の上海時代を初めて旧ソ連第一次資料で本格的に解明したロシアのミハイル・アレクセーエフ・ロシア軍事史公文書館員、上海時代を中国側資料から論じる上海復旦大学・蔵志軍教授、それに、日本側から社会運動資料センター・渡部富哉さん、作家でゾルゲ事件の小説執筆中の小中陽太郎さん、それに今春『ゾルゲ事件』(平凡社新書)を公刊した私です。このほかにも、中国・ロシア・オーストラリアから、セルビアからはブランコ・ブーケリッチ遺児・山崎洋さんも、来日するとのことです。そこに報告する、シベリア抑留帰還者とゾルゲ事件元被告の「第二のゾルゲ事件」「戦後ゾルゲ団」の問題を準備していて見いだしたのが、サンフランシスコ講和条約による独立直後、1953年国会での「スパイ防止法」論議でした。ちょうど米ソ冷戦さなか、熱戦・朝鮮戦争中で、米軍による鹿地亘監禁事件などがおこっていた時期です。どうやら日米安保条約で独立国日本に基地を残した米軍は、ソ連の対日スパイ組織、シベリア抑留帰還者のなかに送り込んだエージェントを警戒し、日本国憲法中心の民主化された法体系に、早くも不満を持っていたようです。当時はレッドパージされたりした、日本のジャーナリストたちも果敢にたたかい、「スパイ防止法」制定を許さなかったのですが、まもなく施行される特定秘密保護法は、60年後の日米支配層による悲願達成の意味を持ちます。集団的自衛権行使とワンセットで使われる可能性大です。そんな歴史に学ぶためにも、ご関心の向きはぜひご出席ください。長くなったので、「ノーベル賞の政治学」の話題は次回に。

 

初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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