改憲挫折への希望を強めた憲法記念日(上)

著者: 坂井定雄 さかいさだお : 龍谷大学名誉教授
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今年の憲法記念日、安倍政権が画策する憲法前文と第9条の改悪を挫折させる希望を強めた日となった。憲法改悪に反対する多数の世論が、改悪支持の世論を上回る現実が定着しており、前文と9条改悪には触れずに、反対が弱そうな変えやすい条項の“お試し改憲”で国会議決、国民投票の突破口を開こうとする安倍政権の狡知も、国民に大方ばれてしまったことが明らかになった。わたし自身の新聞、テレビの報道チェックは限られているが、いくつかの出来事や報道を記録しておきたい。

(1) 9条改悪反対多数が定着
朝日新聞世論調査では、憲法9条について「変えない方がよい」が63%、「変える方が良い」の29%を大きく上回った。昨年はそれぞれ64%と29%で、2対1以上の比率が定着したといえる。女性は「変えないほうがよい」が69%だった。また、憲法そのものを変えることの是非については、「変える必要がない」が48%(前年50%)、「変える必要がある」43%(同44%)だった。さらに、「憲法第9条を変えやすくするために、まず国民の賛成が多い条項を変えて、国民に憲法を変える手続きに慣れてもらう、という考え方について」は、「評価する」が32%、「評価しない」が60%だった。
NHKの世論調査では、憲法9条を変えることの是非について「必要ない」が38%、「必要ある」が22%で、2対1弱、「どちらともいえない」が34%だった。また、憲法改正そのものについては「必要ない」が25%、「必要ある」が28%、「どちらともいえない」が43%だった。「必要ある」は昨年より14ポイント減っている。このことは、憲法のどこかを“改正”する必要を強調して、国民の”改正“ハードルを低めようとする狡知に気づいた回答者が、大きく増えたことを示している。
安倍政権が閣議決定で憲法解釈を変更し、集団的自衛権の行使を容認したことについてはー
朝日新聞の世論調査では、「適切だった」が24%、「適切でなかった」が67%。NHKの世論調査では「賛成」が22%,「反対」が30%、「どちらともいえない」が42%。またNHK調査で、「政府がその理由を十分説明しているか」については、「十分説明している」が2%、「ある程度説明している」が30%、計32%なのに対し、「あまり説明していない」が49%、「全く説明していない」が12%、計61%だった。

(2) 立ち直った朝日新聞
閣議決定による集団的自衛権の行使容認、「積極的平和主義」の主張、米議会での安保関連法制の確約など、憲法前文と9条を改悪し「戦争放棄の平和国家」を「米国の戦争に参加する同盟国」に変えようとする安倍政権の意図が露骨に明確になる中で、朝日新聞は昨年のバッシングから立ち直った、あるいは立ち直らざるを得なかったと、安倍首相の訪米と憲法記念日をめぐる報道でも感じた。甘いだろうか。バッシングのさなか、本欄でも「朝日頑張れ」と書いたが、あらためて、そう訴えたい。
5月3日の社説「安倍政権と憲法―上からの改憲を跳ね返す」は、「またも裏口から」「だれへの『押し付けか』」「棄権でなく拒否権を」の中見出しを入れ、「昨年の9条の解釈変更から明文改憲へと向かう自民党の試みは、権力への縛りを国民への縛りに変えてしまう立憲主義の逆転にほかならない」と指摘。「戦後70年。いま必要なのは、時代に逆行する動きに、明確に拒否の意思を示すことだ」と結んでいる。
同日の1面トップ記事では「首相、改憲へ迂回戦略」で、いかにも政治部記事らしく、首相の改憲戦略を解説しているだけだが、左肩の「座標軸」では、安倍首相が盛んに宣伝し、自民党内では「憲法に盛り込もう」という声もある「積極的平和主義」について、大野博人・論説主幹が「連帯なき『積極的平和主義』」で厳しく批判している。
憲法前文と9条を尊重する紙面づくりは、政治面だけでなく、社会面、オピニオン面でより活発だ。2日のオピニオン面の声欄では憲法前文を三様の投稿と共に載せている。
連日、第2社会面やオピニオン面で、護憲の立場から発言する人々は、声欄の読者を別にして、今年になってからだけでも数百人になるだろう。「あ、この人もだ」と毎日のように思う。例えば、5月5日の菅原文子さん。昨年11月に亡くなった俳優菅原文太さんの妻。米軍普天間飛行場の辺野古移設を阻止するための「辺野古基金」の共同代表。「現政権への不服従を示すため」に代表を引き受けた思いと、文太さんと平和について語った日々を振り返ったー
「沖縄の基地問題は、憲法や人権問題なのです。戦後70年間耐えてきて『もっと我慢しろ』という権利が誰にあるでしょう。税金を払うものとして、諸外国との同盟のために国民の生活を軽んじる政治姿勢に信託することはできません。
晩年、菅原は、集団的自衛権の行使を容認する閣議決定をし、安保法制の整備を進める安倍政権の動きを心配していました。『子どものころの雰囲気に似てきた』と。軍国主義時代に生まれ育ち、死ぬときも軍事国家に向かおうとする国で一生を終えるのか、と先行きを憂えていました」

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