報道によれば、オルバン首相は中国習近平国家主席と電話会談を行い、習主席からの中国への招聘を受けたとされている。電話会談を通して、シノファーム製のワクチン輸入がさらに加速されることになった。
中国からの借入と中国企業との共同で施行されるブダペスト-ベオグラード鉄道再建工事、マスク・人工呼吸器・ワクチンの輸入だけでなく、復旦大学(上海)キャンパス開校の国家協定を締結したハンガリーは、ますます中国への依存を高めている。中国にとって、EU内に大学キャンパスを開校できる、願ってもないチャンスが生まれた。セルビアとともに、欧州における中国の橋頭堡を提供してくれるオルバン首相は国を挙げて歓迎しなければならない政治家なのだ。
瀬戸際外交の出発点
2015年の難民・移民流入問題発生以後、オルバン政権は東の大国へ擦り寄る姿勢を見せて、EUの大国を牽制してきた。中東欧の小国ハンガリーにとって、政策の正当性を訴える方法は限られている。2015年の膨大な難民・移民の流入に際して、EU大国の無条件受入れに徹底的に対抗して、難民・移民の強制割当を排除してきた。しかし、難民・移民受入れの圧力は依然として高い。それがトランプ大統領、エルドガン大統領、プーチン大統領等の専制的政治家を積極的に支持する外交政策を生み出した。「ハンガリーの意思を無視すれば、東の大国に頼る」という姿勢を見せることで、EU大国の圧力を交わす意味があった。
しかし、いったん東の大国へ寄り添ってしまうと、中途半端で終わらせることができない。ロシア制裁に反対意見を述べ、中国の香港国家保安維持法やウィグル族抑圧を非難するEU声明に賛同せず、トルコのクルド民族への攻撃を支持する姿勢は、EUの理念と乖離していく。欧州議会の人民党グループの政党から、ハンガリーはEUから離脱すべきだという声を聞かれる。人民党グループで資格停止処分を受けていた政権党FIDESZ(フィデス=ハンガリー市民同盟)はこの4月、人民党グループから離脱して、右派政党が集まるグループに所属することになった。ただ、FIDESZ幹部はフランスのルペン勢力とは協調しないという。ハンガリーがEU懐疑論に取り込まれたくないからだという。EUから受ける特典だけは手離したくないということである。
しかし、ハンガリーはEUの理念と東方政策とのバランスをとる難しい局面に立っている。
東方政策は実利を伴う
ロシアや中国のような発展途上国との取引は巨額の裏金を作るチャンスを与えてくれる。シノファームとのワクチン購入契約(560億Ft=フォリント、およそ200億円)は、急造した商社(実際の所有者が不明)を通して行われた。その商社からハンガリー政府が買い上げるワクチン価格は西側のワクチンの2倍に設定された。中国が発展途上国へ輸出しているワクチンは西側のワクチンより低く価格設定されている。明らかに、仲介会社を経由した国家資金の詐取である。FIDESZは政権交代に備えて、各種の財団を設立して資金を貯め込んでいるが、そうした資金の創出だと考えられなくもない。あるいは、このスキームを考案した政治家と実業家が、利益を分け合っているとも考えられる。
人工呼吸器の輸入でも、ほぼ同額のお金が動いている。実際の輸入情報は公開されていないが、1万台近くが倉庫に眠っており、倉庫の賃料が月額9000万Ftになるという週刊誌情報が流れている。このビジネスもきわめて不透明である。ワクチンと同様に、人工呼吸器輸入事業も国家資金詐取の道具にされている。
実は、2013年にハンガリー政府が始めた「定住権付き国債」発行が、中国ビジネスの出発点である。このスキームは世界向けだと公表されたが、実際には9割方ロシアと中国の富裕層を相手にしたビジネスで、中国向けとロシア向けの仲介会社(タックスヘイブン地に登記)が大儲けした。この取引で発生した仲介利益は700億Ft~1200億Ft(およそ300億から500億円)に上るとされるが、この儲けがどこへ流されたのか不明である。もちろん、このようなお金はハンガリーではなく、タックスヘイブン地の銀行口座に振り込まれているはずである。
これを発案したのはロガーン(現大臣官房長官)で、各種の黒いうわさが流れる中、羽振りの良い彼の生活はこうした裏金支えられている。巨額の富を稼いだロガーンは2人目の夫人に財産分与して、ミスコンテストに出場したこともある若い女性を3度目の結婚相手に選んだ。前妻や現在の妻の財産形成をめぐって、野党政治家が欧州不正監視局(OLAF)に告発している。
ブダペスト-ベオグラード鉄道建設を一手に引き受けたハンガリー企業は、すべてメーサーロシュ企業集団に属する会社である。オルバン首相と同郷で、一介のガス配管工からハンガリーの億万長者番付トップに躍り出たメーサーロシュは、次から次へと公共事業と補助金を受け、数年間で長者番付トップになった人物である。彼はプライベートジェットを所有しており、FIDESZ政権幹部たちが共同で利用している。オルバン首相がワールドカップ観戦に出かけた時も、このジェットを使っている。最近、メーサーロシュは離婚し、TV司会者(Varkonyi Andrea・掲載写真)と交際していると報道されたが、プライベートジェットでドバイからブダペストの空港へ降り立ったところを写真撮影されている。
メーサ―ロシュと同様に、公共事業で焼け太りしたスィリ・ラースローはモナコに豪華ヨットを保有しており、昨夏にスィーヤルトー外務大臣の家族がそのヨットで地中海クルーズを楽しんでいたことが報道された。当時、スィーヤルトー外務大臣はこの事実が漏れないように、ヨット滞在中の期間に、執務室で仕事をしている写真を添えたSNSを発信していた。なんとも姑息なことである。ハンガリーからモナコまでどのように移動したのか気になるが、まさか鉄道を使ってモナコまで行ったとは考えられない。共同使用のプライベートジェットを使ったのだろう。
ガス配管工から億万長者になったメーサ―ロシュとヴァルコーニィ・アンドレアのドゥバイ婚前旅行
そういえば、オルバン首相と懇意になり、映画制作の政府委員を任命されたかつてのハリウッドのプロデューサーであるヴァイナ・アンドラーシュは映画を制作しただけでなく、カジノを所有し、ニューヨーク・NOBUレストランのハンガリー店を所有していた。2015年にヴァイナ・アンドラーシュと結婚したハンガリー人モデル嬢ヴァイナ・ティメアは、アンドラーシュが2019年に死去したために、巨額の遺産を相続することになった。その後、彼女はSNSで、飼い猫の治療のために、プライベートジェットでニューヨークに行ってきたことを報告している。彼らは皆同じ仲間である。
オルバン首相の女婿(長女の夫)ティボルツ・イシュトヴァーンがEU補助金を使った事業を一手に引き受けて一躍巨額の富を稼いだが、欧州不正監視局から詐欺犯罪を指摘され、オルバン首相が慌てて補助金申請を引き下げ、ハンガリーの国家予算から女婿の事業収益が補填された。公共放送では一切報道されないこのニュースは、ELIOS事件としてよく知られている。ティボルツはこの種の補助金事業で稼いだお金で、ハンガリー各地の古い館やお城を買い漁っている。つい最近、彼が所有するキャッスル(古城)ホテルが営業していることが暴露された。1本60万円のシャンパンや高級ワインが用意されているという野党政治家の直撃レポートがネットに公開された。営業自粛期間にもかかわらずホテルを営業していると警察に通報され^たが、宿泊客はすべてビジネス客だから、違反はないということで一件落着した。このホテルでは主としてロシアの富豪を受け入れているようだ。事前に、「ビジネスのための宿泊」という既定の用紙を提出することで、アリバイを作っているという。古城ホテルに仕事で宿泊するビジネスマンなどいない。このロシアの富豪たちは、やはり「定住権付国債」販売のルートからコネをつけたものだろう。
政権政党の一部政治家や、政治家とつるんだ一部実業家の強欲と贅沢三昧生活は社会党政権時代の政治家の生活をはるかに超えるものである。社会党政権の腐敗を批判して政権を奪ったFIDESZだが、「権力は腐敗する」という法則の貫徹から逃れることはできなかった。権力とお金が人を変えてしまう。何ともため息がでることだ。
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