EUの対ロシア第 6 次制裁には、ロシア産の原油輸入だけでなく、プーチン政権に協力 する個人資産の凍結と EU 内への渡航禁止の新たな制裁リストも含まれる。原油の輸入禁止だけでなく、制裁対象リストをめぐっても、ハンガリーが拒否権を発動したことが報じ られている。拒否権を連発するハンガリーにたいし、他の EU 諸国は食傷気味になっており、ハンガリーへの反発がさらに大きくなり、ハンガリーを孤立させる方向が顕著になってきた。
キリル総主教制裁へ拒否権発動
ハンガリーが拒否権を発動したのは、プーチンの盟友と目されるロシア正教会キリル総主教への制裁である。ハンガリーの拒否権発動によって、総主教は個人制裁リストから外された。ハンガリーの反対理由は明確でないが、オルバン首相は「宗教の自由」擁護の立場から、リスト掲載に反対したとされる。この点は非常に興味深い。
ハンガリー国内でもオルバン政権は宗教界からの支持を得るために、キリスト教を掲げる弱小政党と連携を強め、2010 年の政権獲得以降は教会への援助を大幅に増やして教会 勢力の絶対的支持を獲得している。宗教界を政治的に取り込む点では、プーチン政権と同じである。宗教の自由を守るというより、政治と宗教との関係を詮索されたくないというのが最大の理由だと思われる。
キリル総主教の制裁リスト掲載に拒否権を発動したことにたいし、EU 各国はハンガリーへの反発を強めている。ポーランドはもうハンガリーと対 EU の共同戦線を張ることはで きないと考えており、ポーランドとハンガリーの蜜月は終焉を迎えている。これを見越してか、EUのフォンデアライエン委員長は、ハンガリーとともに、第7条制裁にもとづく調 査対象になっているポーランドを訪問し、凍結されているコロナからの復興資金の凍結解除を示唆している。それに対応して、ポーランド政府も欧州員会からの是正指示に沿 うように、裁判官の任命拒否権や罷免権を修正する法案を用意して対応しようとしている。
他方、ハンガリーの非協調路線が続く限り、EUとしても性的少数者への法的対応やメディア支配等にたいするハンガリーへの是正勧告は、ますます妥協不可能なものになり、小手先の対応で凍結解除が容認される域を超えてきた。したがって、巨額のコロナ復興支援金凍結が解除される見通しはなく、ハンガリーは EUからの 補助金を失う可能性が大きい。それだけでなく、将来的なエネルギーシステムの転換補助金を得ることも難しくなっている。「ハンガリーがそれほど自国の利益に拘るなら、自力でやりなさい」ということだ。 EU 内でのハンガリーの孤立化が進むことになろう。
独裁者オルバンへの感情的反発
ハンガリーの対応にたいし、オーストリア公共放送 ORF(Österreichischer Rundfunk)の管理職にある Karl Pachner氏 が、6 月 1 日夜に facebook 上に、「オルバン首相が心臓発作かなにかで辞任して、ロシアやトルコの独裁者とともにいなくなれば、世界は良くなる」と投稿したことが、外交問題になっている。投稿はすぐに削除されたが、ハン ガリー政府は Karl Pachner氏 の辞任を求め、他方 ORF 会長は Pachner を休養扱いにし、 今後の対応を検討している。
実際問題として、EU 内でオルバン首相はプーチンの盟友と見なされており、プー チンの暗殺を願う人々が多いように、プーチンを助けるオルバン首相への感情的反発も強い。キリル総主教への制裁拒否を貫いたオルバン首相への風当たりは強く、ハンガリーの自国優先主義が、EU内での孤立化に拍車をかけている。
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