阿部浪子の執筆一覧

書評 『おらおらでひとりいぐも』 若竹千佐子・著 河出書房新社・刊

著者: 阿部浪子

 日高桃子が、もし標準語で話していれば、この小説はどうなっていたろう。『おらおらでひとりいぐも』の主人公が、東北弁でなく、標準語で話す。  想うに、日高桃子は、もっと魅力的な女性になっていなかったか。さらに、著者・若竹千

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『“目覚めよ”と呼ぶ声が聞こえる』片山郷子・著 鳥影社・刊

著者: 阿部浪子

 現代人は不安を背負っているという。とりわけ、老後の不安とはどのようなものか。片山郷子の第6作品集には、その心情がこまやかに描かれている。胸に染みいる、詩1編と小説5編だ。老若男女を問わず、自分のこととして多くの人に読ん

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書評『若き日の日野啓三―昭和二十年代の文業』山内祥史・著 和泉書院・刊

著者: 阿部浪子

 どのような文学的プロセスを経て、作家・評論家は誕生するのだろうか。文芸評論家としてデビューし、のちに小説家として活躍した日野啓三について、著者、山内祥史氏は、その経過をたんねんに追跡している。本書では、日野啓三の昭和2

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書評『雨のオクターブ・サンデー』難波田節子・著 鳥影社・刊

著者: 阿部浪子

 難波田節子氏の描く小説集からは、心と心の触れ合いが浮上してくる。私たちは自分が、他人からうける影響は手につかめても、他人にあたえるそれはわかりにくいものだ。日本と異国を舞台にしながら、人と人との交流をとおして、6編のド

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『愛と痛み 死刑をめぐって』辺見庸・著 毎日新聞社・刊

著者: 阿部浪子

 なぜ考えようとしないのか。著者、辺見庸氏は、個をなくし世間に埋没して生きる私たちの日常の怠惰を、激しくたたいてくる。個がないところに愛はありえないと言う。  著者は、脳障害で入院中に愛と痛みについて思いをめぐらし、無価

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『深沢七郎外伝―淋しいって痛快なんだ』新海均・著 潮出版社・刊

著者: 阿部浪子

「楢山節考」で作家デビューした深沢七郎といえば、嶋中事件を思いうかべる読者もいるだろう。1960年12月の「中央公論」に掲載された、深沢の「風流夢譚」が右翼を刺激し、発行元の社長宅が襲われお手伝いが殺されたのである。深沢

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『文学地図 大江と村上と二十年』加藤典洋・著 朝日選書

著者: 阿部浪子

 ここ20年の間に、日本の文芸がどんな動きを示し、著者加藤典洋氏がどんな観察を行なってきたか。諸作品と真摯に付きあいつつ書かれた時評と評論は、文学の面白さをたっぷり気づかせてくれる。とりわけ「関係の原的負荷」という、親殺

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