⑬コロムビア・トップの二男 赤色のヒガンバナの花をみると、不吉な感じがする。なぜだろう。いつもの散歩道をいくと、田んぼのあぜに何本か咲いていた。20年も前の10月、まきこさんと埼玉県日高市内のヒガンバナの群生地をたずね
本文を読む阿部浪子の執筆一覧
リハビリ日記Ⅲ ⑪⑫
著者: 阿部浪子⑪ふたたび、運命鑑定家と向田邦子のこと しずかな田舎道を歩いていると、花の香りがしてくる。草の匂いもする。化学肥料の匂いもする。ある家の庭までくると、あまい香りがしてきた。濃緑のおおきな葉っぱのあいだから、うすい褐色の
本文を読むリハビリ日記Ⅲ ⑨⑩
著者: 阿部浪子⑨運命鑑定家と出会う 早朝からセミたちの声がかしましい。きょうも猛暑になりそうだ。外歩きに出かける。田んぼ道をいくと、ツユクサがかたまって咲いていた。昼になるとしぼんでしまう雑草だが、うすい青色の花たちは、朝のすがすが
本文を読むリハビリ日記Ⅲ ⑦⑧
著者: 阿部浪子⑦学問に生きる わが家の庭には、何本ものクチナシの木が植えてある。いま白い花たちが咲きそろう。雑然たる庭には、クチナシの楚々としたたたずまいが一段とうつくしい。ハナミズキ、ユリ、ヤマボウシと、白い花の季節だ。 発病し
本文を読むリハビリ日記Ⅲ ⑤⑥
著者: 阿部浪子⑤娘はひとり何役? 3月。きょうは暖かい日だ。冬眠から覚めた気分だろうか。ぽかぽか陽気にさそわれてマクドナルドへ出かける。あまりの寒さに手足がかじかんで、徒歩の遠出はひかえてきた。途中2か所のバス停のベンチで休んだ。マ
本文を読むリハビリ日記Ⅲ ③④
著者: 阿部浪子③タウン情報誌の編集長 雨のあいまを縫って、わたしは地元の新津小学校へむかった。風がつよくて吹きとばされそうになる。校門の右側に、むかしはでっかい富士山が見えた。いまは見えない。きょうは衆議院議員選挙の投票日だ。入場券
本文を読むリハビリ日記Ⅲ ①②
著者: 阿部浪子①孫育て 真夏日の午前、わたしはS病院のリハビリ室をたずねた。7か月ぶりだった。S病院は浜松市内にある、リハビリテーション専門の病院だ。脳内出血を発症してから1年2か月が経過していた。わたしは、S病院を退院してから介護
本文を読む書評 『おらおらでひとりいぐも』 若竹千佐子・著 河出書房新社・刊
著者: 阿部浪子日高桃子が、もし標準語で話していれば、この小説はどうなっていたろう。『おらおらでひとりいぐも』の主人公が、東北弁でなく、標準語で話す。 想うに、日高桃子は、もっと魅力的な女性になっていなかったか。さらに、著者・若竹千
本文を読むリハビリ日記Ⅱ ⑤⑥
著者: 阿部浪子⑤ひとりごとの反抗 浜松祭りはすでに終わった。そとは木々が青葉若葉に変身して、まばゆいばかりだ。どこか公園を散策したい。しかし、わたしはまだ、囚われ人みたいなもの。 だれだろう。〈ひずるしいから、カーテンを引いてく
本文を読むリハビリ日記Ⅱ ③④
著者: 阿部浪子③音声入りパソコンと作品集 窓ガラスから田んぼが見える。水をたたえて、すがすがしい。苗が日ごとに成長していく。もう、こんな季節なのか。しばらく、わたしはつえを左手にたたずんでいた。毎朝、この場所にきて、かかと上げの練習
本文を読むリハビリ日記Ⅱ ①②
著者: 阿部浪子①再会のよろこび ここは浜松市内のRケアセンターだ。太平洋沿岸の小さな町にある。発足から15年の建物は、津波ひなんビルに指定されている。 2017(平成29)年1月、わたしは、リハビリテーション専門のS病院を退院して
本文を読む辺見庸Ⅲ―わたしの気になる人⑬
著者: 阿部浪子耳を澄ませば、くつの足音がする。辺見庸のエッセイ集を読みすすめれば、その足音はしだいに高く、高く聞こえてくるのである。 2001(平成13)年3月、辺見庸のエッセイ集『眼の探索』は、文庫化されている。この角川文庫を、
本文を読む『“目覚めよ”と呼ぶ声が聞こえる』片山郷子・著 鳥影社・刊
著者: 阿部浪子現代人は不安を背負っているという。とりわけ、老後の不安とはどのようなものか。片山郷子の第6作品集には、その心情がこまやかに描かれている。胸に染みいる、詩1編と小説5編だ。老若男女を問わず、自分のこととして多くの人に読ん
本文を読むリハビリ日記
著者: 阿部浪子リハビリ日記①―故郷の変貌 海の遠鳴りは、夜のしじまをぬって、わが生家まで伝わってはこなかった。あんなにも、乙女心をせつなくさせたのに。 この国の高度経済成長は、田や畑や沼をビル群に変えてしまった。ビル群は、米津海
本文を読む河野多麻―わたしの気になる人⑫
著者: 阿部浪子クチナシの花の香りがただよう季節になると、河野多麻のすがたが胸に浮かんでくる。背がすらりと高かった。ほの白い顔にうっすらピンク色がさしていた。〈勉強しても、しすぎることはありませんねぇ〉このことばも忘れがたい。学問の研
本文を読む有賀喜代子―わたしの気になる人⑪
著者: 阿部浪子朝のラジオから、心理カウンセラー、内田良子さんの声が流れてきた。NHKの子ども教育相談の番組で聞きなれた声だ。2006(平成18)年11月のこと。同局の日曜討論で内田良子は、文部科学大臣をむこうに、子どもたちのいじめの
本文を読む書評『若き日の日野啓三―昭和二十年代の文業』山内祥史・著 和泉書院・刊
著者: 阿部浪子どのような文学的プロセスを経て、作家・評論家は誕生するのだろうか。文芸評論家としてデビューし、のちに小説家として活躍した日野啓三について、著者、山内祥史氏は、その経過をたんねんに追跡している。本書では、日野啓三の昭和2
本文を読む書評『トラや』南木佳士・著 文藝春秋・刊
著者: 阿部浪子トラちゃんが死んだ。焼香におとずれた近所の人に、正座した息子たちは、涙をシャツのそででふきながらあいさつする。この場面に思わず、わたしはもらい泣きしていた。 猫のトラは、小学生の息子たちが成人するまで一家統合の要だっ
本文を読む書評『日の砦』黒井千次・著 講談社・刊
著者: 阿部浪子黒井千次氏の連作短編は、サラリーマンだった主人公の、定年退職後の日常が展開する。 近隣を歩いては、彼は街のイメージを発見する。こんな地域をバックに暮らしていたのか、驚きもある。また、家族との団らんが彼を満ち足りた気分
本文を読む書評『雨のオクターブ・サンデー』難波田節子・著 鳥影社・刊
著者: 阿部浪子難波田節子氏の描く小説集からは、心と心の触れ合いが浮上してくる。私たちは自分が、他人からうける影響は手につかめても、他人にあたえるそれはわかりにくいものだ。日本と異国を舞台にしながら、人と人との交流をとおして、6編のド
本文を読む『動かぬが勝』佐江衆一・著 新潮社・刊
著者: 阿部浪子江戸を舞台に展開する人生ドラマがおもしろい。著者佐江衆一氏の7つの短編は、読みながしては、そのすばらしさは味わえないだろう。 表題作「動かぬが勝」には、商人だった隠居が身をもって気づいていくプロセスが描かれる。60歳
本文を読む辺見庸Ⅱ―わたしの気になる人⑩
著者: 阿部浪子「辺見庸ブログ」が11月10日から再開した。「私事片々」の写真は、またも、あざやかだ。さまざまな、空のいろと雲のかたちに、かすかに陽が差している。私たちに何かを問うてくる。訴えかけてもくる。 とりわけ、わたしは「日録1
本文を読む『愛と痛み 死刑をめぐって』辺見庸・著 毎日新聞社・刊
著者: 阿部浪子なぜ考えようとしないのか。著者、辺見庸氏は、個をなくし世間に埋没して生きる私たちの日常の怠惰を、激しくたたいてくる。個がないところに愛はありえないと言う。 著者は、脳障害で入院中に愛と痛みについて思いをめぐらし、無価
本文を読む『陽子の一日』南木佳士・著 文藝春秋・刊
著者: 阿部浪子主人公の「陽子」は、信州の総合病院に勤めて30年になる。男をあてにせず未婚をとおして育てあげた男子は保健師になり、独立した。現在、陽子は独り暮らしだ。病院では外来と人間ドックの診療に専念する。還暦をむかえ自身の周りに築
本文を読む『深沢七郎外伝―淋しいって痛快なんだ』新海均・著 潮出版社・刊
著者: 阿部浪子「楢山節考」で作家デビューした深沢七郎といえば、嶋中事件を思いうかべる読者もいるだろう。1960年12月の「中央公論」に掲載された、深沢の「風流夢譚」が右翼を刺激し、発行元の社長宅が襲われお手伝いが殺されたのである。深沢
本文を読む『文学地図 大江と村上と二十年』加藤典洋・著 朝日選書
著者: 阿部浪子ここ20年の間に、日本の文芸がどんな動きを示し、著者加藤典洋氏がどんな観察を行なってきたか。諸作品と真摯に付きあいつつ書かれた時評と評論は、文学の面白さをたっぷり気づかせてくれる。とりわけ「関係の原的負荷」という、親殺
本文を読む大久保友紀子―わたしの気になる人⑨
著者: 阿部浪子大久保友紀子は、白いコートにブルーのスカーフを巻いていた。知的で美しい人という印象をうけた。友紀子の長年の友だちで作家の大井晴の仲介により、わたしは友紀子に会ったのだった。72歳の友紀子は、共産党を離れていた。〈男に食
本文を読む日野啓三―わたしの気になる人⑧
著者: 阿部浪子その日、作家の日野啓三は、スリムなからだに、うすい黄緑色のワイシャツを着ていた。ネクタイはなかった。おしゃれな人だ。とっさにそう思ったのを、わたしは覚えている。他人への接し方がていねいな人でもあった。ものしずかな口調も
本文を読む一ノ瀬綾―わたしの気になる人⑦
著者: 阿部浪子第16回、田村俊子賞を私家版『黄の花』で受賞したのが、作家の一ノ瀬綾氏である。1976(昭和51)年、彼女43歳のことだ。現在、一ノ瀬綾は、長野県佐久市の老人ホームに住んでいる。佐久は作家、深沢七郎が愛したまちだ。ホーム
本文を読む辺見庸―わたしの気になる人⑥
著者: 阿部浪子作家の辺見庸氏は、クリームパンがお好きなようだ。「辺見庸ブログ」からは、そう見えてくる。わたしは毎日、辺見庸のブログは読んでいる。机上のパソコンを開けば、さっと目に飛びこんでくるのが、あざやかな花たちの姿だ。高く伸びた
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