阿部浪子の執筆一覧

書評 山﨑正純・著『丸山眞男と文学の光景』洋々社  

著者: 阿部浪子

 1946年、「超国家主義の論理と心理」を発表して論壇に衝撃をあたえた丸山眞男は、民主主義の啓蒙運動の一翼をになうことになった。その丸山言説をふまえつつ日本の近代文学をたんねんに検証するのは、四十代の著者、山﨑正純氏であ

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書評:長浜功著『「啄木日記」公刊過程の真相―知られざる裏面の検証』   

著者: 阿部浪子

「オレが死んだら日記は必ず焼いてくれ」。石川啄木は親友に託して1912年に他界している。しかし日記の焼却は遠のき、戦後、娘の夫によって公刊されるのであった。  著者の長浜功氏は、それまでの波瀾万丈の過程をじつに丹念にたど

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書評;高橋行徳著『向田邦子「冬の運動会」を読む』(鳥影社刊)

著者: 阿部浪子

 闘う向田邦子を紹介したいと、著者の高橋行徳氏はいう。邦子は51歳で直木賞を受賞し、翌1981年に飛行機事故で他界している。  著者は、邦子が30代から書いてきたテレビの脚本に注目し、創作活動の転機となった「冬の運動会」

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書評:戦中世代への熱い共感。村永大和『玉城徹のうた百首』

著者: 阿部浪子

 「立ちあがり野ばらの花を去らむとき老いのいのちのたゆたふあはれ」。玉城徹は、野バラに感応しつつ何を語りかけているのだろう。  玉城徹の8つの歌集から、村永大和氏が、100首を抜すいし解読する。冒頭の歌は、初句と三句が強

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書評 「詩文集 生首」 辺見庸・著  毎日新聞社・刊

著者: 阿部浪子

 「まなかいをかすめて/青く吹きわたる風の/その根は/そちらにわたらないと/視えはしない」。このような詩句をふくむ、46編の詩文集からは、悲しみがそくそくと伝わってくる。それが過ぎると怒りの心情が。著者の「際限もなくあさ

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書評:加藤典洋・著 「太宰と井伏―ふたつの戦後」

著者: 阿部浪子

 なぜ、『人間失格』を書いたあと太宰治は心中しているのか。20代の自殺・心中未遂事件は、生活上の不如意が原因だった。だが1948年、家庭的にも作家的にも安定していたとき、家庭の幸福こそ諸悪のもとと主張し、心中している。そ

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空想の世界は印象的だ ー書評:吉屋えい子著『銀の花』

著者: 阿部浪子

 横浜と東北とオランダという三つの故郷をもつ吉屋えい子氏が描く小説集は、大人だ けでなく中学・高校生が読んでも感動するだろう。  「銀の花」のヒロイン「里季」には「人生の宝」である二人の恩人がいるという。一人は、海岸の得

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いきいきと立ちのぼってくる漱石の全体像 ―書評:森まゆみ著『千駄木の漱石』―

著者: 阿部浪子

 夏目漱石が駒込千駄木町57番地の借家に引っ越したのは、明治36年のこと。英国留学から帰国した年であった。漱石はこの地で「吾輩は猫である」を書き作家デビューする。やっと、嫌でたまらなかった講師業から足を洗ったという。  

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その孤独と哀愁 啄木没後百年にあたって -『啄木を支えた北の大地―北海道の三五六日」』(長浜功著 社会評論社)を読む-

著者: 阿部浪子

 石川啄木は、明治40年から翌年にかけて、356日を北海道に滞留していたという。函館、札幌、小樽、そして釧路へ。貧乏という重い袋を痩身に背負い、風のように漂泊しつつ、作家の道へ全力疾走した。いかにもドラマチックな啄木の2

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