首相の辞任記者会見をみて~危機的な民主主義の行方、「安倍憎し」の破綻
- 2020年 8月 31日
- 評論・紹介・意見
- 内野光子安倍政権
後任がだれになろうと、安倍首相の「病気辞任」と「禅譲」なるシナリオは、絶望的な悲劇に向かう日本の現実である。数々の政府の失政を、首相の犯罪的行為を、ここでシャッフルして、なかったことにするつもりである。8月29日の大方の新聞やテレビが、前日の安倍首相の辞任表明を受けて、安倍一強の「功罪」という形で振り返るが、政府のシナリオと辞任表明の記者会見の質疑は表裏一体にも思えた。「お疲れ様」「ご苦労様」の一言が一社しかなかったとか、余計なこと言う人もいたが、そもそも、権力の監視役でもあるはずのメディアと首相との関係がわかっていない。これまでも少々の小競り合いのシーンを見せながらも、「よいしょ」記者会見の様相を呈してはいたが、今回も、なんら突っ込んだ質問もなかったし、どうでもよい回答をさらに突っ込むこともなかった。目前の現実的な問題を極力回避した質疑だったのではないか。拉致問題、北方領土問題、憲法改正が、やり残した問題というが、憲法改正は国民の関心からも喫緊の課題ではない。
コロナウイルス感染の初期対応と今後の対策、もり・かけ、桜を見る会、などに見る政権の私物化や公文書問題、来年に延期されたオリンピック、非核化問題、などには、最後の方で質疑されるにとどまった、というより言い訳の機会を与えたにすぎなかったのではないか。私ならば、安全保障にかかる軍拡と辺野古基地対応、危険にさらされたままの原発対策、原発事故や災害地の復旧・復興対策、検察庁人事問題、国会議員の汚職や選挙違反対応、慰安婦・徴用工問題などについて質問したかった。国民の暮らしに直結した、教育の空白、医療・介護のひっ迫、消費税増税、TPP、非正規雇用問題、民族差別、マイナンバー普及による情報管理体制、地球温暖化にかかる環境問題、そして、天皇の後継にかかわる天皇制への対応、さらに、メディア幹部との会食、番組介入を続ける政府によるメディアへの介入について、ぜひ質してみたかった。
はっきり言って、首相の病状などはどうでもよい。その詳細はプライバシーにもかかわるだろう。後継問題にしたって、引き出せるわけもないだろう、そんなことに時間をかける記者会見への不満は頂点に達した。
そして、これまでの安倍政権批判は、安倍首相の顔を見るのもイヤだ、アベが憎い、の一辺倒だった。政策一つ一つの分析と対案を提出すべきなのに、「アベ政治を許さない」「安倍による憲法改正阻止」「9条を守れ」「野党共闘」などを叫んでは、いくつものいくつもの署名は集めるけれども、その結果も行方も曖昧なままである。その政府批判勢力も東京オリンピックや天皇制については、沈黙か、開き直りか、礼賛へと傾く昨今である。かつて「岸を倒せ」といって、岸は辞任した後を思う。安倍が辞任したら、なんと言いかえるのか。一市民として、おかしいことはおかしいと、言い続けるしかないのだろうか。
初出:「内野光子のブログ」2020.8.30より許可を得て転載
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〔opinion10070:200831〕
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