韓国は何処へ
- 2022年 2月 28日
- 評論・紹介・意見
- 大統領選小原 紘韓国
韓国通信NO690
ウクライナ情勢が緊迫するなか、アジアでも台湾をめぐる米中対立が不気味さを加えている。にわかに浮上した敵基地攻撃能力は、「敵」からわが国を攻撃する口実を与えかねない。武力ではなく話し合いで戦争を回避する努力が求められている。
韓国の大統領選挙に対する日本の関心はもっぱら文在寅政権を批判する尹錫悦(ユン・ソギョル)候補に集まっている。日米韓の軍事同盟強化、対中国、対北関係に対する強行路線と親日的な発言が自民党政権ときわめて相性がよいからかも知れない。あぶない大統領が誕生すれば、東アジアはアメリカを盟主とする北朝鮮・中国対決モードになる。日米韓が足並みを揃えて「台湾有事」「半島有事」が現実味を増すはずだ。
ローソク革命後の韓国に一体何が起きているのか。ステレオタイプ化された現地報告から離れ、韓国の友人たちに思いを語ってもらおう。
まず、選挙公示後に友人に送ったメッセージから。
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韓国の友に 戦争をしない国へ
「急がばまわれ」。韓国を理解するために韓国語の勉強を始めてから長い年月がたつ。だが、「日暮れて道遠し」。低空飛行を続ける韓国語の能力をかえりみず、こうして手紙を書いている。
コロナのせいか、個人の交流がめっきり減った。新聞やテレビをとおして伝えられるのは政治、特に大統領選挙をめぐる話題ばかり。韓国でも事情は同じに違いない。日本の政治の馬鹿々々しくあぶない情報ばかりが溢れているのではないか。決定的に個人の交流が不足している。
日本は先の総選挙で与野党逆転が期待されたが、結果は保守勢力の躍進という結果に終わった。日本はこのまま行けば、脱平和主義、人権制約的な社会へまい進するはずだ。改めて気づかされたのは日本人の根強い反共主義・保守主義と政治に対する関心の低さだった。
<韓国社会はどこへ>
ローソクを掲げた市民たちが目指した韓国社会はどこへ行くのか。ローソクの灯は海をわたり日本社会にも衝撃を与え、勇気と感動を与えた。だが現在の韓国社会は大きな曲がり角にきているように見える。大統領選挙をとおして朴正熙の影すら見え始めた韓国社会には驚きを禁じ得ない。
「主権は国民にある」(韓国憲法第1条)のだから、韓国国民がどのような選択をしようとも日本人がとやかく言う資格はない。しかし、野党「国民の力」が日米韓の軍事同盟の強化をめざす以上、無関心ではいられない。日本も韓国も一方的に敵をつくろうとする社会に突き進もうとしているのではないか。ロシア・中国・北朝鮮を一方的に「敵」と決めつけるなら、アジアに緊張が高まり戦争の可能性は大きくなる。日米が民主主義を大義にして火遊びをすることは許されない。
韓国は大丈夫なのか。
韓国と北朝鮮との関係改善は日本人にとって平和の種、希望だった。
にもかかわらず従前のような敵視政策をとる新大統領を選ぼうとしている。
現在の韓国社会について皆さんの忌憚のない意見を聞かせてください。個人の生の声を日本の友人たちに伝えたいと思う。
<追伸>
日本語教室に通ってくる韓国人の若い女性に大統領選挙について聞いた。「魅力のある候補者がいないので投票しない」と日本語で答えた。言葉を失った。
正義党の候補者沈相奵(シム・サンジョン)氏を注目してきたが意外な不人気。何故なのか。知りたい。
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翌日、早速メールが届いた。写真家の鄭周河さんからだ。彼は東日本大震災直後から福島県南相馬を撮り続けてきた。「奪われた野にも春は来るのか」写真展を全国各地で開催して多くの日本人に感銘を与えた。本人の了解を得て全文訳出した。
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日本の友へ
現在の韓国はローソクで政権を変えた国とは思えない異常な方向に向かっています。
消えてなくなるべき「国民の力」が息を吹き返し、40%を越える支持を集めるのは奇異というほかありません。特に尹錫悦候補が20代の人たちから支持されているのは、嘆かわしいばかりです。
尹錫悦は自分が何をしゃべっているのか、どんな発言をしているのか理解していない人物です。北朝鮮に対して先制打撃/先制攻撃などと、ぞっとする言葉を若者たちが受け入れているのは、戦争になるはずはないと漠然とした安心感が根底にあるから、過激な発言にただ溜飲を下げているだけのこと。人に悪罵を投げつければすっきりするといった心理に似ているように思います。
私は数か月前、沈相奵がいる正義党※1に加入しました。以前は緑の党の党員でしたが、今回の選挙を考えて正義党に加入しました。選挙の成り行きを見続けていますが、一番大統領にふさわしい沈候補の支持率が低いので心配しています。
比例代表制の民主党の対応に巻き込まれたこと。曹国問題※2に対する容認発言。またフェミニズムとジェンダーの問題などで若者たちの反発を呼んだことが支持低下を招いたようです。
直ちにこのような政治状況をひっくり返すことはできないと思いますが、今回の大統領選挙が終わり、迫る地方選挙で成果を上げ、希望を失わず少しずつ前に進みたいと考えています。
農村地帯で暮らしてつくづく思うことは、地球に迫っている気候変動危機に対して誰が大統領に一番ふさわしいかということ。沈候補が最適と考えていますが、未来が不透明なので沈候補に過剰な期待はかけられそうにありません。
つまり、自分自身が置かれている状況の中で少しでも前進する努力をすべきと考えています。小原さん、お会いしたいですね。コロナの心配をせず日本に行ける日が来たらかけつけたいくらいです。
2022/02/23チョン・ジュハ拝
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※1 沈相奵の正義党とは
正義党は民主労総(労働ナショナルセンター)を母体に結成された民主労働党(2000年結成)の流れを組み、2012年に結成された左派国民政党(議席数6)。
党首の沈相奵(63)はソウル大学在学中に労働運動に参加、指導者として逮捕された経験を持つ。2004年に民主労働党から立候補して政界入り、以降当選4回。進歩陣営の象徴的な政治家として知られる。大統領選挙に4回出馬。財閥の解体、貧困格差の解消、環境問題、ジェンダー格差問題で積極的な発言が注目されている。保守・革新の二大政党の弊害を訴え国民政党として第三の勢力を狙うが壁は厚く、党勢は伸び悩んでいる。
※2 曹国問題について
文政権の法務部長官長菅曹国(チョ・グク)氏の妻の財テク、子女の不正入学が明らかになり、国民的批判を浴びた。これが発端で検事総長の尹錫悦氏と大統領が対立、右派政党「国民の力」の大統領候補になった経緯がある。
<韓国の怒れる若者たちと 主張しない日本の若者たち>
9日の投票日に向けて大統領選挙がデッドヒートを繰り広げている。
聞こえてくるのは相手の弱点を突くネガティブキャンペーンと人気取りポピュリズム政策ばかり。投票をする気にならないと話した韓国人の気持ちもわからないでもない。
貧困と格差、政府の怠慢に若者たちが不満を募らせ、政権交代を望むのは当然だが、マッチョで右翼体質の「国民の力」尹錫悦候補に期待するのは何とも不思議だ。
与党「共に民主党」の候補に不満があるなら沈相奵の正義党に期待してもよさそうだが、そうはならない。5年前にローソクデモの中心になった若者の「変身」を理解しかねる鄭周河さんの悩みもそのあたりにあるようだ。
不満のはけぐちとして、声の大きいだけのファッショ政党「国民の力」支持に向かう傾向はヨーロッパ各国の極右政党の支持拡大、わが国の日本維新の会ブームに似ている。韓国社会には将来が見えにくい閉塞感があるのだろう。
だが不満を積極的に投票活動で示そうとする韓国の若者たちと、有権者の約半数が棄権する(なんと若者層の6割は投票に行かない!) 日本との違いは歴然だ。
韓国は何処へ行く。韓国で起きている変化に注目しながら、選挙の成りゆきを見守っていきたい。
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〔opinion11800:220228〕
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