来るところまできた?習一強体制 ― 中国共産党第20回大会について 6
- 2022年 10月 25日
- 時代をみる
- 中国共産党田畑光永習近平
奇妙な光景だった。一昨22日、中国共産党第20回党大会の最終日、おそらく最後の議題であった中国共産党規約の改訂案が議題になっていた時だと思う(思うというのは、詳しい議事日程は公表されていないので)、舞台最前列の中央、習近平総書記の席の客席側から見て右隣に着席していた胡錦涛前総書記(在任2002年~2012年)へ左側の背後から2人の男性が近づいて、胡氏の右腕をとって、力を貸すような形で席から立たせた。
胡氏が「なんだ?」とちょっと驚いた様子で立ち上がると、2人はそのまま胡氏の手をとって退場させようとする。胡氏は赤い表紙の、おそらくは大会議案書を手にしながら、座ろうとしたが、1人がその議案書を受け取るような形で奪い取り、取り戻そうとする胡氏の手を避けながら、退場を促す。
奇妙だったのは、自分のすぐ背後でそういう動きが始まったのに、習近平総書記も左側の隣席の李克強首相もそちらを振り向きもせずに前を向いたきりだったことだ。胡氏に向かって右隣りの席の栗戦書全人大常務委員長だけは立ち上がったが、この人も口も手も出さなかった。
2人の男性と胡氏との「出てください」「なぜだ?」といった感じの腕先の争いはかれこれ30秒くらい続いた。やがて胡氏が根負けして、歩み出そうとして、背中を向けたままの習総書記に背後から挨拶するように手を伸ばして握手をしようとした(そう見えた)が、習氏は取り合わず、2回目でようやく顔もむけずに胡氏の手に軽く触れ、隣の李氏も同じように軽く手を触れただけで、2人は引き立てられるように議場を出てゆく胡氏を見送ることもなかった。
この光景はなんだったのか。翌日の中国側の発表によれば、胡氏は「体調不良で退席した」とのことだが、それは明らかに虚偽だ。中継されていた映像からはとてもそんなふうには見えなかった。胡氏は明らかに退場を強制された。それを少なくとも習近平、李克強両首脳は事前に知っていたし、胡氏が「連行」されてゆく時、最前列の政治局員たちで、振り向いてそちらを見る人はいなかったようなので(私には全員は見えなかったが)、あるいは首脳陣は全員知っていたのかも知れない。
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以上の「事件」は最後にまた考えることにして、本題に入ろう。
すでに多くの報道がおしなべて指摘しているように、今回の第20回党大会では、習近平一色と言ってもいいような党中央が誕生した。
党のトップの総書記に習近平が留任したのは、ようやく定着したかに見えた「2期まで」という慣習を破って強行したわけだから、毛沢東、鄧小平という革命をなし遂げて、権力を握った「革命世代」が姿を消したあとで、なお1個人が期限をつけずにトップの座に坐り続けるのを中国共産党が認めたわけで、アナクロニズムとしか言いようのない事態である。
まして、1954年に発足した人民代表大会制度の60周年記念大会(2014年)で、「事実上存在していた指導者の終身制を廃止した」ことを、政治の民主化の主要な証拠と自賛した習近平自らが、2018年の憲法改正で国家主席の任期を廃止したのに続いて、党の総書記も無制限留任を可能にしたことは、後世の史家によってどう評価するか見ものである。
しかも、総書記に留任したばかりでなく、党の最高指導部たる政治局常務委員から、「七上八下」(67歳以下は党の役職に就けるが、68歳以上は就けない)という慣例では現役に留まれる共産主義青年団系統の李克強(首相)、汪洋(政治協商会議主席)をあえて退職させ、退官年齢に達した2人と和せて4人の新任政治局常務委員をすべて習自身のかつての部下という顔ぶれにしたこと、さらに現在59歳で中国政界のホープと衆目が見る胡春華(19期政治局員・副首相)を常務委員どころか24人の政治局員からも外すという極端な派閥人事をおこなったことは、多くの観測者の予想を超えるものであった。
周辺に囲む幹部たちがほとんど元部下ということになれば、習近平は皇帝気分で中国を支配することになる。今後ともやめる気にはなれないであろう。
ただ、不思議なのは今次大会に提案されていた「中国共産党章程(修正案)」が討論の結果、改訂が可決されたか否かが、不明確であることである。可決されていれば、大げさにその結果を宣伝するはずであるから、討議されたとしか言わないのはおそらく可決とはいかなかったのであろう。改訂案は習近平の個人的権威をさらに高めようとするものと伝えられており、もし今度の大会で可決されなかったとしたら、中國共産党に残っていた良識が僅かに現れたとでもいうところか。
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そこで最初の胡錦涛の退席問題である。あの場の全体の成り行きは胡錦涛がそのまま在席していたら、慣例を守って10年で潔く権力を習に渡した胡錦涛がひょっとして党規約改定案に反対する発言でもするのを習近平が恐れて、あたかも体調不良のごとくに外見を装って無理やりに退席させたのではなかったろうか。想像に過ぎないが、そうとでも考えないと、あの場のまことに不自然な空気、成り行きは理解できない。
事情を察していた李克強以下の面々もどうしていいか分からずに見て見ぬふりをしていたのではなかったろうか。
まだ新体制の顔ぶれがきまっただけの段階で、この集団がはたして国民の信を得られるのかどうか、まだだれにも分からない。その前提の上で、あえて私見を言えば、陳腐だが「驕る平家は久しからず」という言葉がぴったりくる大会最終日の印象であった。
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