桜には少し早かったが~養老渓谷へ
- 2023年 3月 19日
- カルチャー
- 内野光子
平日だったら宿もすいているだろう、ゆっくり温泉にでも入ってと、たった二泊ながら、近場の養老渓谷にでかけた。近いと言っても、車ではないので、かなりの時間を要した。
JR船橋まで出て、内房線の五井まで行くのだが、通勤時間はとっくに過ぎているのに混んでいた。さすがにマスクを外している人は見当たらなかった。五井から小湊鉄道に乗り換えるには、パスモは使えず、乗車券を買うのにけっこう並んだ。約一時間、沿線には菜の花やこぶし、もくれんの花が咲き始めていたが、桜は、ちらほらという感じだった。放置の田んぼも多く、倒木の多い林も続き、竹林の葉が車窓をかすめることもある。それに、いまにも覆いかぶさってきそうな崖すれすれに走る。
小湊鉄道終点は上総中野と初めて知った。その一つ手前が養老渓谷駅で、あらかじめお願いしていた宿「もちの木」さんの車が待っていた。チェックインの時刻までには、まだ時間があり、ランチはやっていませんという宿のラウンジで、船橋で買い込んだサンドイッチと持参のおにぎりとみかんでつつましい?昼食をすませ、近くを散歩することにした。
宿は、養老川に面しているが、その崖が高く、みごとな地層を見せていた。折から、辺りの樹々からウグイスの掛け合う鳴き声が、あまりにもみごとなので、どこかに拡声器でもあるのかしらと思うほどだった。
早めの大浴場は、貸し切り同然、露天風呂からは、正面の崖とせせらぎを見ながらのひとときであった。持ってきた本を読むどころか、横になったら、連れ合いともども寝入ったらしく、夕飯コールに起こされる始末であった。
そしてなんと、翌朝8時という朝食も、電話で起こされ、さすがに慌てたのである。バスで「粟又の滝」まで行くつもりが、フロントから、車がちょうど空いたので、送りましょうとの申し出があったのは有難かった。下車後、急な階段を下ると、左手には銀色に光る滝が見えた。滝を背に、しばらく遊歩道を進むときも、ウグイスの声は途切れることがなかった。
バス停前の、宿の姉妹館でもある「滝見苑」の日帰り湯チケットを出がけに勧められもしたが、ともかく、こんどは、弘文洞跡へとバスに乗り込んだ。ここもパスモは利用できなかった。先に両替しなかったもので、余分に払ってしまって下車。バス停からくだるとすぐに、トンネルが見えてきた。1970年(昭和45年)竣工の「共栄トンネル」(110m)は、車の往来もけっこう多い。二重トンネルが見られるというのだが、ちょっと想像しにくかったのだが・・・。共栄橋を渡って中瀬遊歩道に入れば、ここも、ウグイスの声に癒されながら、川を渡るところで引き返した。
古いトンネルの下に、共栄トンネルが作られたということらしい。
今日こそ、きちんとしたランチをとりたいと、宿の勧めもあって、バス停にも近い「清恵(きよえ)」食堂で、私はてんぷら釜揚げうどんを。ゆとりをもってバス停に向かったのだが、なんと路線バスが停留所を過ぎてやって来るではないか。これを逃したら、一時間以上待つことになる。庭先に出ていた民家の人が、手を挙げたら停まるかもという声に、二人して両手を振ったら、停まってくれたのである。宿に近い「老川」で下車しようとすると、「朝、20円もらいすぎたから、20円引いた額でいいですよ」と、朝と同じ運転手さんで、覚えていてくれたのである。バス停以外で乗車できたこと、20円ながら、清算してくれたこと、何かほっこりした気分で、宿に帰ったのであった。早めの入浴、ひとしきり夕寝をしたにもかかわらず、夕食後は、また眠くなってしまう情けなさ。連れ合いの読書はだいぶ進んだようだったが。
翌日も、養老渓谷駅まで送ってもらった。運転手さんによれば、「もちの木」は、もともとは企業の保養所であったそうだ。バブル後に買取り、改装を重ねたそうで、なかなかセンスのある宿だったし、従業員のもてなしも行き届いていた。帰りには、千葉で下車し、「青葉の森公園」にでも寄ろうかと算段していたが、お天気も下り坂というので、直帰することになる。少し落ちついて、小湊鉄道の沿線の風景を楽しむことができた。沿線の野辺の道では、ところどころで、立派そうなカメラを抱えた人が列車を待ち構えている光景に出会った。変わった駅名なども興味深く、乗り降りの乗客にも関心が向く。高滝の駅手前で、「市川ぞうの国」のマイクロバスを見かけたが、高滝がそのシャトルバスの発着駅だという。上総牛久では、10分近くの停車、学生の乗り降りも多かった。3月25日には、夜のお花見列車が走るとのことだった。
養老渓谷駅の発車時刻表を見上げて、連れ合いが、おかしいと声を上げると、「いや、改正になって、明日から変わるんです」と、すべて一人で仕切っている駅員さんが教えてくれる。今日までは、右下の小さい時刻表だったのである。
もう、お土産をなど気にしなくてもいい、二泊の短い旅は終わった。
「内野光子のブログ」2023.3.18より許可を得て転載
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