共産党の体質とイメージを変えるための若干の提案 機関紙赤旗に「討議欄」を設けてはどうか
- 2023年 5月 19日
- 評論・紹介・意見
- 共産党広原盛明
共産党の機関紙「しんぶん赤旗」の全盛期には、赤旗1紙で世の中のことが全てわかると言われていた。赤旗を購読すれば、他の新聞を読まなくても必要な情報が得られるという意味だろう。私は(乏しい家計をやりくりして)当時から各紙数部を購読して「読み比べ」をしていたが、紙面が制約されていたとはいえ、赤旗の国際報道には充実した記事が多かった。時折出る長大な論評もそれなりの水準で、教えられることが多かった。当時は編集陣のなかに優秀なスタッフがいて、大手紙にはない魅力があったのである。
しかし最近では、若者が新聞を読まなくなって大手紙も部数が激減しているという。私の近所(マンション団地ではなく戸建て住宅地)でも、最近引っ越してきた若い家族のほとんどが新聞を購読していない。新聞配達員のバイクが家の前を素通りするので、そのことがよくわかるのだ。この人たちは、引っ越してきても向こう三軒両隣の家でさえ挨拶に来ないし、自治会にも加入しない。ただそこに「住んでいる」というだけで、地域社会のことには一切関心がないらしい。それでいて、小さい子どもはいるのである。子どもたちにとって地域の友達は必要ないのだろうか。
おそらくこの人たちは、インターネットやSNSなどで自分や仲間内の必要な情報は得ているのだろうが、それ以外の社会や政治のことは「関心の外」なのであろう。そうなると、新聞を読む必要はなくなる。大手紙や地方紙があれやこれやの手を使って必死に購読を呼び掛けているが、これまであった新聞販売店が次から次へと統合されていく有様を見ると、この傾向は当分止まりそうにない。だとすれば、赤旗の減紙が止まらない現象も独り共産党だけのことではなく、新聞メディア一般にも共通して起こっている問題であるだけに、ことは簡単に解決しそうにないのである。
それにしても、前回の党大会(2020年1月)以来の赤旗の減紙や党員の減少は尋常ではなく、まさに〝危機的状態〟にあると言わなければならない。何しろ「130%の党」づくりを掲げながら、党勢は逆に「91%の党員、87%の日刊紙読者、85%の日曜版読者」(中央委員会常任幹部会声明)に後退しているのである。一般企業で言えば、「売上目標130%」を掲げながら、実績は現状を下回る「9割」前後しか達成できなかったことになる。こんな事態は、通常なら社長や担当役員の〝即時辞任〟となるが、ワンマン企業では過大な目標設定した幹部の誤りは棚に上げ、その原因を「自力不足」すなわち「社員の頑張りが足りなかったから」として責任転化することが多い。これでは社員の誰一人納得するはずがないし、業績の回復もおぼつかない。こんな会社は早晩潰れること間違いなしだ。
次回の共産党大会(2024年1月)まで後僅か8カ月しか残されていない。統一地方選とセットで党勢拡大の大号令をかけてみたものの、3、4月は入党申し込み者488人に止まり、日刊紙読者5745人減、日曜版読者3万1310人減、電子版読者14人増という惨憺たる結果に終わった。今国会の会期末(6月21日)までには総選挙があるかもしれない情勢の下で、党勢をこれから5割近くも(130%目標を9割に後退した現勢で除したもの)増やさなければならないというのは、正気の沙汰ではない。「党機関の長の『不屈性』『先進性』を発揮して頑張るんだという討論にもなりました」という小池書記局長の都道府県委員長会議の「討論のまとめ」(赤旗5月5日)は、単なる掛け声に終わることになりかねない。
しかしながら、共産党がかくも党勢拡大にこだわるのは、赤旗が党機関を支えるかけがえのない財源になってきたという事情がある。政党補助金を受け取っていない共産党には機関紙収入以外にさしたる財源がなく(党費収入は党員の高齢化に伴って先細り一途になっている)、赤旗減紙は党財政の危機に直結しているからだ。そのことは、党財務・業務委員会責任者の次のような悲痛な訴えにもあらわれている(赤旗2021年12月22日)。
――2021年総選挙後の10月、11月に大幅な後退をした結果、日刊紙の減紙によって赤字がさらに増え、安定的な発行を続けることが困難に陥る寸前の状況になっています。日曜版の大きな減紙は、二重に財政上の困難をつくりだしています。一つは、日曜版収入でようやく支えていた日刊紙の発行を維持する力が大きく弱まっていることです。もう一つは、中央財政を支える最大の財源である機関紙誌事業からの収入が大きく減り、中央財政と機構の維持に厳しさが増していることです。機関紙事業の後退は、中央財政だけでなく地方党機関の財政をも厳しくし、日常の活動と体制維持の苦労のおおもとになっています。
正確な実態は明らかにされていないが、党勢拡大期に膨張した党機関は各党に比べても相当大規模なものになっているといわれる。中央集権的機構の党本部には各部署が整備され、多数の専従者が配置されてきた。赤旗の発行経費や専従者の給与支払いはもとより、各種施設の維持管理費も相当な額に上るだろう。これらの恒常的経費を賄うためには、赤旗の収入を減らすわけにはいかないので、党財務責任者の上記のような訴えが出てくることになる。これまで電子版の創設を始めいろんな努力がされているというが、累積しつつある赤旗発行の巨額の赤字を解消するには程遠い。抜本的な党内分権を通して党本部に集中している権限とスタッフを地方組織に分散させ、合わせて党本部をもっと軽量化しなければこの苦境を脱することはできないのではないか。財政危機は、共産党の土台を揺るがす大きな脅威となりつつあるからである。
党員拡大に関しても従来方式は完全に行き詰まっている。ボランティア活動の広がりがない時代には、共産党の存在感は大きかった。社会運動の機会が労働運動や政党活動に限られていた時代は、学生運動も労働運動も政党活動と一体化して発展していたのである。しかし、いまは事情がまったく異なる。現在は、意識的な活動家が自主的組織を作って自由に活動でき、インターネットなど多様な情報手段を駆使して自由に情報発信できる。自分たちの価値観と考え方に基づいて、多様な社会運動を自由に展開できる時代なのである。このような時代にあっては、厳格な綱領と規約にしたがい、「民主集中制」の原則に基づいて行動するという共産党の体質と作風は、多くの若者にとって「窮屈で時代の風に合わない」と受け止められている。1970年代には20万人規模で活動していた日本民主青年同盟(民青)が、現在では「公称1万人」にまで激減しているのはそのためだろう。
歴史的に形成されてきた共産の強固な体質や作風を変えることは容易でないが、しかし従来方式の党勢拡大運動が完全に行き詰まっている状況は、そのための得難いチャンスだと言えるのかもしれない。2021年総選挙後の10月、11月には党勢が大幅後退し、赤旗の安定的な発行を続けることが困難になるほどの状況に陥った(党財務責任者発言)。今回も6月に総選挙が実施されるとなると、党勢は今よりもさらに後退するかもしれない。そんな時に従来通りの「130%の党」づくりを相変わらず掲げているのは、無策以外の何物でもない。〝解党的出直し〟をしなければ、事態に対応できないことは一目瞭然ではないか。
とりあえずは赤旗の「党活動」の頁を「党活動に関する討議」の頁に改革し、党内外の多様な声を集めることから始めてみてはどうか。毎日、同じ調子の党勢拡大の呼びかけが百年一日の如く繰り返されているようでは読む気も起らないが、拙ブログのような疑問や異論が掲載されて多様な討議が起これば、多少なりとも新しい雰囲気が出てくるかもしれない。小池書記局長は都道府県委員長会議の「討論のまとめ」として、「党の現状は、いま抜本的な前進に転じなければ未来がなくなる危機に直面している」と強調したが、この中の「前進」を「変革」という言葉に変えなければ、党の未来は開けない。まして、多様な討議を「民主集中制」の原則に反するとして封じるようなことがあれば、共産の未来は「130%ない」といっても間違いないだろう。(つづく)
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