「今だけ、金だけ、自分だけ」的生き方が頂点に 2023年の日本を顧みる
- 2023年 12月 30日
- 時代をみる
- 2023不祥事岩垂 弘金
今年、2023年も暮れる。1年を顧みてわが胸を満たす感慨は「敗戦からこれまで78年間を暮らしてみて、今年は最悪の1年だったな」というなんともやりきれない思いである。
「日本は地に堕ちた」「腐敗・堕落の日本」「どうしょうもない日本」といったフレーズが次々と脳裏に沸いてきて、気がふさぐ。思えば、人間が「金(かね)・金・金」にダッシュする光景を見せつけられた1年だった。
安倍派の“独裁”政治を支えた裏金
今年一番の明るいニュースは大谷翔平君の大活躍だったと言っていいだろう。それを暗く覆うように次々と派生したのが政界、経済界の不祥事である。
まず、政界だが、朝日新聞が12月1日付の朝刊で放ったスクープは、世間に衝撃を与えた。自民党の最大派閥「清和政策研究会(安倍派)が政治資金パーティー収入の一部を裏金化していたとされる疑惑だったからである。
その後、事件は急展開し、岸田内閣の安倍派の閣僚・副大臣らが解任されたり、辞職したりしたほか、東京地検特捜部が、安倍派幹部の松野博一・前官房長官、高木毅・前党国会対策委員長、世耕弘成・前党参院幹事長、塩谷立・元文部科学相、萩生田光一・政調会長らに対し任意の事情聴取を行う事態にまで発展した。
12月27日には、特捜部が衆院第2議員会館にある、安倍派の池田佳隆・衆院議員の事務所を家宅捜索した。パーティー券収入のノルマ超過分を裏金化し、自身の政治団体の政治資金収支報告書に記載しなかったとする政治資金規正法違反(不記載・虚偽記)の疑いという。
さらに、特捜部は同月28日、大野泰正・自民党参院議員の議員会館の事務所を家宅捜索した。池田佳隆議員と同じ容疑という。
12月27日付の読売新聞によれば、安倍派の裏金作りは20年前から行われていたという。それに、裏金の一部は選挙のために使われたと話す関係者の証言を報道した新聞もある。これでは選挙の公正を犯すおそれがあり、民主主義への冒涜だ。こんなことが、政界を長年にわたって牛耳ってきた自民党最大派閥によって20年も続いていたなんて、何としても許しがたい、と私は思う。
事件が今後どう展開するか予断を許さないが、要は検察がどこまでやるかだ。場合によっては、戦後最大の不祥事と言われるリクルート事件(1988年。リクルートコスモス社が未公開株を政・官・財界の広範なトップ層に譲渡した事件)を上回る規模の、前代未聞の不祥事になるかも知れない。
みっともない大企業
一方、経済界では今年、信じがたいような不祥事が相次いだ。
まず、中古車販売大手のビッグモーター。NHKの「クローズアップ現代」によれば、「損害保険会社は、事故に遭った契約者に車の修理工場としてビッグモーターを紹介。ビッグモーターは、その車を故意に傷つけたり不必要な部品交換をしたりするなどして、修理費用を水増し、保険金を不正に請求していた」という。
次いで、トヨタの完全子会社のダイハツ工業である。同社は12月20日、車両の認証試験をめぐる不正で、新たに174の不正が行われていたと発表、国内外で手がける全ての車両の出荷停止に追い込まれた。不正は「試験テータの捏造や改ざん、車両や実験装置の不正な加工や調整など25項目に及ぶ」(12月21日付朝日新聞)。こうした不正が30年以上前から行われていたというから驚く。
朝日新聞によれば、トヨタグループでは、昨年以降、日野自動車や豊田自動織機などでも不正が続いているという。トヨタ自動車といえば、新車販売台数で世界一である。これでは「世界一」の看板が泣く。
まだ、ある。12月26日付読売新聞によると、金融庁は同日、損害保険大手4社が企業向けの保険契約をめぐり保険料を事前調整していたとして、保険業法に基づき、4社に業務改善命令を出した。
処分を受けたのは東京海上自動火災保険、損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険の4社。鈴木金融相は「独占禁止法の趣旨に照らして、広く不正が行われていたのは遺憾で、抜本的な禍以前対応を求める。悪質性は高いと考えている」と述べたという。一流の保険会社も不正か、との思いを禁じ得ない。
ところで、こうした一連の政界・財界での不祥事に共通しているのは、「金」への執着ではないか、というのが私の見方である。「何としても金がほしい」「何とかして売上げを増やさねば」という政治家、企業家の執念だ。そうした執念が、やがて彼らをして「カネを得るためには少しぐらい法令に従わなくてもよい。要は、そうした不正が世間に漏洩しなければいいんだ」と思わせる方向に追いやっていったのではないか。
私が幼いころの日本には、社会の一員として暮らしてゆくには、一定の規範があった。幼児期から小学生のころにかけて、私は母から何度も言い聞かされた。逆に言えば、母が私にしつけたのは、この一言だった。それは「他人から後ろ指を指されるような人間になるな」というものだった。具体的には「ウソをついてはいけない」「盗みをするな」「悪いことをするな」「他人の悪口を言ってはいけない」だった。
一般人の間では、職業では、教員、市町村役場の職員、警察官に畏敬の念があった。この人たちは悪いことをしないだろう、と思われていた。それに比べて商人の地位は高くなかった。そこには、「カネ」よりも理念や公共を重んずる風潮があった。
こうした生き方が、地方の庶民の生活面で常識として定着していたのは、決して戦前の修身教育の成果とは私は思わない。むしろ、それぞれの家庭で、親が子どもをしつける中で形成されていったしきたり、あるいはモラルだったと私は思う。
経済第一主義がもたらしたもの
しかし、戦後の1960年の「所得倍増計画」を機とする経済の高度成長は日本と日本人を一変させた。
日本の経済成長はすさまじく、1968年にはGDP(国内総生産)が米国に次ぐ世界第2位になった。1979年には米国の社会学者、エズラ・ヴォーゲルの『ジャパン・アズ・ナンバーワン』が内外でベストセラーとなり、1989年には三菱地所がニューヨークのロック・フェラーセンターを買収し、世界の注目を集めた。
世界でも稀に見る経済の高度成長で、貧しかった日本人は豊かになった。それはとても結構なことだったが、その一方で、貧富の差が拡大した。
ともあれ、高度経済成長は、日本に功利主義、効率主義、自己中心主義、刹那主義をもたらした。人々はこの四つ渦巻きの中で翻弄されるほかなかった。その中で、生まれたのが、「今だけ、金だけ、自分だけ」という生き方、あるいは風習である。
「今だけ、金だけ、自分だけ」というフレーズは、鈴木昌弘・東大教授が2012年に著した『食の戦争 米国の罠に落ちるな』(文春新書)で初めて使われた、とされている。私は現在の日本人の生き方、日本社会の風潮を表すのにぴったりの表現と思っている。2023年を送るに当たって心に浮かんできたのがこのフレーズだった。そして、つくづくこう思った。
「日本は混迷している。これから先の進路を展望するには、まず、日本の過去へ目を向けねば」
「金が全ての世の中を少しでも変えてゆかねば」
「自己中心主義に陥らず、少なくとも若い人々との連携を深めなくては」
新しい年が「最悪の年」でないことを願って。
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