しっかりしてくれ、共産党!!
- 2024年 1月 16日
- 評論・紹介・意見
- 共産党阿部治平
――八ヶ岳山麓から(458)――
元旦の共産党の機関紙「しんぶん赤旗」の1面に、志位和夫委員長の12月末東南アジア3ヶ国訪問記事が登場した。全5ページにわたる「東アジアの平和構築へ/東南アジア3カ国/発見と感動の9日間」(志位委員長の新春緊急報告)というものである。
自民党の裏金問題は「しんぶん赤旗」のスクープから始まった。赤旗日曜版は、自民党安倍派の裏金問題を発掘し、これが神戸学院大学上脇博之教授の刑事告発につながった。さらに、公表された資料から政治資金報告書のでたらめさ加減を発見して報道した。このときの赤旗の報道は、他のメディアをいちじるしく抜いていた。
東京地検特捜部は安倍派事務所・二階派事務所の強制捜査をおこない、自民党は追い詰められた。
志位氏が先頭に立って「政治に弱い検察」の尻を叩いて巨悪を摘発せよと呼びかけるべきときが招来していたのだ。続けて「自民党政治を終わらせ、くらしに希望を」とキャンペーンを打てば、有権者の気持をさらに揺さぶることができたし、悪戦苦闘中の党勢拡大にも好ましい条件が生まれたはずである。
にもかかわらず共産党は、昨年末9日間も志位氏を団長とし田村智子副委員長・緒方靖夫国際担当副委員長ら5人の代表団をインドネシア・ラオス・ベトナムへ送った。でも、最高幹部があえて年末に9日間も外遊するほどの緊急性が果たしてあったのかどうか、疑問に思う。
元旦の志位委員長の「新春緊急報告」で志位氏は次のようにいう。
東南アジア諸国連合(ASEAN)は、粘り強い対話の努力を続け、この地域を平和の共同体に変え、その流れを域外に広げて東アジアサミット(EAS)という枠組みを発展させ、さらに2019年の首脳会議ではASEANインド太平洋構想(AOIP)を採択し、東アジア全体を戦争の心配のない平和な地域にするための動きを発展させています。(AOIP =ASEAN Outlook on the Indo-Pacific)
志位氏はこうしたASEANの「外交ビジョン」をさらに豊かなものにしたい、さらに日本でのたたかいに役立つ知見を得、可能な協力を探求したいという目的で訪問したとのことである。
インドネシアではアダム・トゥギオ外務大臣特別補佐官、ハッサン・ウィラユダ元外相と会談した。そこではASEANにおける「対話の習慣」が強調された。ASEAN本部ではラオス人の事務局次長と会談した。そこでは「一方の側に立たず自主独立を貫く」、「アウトワード・ルッキング」が話題になった。
ラオスでは人民革命党トンルン・シリット書記長・国家主席、トンファン外務副大臣と会談。不発弾問題やASEANの「平等と相互尊重の精神」が話題となった。
ベトナムでの訪問記事が一番長い。志位氏はベトナム外交学院で講演し、共産党の「日中関係の前向きの打開のための提言」を紹介し、朝鮮半島問題の外交的解決、歴史問題の理性的解決を説いて好評を得た。
また、労働党のグエン・フー・チョン書記長など最高幹部と意見交換をした。ここでは東アジアの平和構築のための日本共産党の「模索と探求」を率直に伝えたこと、AOIP成功のために取組むことで合意した。
もともとAOIPは、対立渦巻くアジアを何とかしたいと、インドネシアを先頭にASEAN諸国が中国を入れた枠組みを作った結果である。2019年6月に発表されたAOIPは、内政不干渉、開放性、包摂性、国際法の尊重、競争よりも対話の重視、海洋協力・連結性強化・SDGs(持続可能な開発目標)・そのほかの経済協力の推進、EAS(東アジア首脳会議)に代表されるASEAN主導の枠組みでの協力推進を掲げた(鈴木早苗、日本国際問題研究所)
志位氏の「報告」は、手放しでASEANを「正義」、日米を「悪」と断定するかのようだが、これはソ連・中国が「善」、アメリカは「悪」とした冷戦時代をおもわせる。じつは、AOIPにはASEAN10ヶ国のほか、ほかならぬ中国、ロシア、アメリカも加わっている。ネットで検索すればわかるが、日本政府やアメリカもAOIPの枠内で一定の外交努力をし、対話もかなりやっているのである。
志位氏は、ASEANと違い、東アジアには「対話の習慣」がないことをあげ、その理由として、日米・日韓という軍事同盟、米軍基地が存在していること。米中の覇権争いの最前線に立たされていること、朝鮮半島の戦争状態が集結していないことをあげる。さらに日本政府は軍事同盟・軍事基地・武力の行使・威嚇の四つのイエスーー専守防衛の原則を投げ捨てた大軍拡をやっているという。
もっともな言い分だが、これは今まで通りの主張である。ASEANを買いかぶりすぎてはいないか。少なくとも東南アジア3国訪問で得た知見ではない。
去年の日米韓首脳会談は、あらためて3国の防衛協力を確認するものだった。オーストラリアとの連携を加えれば、東アジアに対中国の日米韓豪4ヶ国の安全保障体制が形成されたも同然だと思う。
一方、 ASEAN諸国も対話外交だけが平和への決め手としているわけではない。ベトナムが中国と妥協しながら、他方でイスラエルと技術提携して軍備の更新をはかり、フィリピンが米軍の基地利用を認め、米・豪軍と共同演習をやっているように、それぞれ軍備の増強を図っている。ASEANも一筋縄ではいかないのだ。
それはほかでもない、共産党がいう覇権主義の中国による軍事的圧力に対抗するためである。その中国も負けてはいない。続々と軍備を増強し、南シナ海を中心に覇権行動を強化している。
話をもとへ戻そう。
今回の東南アジア3国訪問を「東アジアの平和構築へ/東南アジア3カ国/発見と感動の9日間」というならば、志位氏は、日本は軍備保持と平和への外交努力とをどうバランスさせるべきか、専守防衛の自衛隊の戦力はどうあるべきかを発見し、「報告」で示さなければならなかった。だが、それはできなかった。
結論をいえば、志位氏の「新春緊急報告」からは、政治情勢が緊迫した年末の時期に、東南アジア3国をあえて訪問しなければならない理由を見出すことはできない。中身は半年先でもよい内容だった。
もし、昨年年末に立憲民主党や国民民主党、あるいは維新の会のトップが、既定の企画だからといって外遊したら非難にさらされたことは疑いない。志位氏らの東南アジア訪問に対してメディアからの批判が出なかったのは、共産党の政治的影響力が微小であるからである。
社会党が消えて久しい。左翼政党は共産党一党だけになった。この党がまともな政治感覚を身に着けて党勢を挽回するのはいつのことだろうか。 (2024・01・10)
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