ヨーロッパの選挙結果と小池都知事の楽勝 ―日本は楽園?それとも鈍感?
- 2024年 7月 9日
- 時代をみる
- 「リベラル21」ヨーロッパ選挙田畑光永都知事選挙
一昨日の夜、テレビは都知事選挙の結果について小池知事の三選確実を早々と流し始めた。
このところヨーロッパでも先月、各国で行われた欧州議会選挙の結果が各国の国会議員選挙を誘発し、英、仏、独ではそれが国内の政治構造を揺さぶり、大変化の予兆を感じさせている。
英では労働党が 14年ぶりに保守党に代わって政権についたし、仏では欧州議会選挙で政府与党が負けたためにマクロン大統領が自国議会を解散するという思い切った勝負手を放った。その第一回投票ではここでも政府与党が苦戦を強いられたのに対して、右翼の国民連合が躍進して、ついに同党が政権を握るのではないかという、政治変動の大波が渦巻いた。
そして、7日、日本の東京都知事選とほぼ同時に、仏では議会選挙の第一回投票(6月30日)で当選者が出なかった選挙区での決戦投票が行われた。第一回投票の結果と、その後の世論調査などから、極右の「国民連合(RN)」が過半数には届かないにしても第一党に躍進する勢いと伝えられ、一方、マクロン大統領率いる中道の「与党連合」は「左派連合」にも及ばず、第3党に転落するのではないかと予測された。
ところが、まさに選挙はみずもの。7日の結果は、「国民連合」は第一党とはなったものの過半数(289議席)には遠く及ばず、「与党連合」は「左派連合」を抑えて第二党に踏みとどまり、同党との話し合いがうまくつけば、連合政権の主導権を握れる見通しとなったという。
本稿執筆時にはまだ最終結果が判明しておらず、確たることは言えないのだが、私はここでヨーロッパ各国の政治情勢を云々しようとしているわけではない。日本とは違うなあ、と感じ入っているのだ。
一昨年2月に始まったロシア軍のウクライナ侵攻、そして昨年10月以来のイスラエル軍によるパレスチナ自治区・ガザ地区への猛攻撃は、大げさでなく、世界に衝撃を与え、人類はそれにどう向き合うか、を問われている。
この二つの出来事は、第二次大戦後の世界を長く形作ってきた東西対立(資本主義対社会主義という思想対立)や、あるいは貧富の差による生存をめぐる伝統的な戦いともまるで違う、歴史を何百年もさかのぼったような、プーチン、ネタニヤフという地域支配者の個人的威信を高めようという野心が生んだ惨劇である。
しかも彼らが操るのが近代兵器だから、その殺傷規模はとてつもない大きさになる。それを従来の規範によってどう抑え込み、そこからすでに生まれた、また生まれつつある巨大な悲劇の傷をどういやすかが、今、世界が、世界の政治家が問われている問題だ。
このところヨーロッパの選挙でこれまでの政治の構造をゆさぶるような動きが続くのはまさにその表れであろう。とくに昨今のフランスの政局は政治家、国民ともに「今」の世界にどう向き合うかで揺れ動く頭と胸の内を反映しているように見える。
ところが、日本の政界がどれほどの真剣さでこの世界の動きに向き合っているかとなると残念ながら寒心に堪えない。私も真剣に今度の都知事選の候補者の「政見」を聴いたわけではないが、そういう議論は聞こえてこなかった、ように感じる。
せいぜい政治家の判断として、私が注目したのは、蓮舫氏が持ち出した「明治神宮外苑再開発」の問題だけであった。これは簡単に言えば、明治神宮外苑という東京に残る貴重な「自然(林)」を切り裂いて、「再開発」し、明治神宮そのものの存立のための財政基盤を確保したいという明治神宮当局の計画と、それによって1000本近い明治以来の自然林を伐採するという「暴挙」に対する反対論との対立である。
私もこの問題の行方に個人的には大きな関心を持っているので、議論の中身を聞きたいと思ったが、蓮舫氏自身「ここで一度、立ち止まって、考えましょう」と言うだけで、自身の考えを明らかにするでもなく、小池知事の方は「『立ち止まって、考えましょう』と言うけれど、今、計画は立ち止まっています」といなしただけで終わってしまった。
1000万人近い有権者による選挙ではあったけれど、今度の都知事選、都議会補欠選では、ウクライナもガザも話題になることはほとんどなかったであろう。だからといって、私はべつに候補者を責めているわけではない。投票する側、される側ともに、今、世界中が固唾を呑んで行方を見守っている問題を、「聞かなくても」また「言わなくても」、選挙が進行するという特異さに今さらながら驚いているだけである。
日本は世界で珍しい幸せな国なのか、それとも世界で珍しい鈍感な国民なのか。
初出:「リベラル21」2024.07.09より許可を得て転載
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