世界の「選挙の年」に、日本もアメリカも「右寄りシフト」するのか?
- 2024年 10月 2日
- 時代をみる
- 100部隊加藤哲郎政治自民党
2024.10.1 ● グローバルな「選挙の年」の一環である、日本の総選挙の前哨戦、立憲民主党代表選と自由民主党総裁選が終わりました。11月のアメリカ大統領選挙より前に、10月中の衆議院解散・総選挙となりそうです。世界全体では、6月のメキシコ女性大統領誕生、7月のイギリス労働党勝利のような変化は少なく、フランス国民議会選挙やドイツの州議会選挙で見られたような、移民問題などでの市民間対立、国家の権威主義化への傾斜、政治の対立軸の「右寄りシフト」はまねがれないでしょう。立憲民主党は、中道保守寄りの野田佳彦前首相を立党時代表の枝野幸男や現代表の泉健太らを退けて選びました。背後に、小沢一郎の影が見えます。自由民主党は、かつての軍事オタクで国防族あがりの石破茂を、首相になっても靖国参拝を公言する極右の高市早苗を選挙向けの顔として危惧し、決選投票で選びました。派閥解消効果はあったとはいえ、終盤には麻生・菅・岸田の3総理経験者の動きがあり、背後には森喜朗とアメリカ・ジャパン・ハンドラーの影もありました。テレビ・新聞は連日自民党総裁選を伝え、当初の小林・小泉ブームからメディア・ジャックがありました。後半追い上げた高市と共に警戒され敗れたのは、派閥を残した麻生副総裁と裏金問題の元祖・森喜朗でした。 極右に比べれば「国防族」議員がリベラルに見えるという、情報戦の対立軸の「右寄りシフト」です。
● 立憲民主党が先に野田代表を決めたことが、9名が乱立した自民党総裁選に作用したことは、否めないでしょう。日本語の答弁能力が心許ない小泉進次郎の失速には、選挙を想定した100万自民党員の「顔選び」のリスク回避が働いたのでしょう。かといって高市早苗に乗り換えるには、靖国ばかりでなく、選択的夫婦別姓、対中国・韓国関係等での政策選択の幅が狭まります。高市は、安倍晋三の遺言執行人を任じていますから、推薦人をはじめ支持者には裏金議員・統一教会とつながる壺議員がうようよいて、党内向けには数の力になっても、世論調査では内向きの負のシンボルです。政治改革には後ろ向きで、不適格です。党内力学の消去法で選ばれたのが、アベノミクスのもとで反主流に甘んじていた国防族・石破茂でした。もっともほぼかたまった党執行部・閣僚候補の選択の仕方を見ると、旧態依然の疑似政権交代力学で、そのまま解散・総選挙に臨むことになりそうです。私の注目点は、麻生最高顧問・菅副総裁や小泉選対委員長もありますが、村上誠一郎総務大臣と、内閣官房事務方副長官の元総務事務次官佐藤文俊、および防衛官僚上がりの首相政務秘書官槌道明宏です。
● 4半世紀前のリクルート事件・佐川急便事件などの金権政治スキャンダルは、自民党の長期支配と対抗軸の日本社会党を終わらせ、与野党の再編をもたらしました。いわゆる「55年体制の崩壊」です。細川内閣・村山内閣・羽田内閣と小選挙区制から政党助成法にいたる「政治改革」を進めましたが、社会党解体から自民党の再編で、第二次小渕内閣以降の自公連立政権に代わりました。その間、小沢一郎が、陰の演出者といわれました。15年前は、2大政党制をめざした「政治改革」の枠内での本格的政権交代でしたが、鳩山・菅・野田と民主党の短命政権が続き、東日本大震災・福島原発事故対応で手一杯で、中途半端なまま安倍晋三自公政権の復活を許しました。鳩山内閣の崩壊には、沖縄普天間基地移転問題もありましたが、やはり「政治とカネ」が絡んでいました。野田内閣は、社会保障財源を消費税増税に頼り、民主党を分裂させ、世論から見放されました。それから、あのアベノミクスと日本経済の本格的低迷が続きました。
● 2024年の政治危機は、55年体制を終わらせた「政治とカネ」スキャンダルに勝るとも劣らない広がりと闇です。本来なら、野党のチャンスです。しかし、自民党の側は、高市早苗や旧安倍派国家主義者が百田尚樹らの日本保守党にでも流れれば別ですが、どうやら、石破茂の「挙党一致」風疑似政権交代で乗り切ろうということのようです。野党の側も、政権交代の熱気はなく、一時上向いた日本維新の会は、兵庫県知事スキャンダルや大阪万博の不人気で勢いを失い、日本共産党は。高齢者向けの「革命政党」への先祖帰りで、日本国憲法に適応できない党規律・党内人権侵害顕在化で党役員や議員にも異論続出です。現執行部に忠実に立候補できるのは、どうやら70歳以上のオールド・ボリシェヴィキが大半です。立憲民主党からも若者からすっかり見放され、「市民と野党の共闘」は、夢のまた夢になっています。この野党の選挙協力体制の構築不可能を読み込んで、石破自公新内閣は、アメリカ大統領選後の11月10日投票ではなく、10月9日解散・15日公示・27日投開票という日程で、乗り切ろうとしています。「メディアジャック」の効果もあり、新総裁選出後は内閣支持率・政党支持率がご祝儀相場で多少は上昇しますから、速攻の逃げ切り体制です。相当数の裏金議員・壺議員が公認され再選されるでしょう。
● この10月末選挙では、本来なら企業・団体献金の禁止など政治資金規正法の再改正が論議さるべきですが、短い国会では世襲政治の問題も政策活動費、官房機密費の問題も触れられないでしょう。ですから、野党が重要イシューとして提起しなければ、総選挙での争点になることはありません。経済金融政策におけるアベノミクスとの決別が、物価高と生活苦、賃上げの不均衡と格差是正、日銀の独立性や財政再建、為替相場と外国人投資、防衛費の膨張、それに外国人労働力・移民問題等に関わってきますが、個別問題は、なかなかとりあげられないでしょう。金子勝さんの最新刊『裏金国家』(朝日新書)が、「失敗の本質としてのアベノミクス」「自浄能力なき隠蔽国家」「惨事便乗型防衛費倍増」「仲間内資本主義」「政治献金天下りによるオリガルヒ経済」「円安インフレと格差拡大」などのキャッチーなキーワードで活写していますが、冷戦終焉・バブル崩壊後の日本の21世紀の歩みの全体が、外交・安全保障を含む今日の日本の宿痾を作り出しており、小手先の対症療法では効かない深刻なものです。アメリカ大統領選挙とウクライナ、中東の戦争次第では、衰退期日本の内向きの選挙結果も、予見できない惨禍に巻き込まれる恐れなしとしません。株価の乱高下は当然ですが、主権者たる国民自身の、自省と熟慮が求められるゆえんです。
● 獣医学者の小河孝さん、歴史学者の松野誠也さんと共著で、『検証・100部隊ーー関東軍軍馬防疫廠の細菌戦研究』という書物を、9月5日に刊行しました。やや高価な学術書ですが、本サイトに幾度か寄せられた、旧100部隊員の遺言を受けた「匿名読者」との対話編も入っていますので、多くの皆さんに読んでいただければと願います。11月7日は、ゾルゲ事件のリヒアルト・ゾルゲと尾崎秀実が1944年に国防保安法違反などで死刑に処されて、80周年にあたります。私たちの尾崎=ゾルゲ研究会は、11月7−9日にかけて、中国やロシアからゲストを招き、国際ワークショップを開きます。プログラムは作成中ですが、会場は東京・茗荷谷の拓殖大学茗荷谷校舎E601教室になる予定で、7日夕の私の「ゾルゲ事件研究の現段階」、上海師範大学蘇智良教授「上海から東京へ: 陳翰笙のインテリジェンス生涯」、モスクワ大学A・フェシュン教授の「尾崎とゾルゲとの個人的・事務的関係 」の3本を基調報告として、 8日に、中国・日本の多くの研究者からさまざまな論点での報告が行われ討論されます。詳しくは、プログラムが確定次第、本サイトにも掲載します。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye5774:241002〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。