「日本株式は買い」だったか ―米誌記事の検証と来年の予測―
- 2011年 12月 29日
- 評論・紹介・意見
- 半澤健市日本株
東日本大震災で日本の株価は17.5%も暴落した。
日経平均株価の震災直後の安値は3月15日の8605円15銭で、震災前日10日の10434円38銭に比べて1829円23銭安となった。
《「日本株式は〈買い〉」と書いたバロンズ誌》
「金融が乗っ取った経済」の世界で株価は主要な経済指標である。
ウォール街の有力投資週刊誌『バロンズBarron’s』は、東日本大震災直後の3月19日に「日本株式は買い」と書いた。《半澤記事にリンク》
その論拠は三つあった。
①現在の株価水準が低いこと
②好調な企業業績への打撃は限定的なこと
③原発事故が最悪の場合でも日本亡国の危機には至らないこと
この予想の結果を検証していくことにする。
日経平均株価終値と株価収益率の推移をみていく。
・ 3月10日 10434円38銭(15.85倍)震災前日の終値
・ 3月15日 8605.15 (13.04) 震災後取引3日目
・ 7月 8日 10137.73 (15.41) 震災暴落後の高値
・11月25日 8160.01 (13.66) 震災暴落後の安値
・12月22日 8395.16 (14.66) 本稿執筆時点
地震発生後、取引3日間で1829円23銭の下落をみたのである。それが今年の最安値となった。
米誌バロンズの予想は当たったのかの答えは「イエス」でもあり「ノー」でもある。震災の安値以降、株価が上がったから「イエス」である。その後株価が下がったから「ノー」である。当然ではないのか。そうではない。株式運用者の立場からいえばコトは簡単ではない。最高値で売るのは不可能に近いからである。
《三つの根拠はどうなったのか》
米国誌が書いた三つの条件はどうなったか。
第一 株価収益率(PER)は割安だったか。
震災前日15.85倍、その後も13倍から15倍の範囲で推移している。
PER(ピーイーアール、株価を1株当たり利益で割った数値)は、国民経済の成長率をも反映している。PERが低いから上昇する余地があるのか。そうもいえる。しかし成長率が低い国だから、PERは低く留まるともいえる。現在のPERは日本の成長力が小さい上に、次にに述べる二つの前提を先取りして低いのだと思う。割安ではない。
第二 企業業績への影響は限定的でない。
バロンズは影響は限定的だといったが現時点での業績予想は芳しくないのである。野村総合研究所は、大手企業400社(除金融)の2011年度の業績を、前年度比2.3%の増収、12.9%の経常減益と予想している。減益の理由は大震災、タイ大洪水、円高である。その後の2年は不況底入れや原発再稼働を理由に増収増益をみている。12年度以降の内外経済には不安要因が多い。
第三 大震災の影響は致命的かも知れない。
原発事故は収束したと言っているのは日本政府だけである。国民が政府を信用しないのは今始まったことではない。しかしことが国民の健康と国土の汚染に関するだけに事態は深刻である。野田内閣の不支持率はすでに支持率を上回っている。経済・政治の両輪が機能不全状態、しかも脱原発や復興政策は不徹底であり不十分である。
《世界経済見通しをみれば「日本株式は売り」》
米誌の挙げた三つのポイントは日本国内の要因に限定されていた。その現状と見通しが3月より悪化している。多くのシンクタンクの2012年の世界経済・日本経済の予想はそんなに悪くない。
しかし国内外とも実際は問題山積である。EU発のグローバルな財政危機、国債の連鎖的格下げ、それに発する金融不安、第二のリーマン危機の恐れ、中国の不動産バブルの崩壊、北朝鮮の政権移行問題、来年の主要国首脳の交代。これらの懸念材料は、増大こそすれ減少する気配は少ない。
一方で好材料はほとんどない。
再び世界の投機資金が暴走するのを待つしかないという皮肉な状況である。来年の「日本株式は買い」か。「売り」か。私は後者の可能性が大きいと思っている。すくなくとも80年代バブル崩壊後の安値7054円98銭(2009年3月10日)を割る可能性は大きいと思う。宙づりになっている世界経済の行方が全くわからない。株価はそれを正直に反映しているのである。
■本稿の日経平均投資成果の比較は売買手数料などのコストは無視している。
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〔opinion0735 :111229〕
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