「血塗られたダマスカスへの道:主権国家を襲うトリプル同盟の戦争」(ジェイムズ・ペトラス)
- 2012年 3月 22日
- 時代をみる
- ジェイムズ・ペトラスシリア松元保昭
シリアからイランにいたるきな臭い報道が続いています。遠くはベトナム戦争、9・11に続くアフガニスタンそしてイラクへの侵略戦争の直前にも、かならず一方的に「悪者扱いする」虚構の報道が備えていました。イスラエルのガザ攻撃でイスラエルの戦闘機や無人機からの無差別爆撃がないかのように、一方的にハマースのロケット攻撃ばかりが映し出されるように。シリアは「人道危機」でも「内戦」でもありません。
ジェイムズ・ペトラスが「血塗られたダマスカスへの道:主権国家を襲うトリプル同盟の戦争」という論考で米国とNATOが画策する「シリアからイランにいたる道」を明快に暴いていますので、拙訳(仮訳)ですが紹介いたします。
童子丸開さんも再三「虚構と神話の時代」に生きていると警告を発していますが、ユーラシアに広がる欧米の世界支配戦略、対イスラム世界に対する侵略戦争の虚構と原発(核)問題の虚構とは、深層でつながっているようです。
ジェームズ・ペトラスはニューヨーク州立ビンガムトン大学社会学名誉教授。シオニズム批判、ネオリベラル批判の論考多数。
●出典:Intifada Palestine(2012年3月16日)
http://www.intifada-palestine.com/2012/03/the-bloody-road-to-damascus-the-triple-alliances-war-on-a-sovereign-state/?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+IntifadaPalestine+%28Intifada+Palestine%29
[初出は、http://www.voltairenet.org/The-Bloody-Road-to-Damascus-The 。―「ちきゅう座」編集部]
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■血塗られたダマスカスへの道:主権国家を襲うトリプル同盟の戦争
The Bloody Road to Damascus: The Triple Alliance’s War on a Sovereign State
ジェイムズ・ペトラス
2012年3月16日
欧米と湾岸国の政治家、およびマスメディアによって「不正に抵抗する平和的シリア市民を殺害している」と表現された暴力は、皮肉にも、機関銃を振り回し道端に爆弾を仕掛ける(手引きされた)武装集団が近隣の村々、町々を暴力的に制圧しているという証言報告の隠蔽が同時に入念に計画されている。
シリアに対する激しい襲撃は、外国の資金、武器、および訓練によって支援されている。しかしながら、国内支援が不足しているため、成功させるには直接の外国軍軍事介入が必要となるであろう。こうした理由から、正統なシリア政府を悪魔化するという大掛かりなプロパガンダと外交キャンペーンが演じられてきた。その目標は、中東における傀儡政権の押し付けと西側帝国支配の強化である。短期的には、イスラエルおよび米国による軍事攻撃に備えてイランの孤立化を進め、長期的には、中国およびロシアと親密な他の無宗派の世俗的な(非神政)政権を除去することになるだろう。
イラクおよびリビアの世俗(非神政)政権を首尾よく崩壊させた後、西側、イスラエルおよび資金提供されて権力掌握した湾岸国を後ろ盾に、世界的支援体制動員のためにかなりのプロパガンダ策略が、国家主権にかかわる別の露骨な暴力を正当化するために利用されてきた。
●大状況:連続的な攻撃
シリアの独立したアサド政権に対する最近の西側キャンペーンは、北アフリカからペルシャ湾に及ぶ民主化運動と独立政権に対する一連の攻撃の一部である。ムバラク独裁政権を転覆させたエジプトの民主化運動に対する帝国的軍国主義者の反応は、1万人を超える民主主義擁護の抗議者を投獄、拷問、暗殺する殺害キャンペーンと軍事政権の権力奪取を支援することであった。
アラブ世界の類似した大多数の民主化運動に直面して、西側諸国を後ろ盾にする湾岸の独裁的な支配者たちは、バーレーン、イエメンおよびサウジアラビアでそれぞれの暴動を弾圧した。襲撃は、NATO軍が外国人傭兵部隊の支援で大量の空爆および海からの爆撃を展開して、リビアの経済と市民社会を破壊しリビアに世俗(非神政)政権を提供した。ギャング傭兵部隊のくさりを解いたことによって、リビアの都市生活は野蛮に転じ地方の荒廃を引き起した。
NATO軍はカダフィ大佐の世俗(非神政)政権を抹殺し、さらに彼は殺害され傭兵たちによって切断された。NATO軍関係者は、何万ものカダフィ支援者と政府職員を抹殺し投獄し拷問し傷害を与えていたことのすべてを見ていた。サハラ以南アフリカの移民労働者のようにカダフィの豊富な社会プログラムから利益を得ていたグループと同じくサハラ以南アフリカの家系に属するリビア市民に対する血塗られたポグロム(殺戮)に乗り出した傀儡政権をNATOは支援した。リビアにおける破滅と支配の帝国政策は、シリアの「モデル」の役割を果たしている。すなわち大衆暴動の状況創出は、西側および湾岸諸国の傭兵に資金提供を受けて訓練されたムスリム原理主義者によって先導された。
●ダマスカスからテヘランへの血塗られた道
米国務省の「ダマスカスを通るテヘランへの道」によれば:NATOの戦略目標は、中東におけるイランの主要な同盟国を破壊すること。:湾岸専制主義者の君主政体にかんして、その目的は世俗的な共和制を家臣の神政独裁政権に取って換えること。:トルコ政府にかんして、その目的はイスラム的資本主義のアンカラ・バージョンの指令に従順な政権を育成すること。:アルカイダおよびサラフィ派とワッハーブ派が同盟した原理主義者にかんしては、世俗的(非神政)シリア人、およびアラウィ派とキリスト教徒に浄化された神政スンニー派政権は、イスラム世界において新たなプロジェクト・パワーの踏み台として仕えることになる。:また血に染まり分裂したシリアは、イスラエルにとってその地域ヘゲモニーをさらに確実なものとするだろう。:超シオニストの米国上院議員ジョセフ・リーバーマンが2001年9月11日の「アルカイダ」攻撃後に要求した当時、予言的な先見性がなかったわけではない。:その行為の実際の立案者が誰であるかを考える前に、「まずわれわれは、イラン、イラク、そしてシリアを追跡しなければならない」。
長年複雑に統治されてきた多民族社会のシリアでは、無党派の世俗的(非神政)な民族主義政権は共通の憎悪によって一体化しているにすぎないもので、武装した反シリア軍は政治的な見方にかんする多様な対立を反映している。シリアに対する戦争は、北アフリカからペルシャ湾に及ぶ西側軍国主義の勢力拡張のさらなる再起復活のための原理的な足がかりである。そしてNATOは、シリア人の代理人として民主的・人道的かつ「文明化」の使命と宣言する系統的なプロパガンダ・キャンペーンを強化している。
●ダマスカスへの道は嘘で敷きつめられている
シリアにおける武装戦士の主義主張についての政治的社会的構図の客観的分析は、暴動はその国の一般民衆が民主主義を追求していることだといういかなる主張も拒否する。権威主義者であり原理主義者である戦士たちが暴動の中核をなしている。これらの野蛮な暴徒に資金提供している湾岸諸国は、それら自身が絶対君主国である。リビアの一般民衆を襲う残忍なギャング政権を押し付けた欧米は、「人道的介入」の要求などできた話ではない。
武装グループは町々に潜入し、政府軍に攻撃を浴びせる際の盾として住民の中心地を利用している。この過程で彼らは、軍事的な前哨基地に利用するために何千人もの市民を暴力的に家々、商店、職場から追放している。ホムスのババ・アムル地区の破壊は、政府を悪魔化する宣伝材料として市民を盾に利用している武装ギャングの典型的なケースである。
これらの武装した傭兵は、シリア人全体に国民的信用をまったく持っていない。彼らの主要なプロパガンダ製造工場のひとつはロンドンの中心にある。NATO軍介入に味方し思わず感傷的になるような残忍な物語を作り出しては英国諜報機関と綿密に連絡して動いている、その名も「シリアの人権監視所」である。湾岸諸国の首長および王族たちはこれらの暴徒に資金援助しており、トルコは軍事基地を提供し、さらに国境線を越えて武器の流れといわゆる「自由シリア軍」の先導者たちの動きをコントロールしている。米国、フランスおよび英国は、武器、訓練、および外交的援護を提供している。リビア、イラク、およびアフガニスタンのアルカイダ戦士を含む国外のジハード原理主義者たちは混乱と対立を持ち込んだ。
これは「内戦」ではない。これは、無党派世俗(非神政)民族主義政権に対抗して、NATOの帝国主義者、湾岸国の専制君主、ムスリム原理主義者という邪悪なトリプル同盟を戦わせるひとつの国際紛争である。兵器、プロパガンダ機構、および傭兵戦士の外国起源は、「多国籍な」対立の性格をもつ不吉な帝国という本性を表している。シリア国家に対抗する激しい暴動は、根本的にはシリアの経済と市民社会を破壊する犠牲のうえでイラン、ロシア、中国の同盟国を転覆させる帝国主義者の系統的なキャンペーンを象徴している。さらにそれは、世俗(非宗教)政府の支持者と同様に、アラウィ派と少数派キリスト教徒に対する根絶の宗派間戦争を引き起して国家をバラバラに分断することをも意味している。
殺害と大量の難民流出は、血に飢えたシリア国家によって犯された不当な暴力の結果ではない。西側に支援された反乱軍は、政府庁舎を爆破し、輸送機関を妨害し、石油パイプラインを破壊し、武力によって地域を制圧した。攻撃の間、彼らは、教育、医療へのアクセス、治安、水、電気および交通を含むシリア国民にとって重大な基盤事業を遮断し混乱させた。このように(帝国の同盟国と国連当局はその責任をシリアの治安と軍隊に負わせているが)この「人道的惨事」なるものの責任の大部分は彼ら(反乱軍)が負っている。ワシントン、リヤド、テルアビブ、アンカラ、およびロンドンの国外依頼主の代理として武力対決が暴力を振るう一方で、シリア治安部隊は非神政(世俗)国家の民族独立を維持するため戦っている。
●結論
アサド政権の国民投票は、西側帝国主義者の脅迫およびテロリストのボイコット呼びかけをものともせず、先月シリアの何百万もの有権者を引き寄せた。これは明らかに、シリアの大多数が交渉による和解の平和および傭兵暴力の拒絶を望んでいるということを示している。西側が支援する「シリア国民評議会」、およびトルコと湾岸諸国の武装「自由シリア軍」は、アサド政権が受諾した開かれた対話と交渉を呼びかけているロシアおよび中国をきっぱりと拒絶している。
NATOおよび湾岸国独裁政権は、すでにシリアの何千人もの死者を生み出した暴力的な「政権交代」という方針を追求するために代理人を押し付けている。米国およびヨーロッパの経済制裁は、深刻な欠乏が疲弊した住民を彼らの暴力的な代理人の腕の中に追いやるだろうと期待しシリア経済を破壊するために計画されている。リビア・シナリオの再演において、NATOはシリアの経済、市民社会および世俗(非神政)国家を破壊して、シリアの国民を「解放」しようというのだ。
シリアにおける西側の軍事的勝利は、たんに増大する軍国主義の熱狂を助長するにすぎない。それは、欧米、リヤド、およびレバノンで新しい市民戦を引き起したイスラエルを勇気づけるだろう。シリアを破壊した後、ワシントン、EU,リヤド、テルアビブ枢軸は、はるかに血なまぐさいイランとの対決に移るだろう。
イラクの恐るべき破壊、引き続くリビアの戦後崩壊は、シリア人民に降りかかろうとしている恐ろしいひな型を示している。:生活水準の急激な崩壊、国家の分裂状態、民族浄化、宗派および原理主義ギャングの支配、さらに生命と所有権のすべてが脅かされる。
まさに「左翼」と「進歩主義者」は、「反政府民主派の革命的戦い」であるとリビアに対して容赦ない非難を表明し、ついでリビア黒人に対する人種的暴力で血塗られたあと手を洗ってさっさと立ち去り、こんどはシリアに対して同じ軍事介入の要求を繰り返すのだ。マンハッタンやパリのカフェやオフィスからシリアの「人道的危機」に干渉するよう欧米に要求している、この同じ自由主義者、進歩主義者、社会主義者、およびマルクス主義者たちは、ダマスカス、アレッポ、他のシリアの町々が服従しNATOによって爆撃された後、勝利に浮かれた傭兵たちの血塗られたどんちゃん騒ぎの中ですべての関心を忘れ去るだろう。
(以上、松元保昭訳)
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye1879:120322〕
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