朴大統領、安倍首相と日韓関係(下)
- 2014年 5月 26日
- 評論・紹介・意見
- 坂井定雄韓国
―平井久志氏の分析に納得
▽打開の動きを断ち切った靖国参拝
だが、朴大統領が対日関係改善の希望を全く捨てていたわけではない。平井氏は、それを注視している―「朴槿恵大統領は、昨年8月15日の『光復節』の演説では対日非難の論調をかなり抑えた。大統領は『日本は、北東アジアの平和と繁栄を共に開いていく隣人です』と前置きし『わたしは、大多数の日本の国民は韓日両国が北東アジアの平和と繁栄を共に創っていくことを念願していると、信じています。既に両国国民の間には、信頼の底辺がとても広く、韓国と日本の若者たちや多くの人々は、韓流やお互いの文化を共有し、心を分かち合い近づいています。』と指摘した。」
「朴大統領の演説の約2時間後、安倍首相は全国戦没者追悼の式辞をのべたが、(過去の首相が言ってきた)アジア諸国への加害責任と深い反省については触れなかった。」
「こうした中、韓国では、日韓関係の悪化を放置してよいのかという声も出始めた。有力紙、朝鮮日報の金大中顧問は10月19日付のコラムで『一国の指導者たる者、時には国民感情を乗り越え未来を見なければならない。両国関係を今のような状態のまま、いつまでも放置しておくのか』と訴えた。」
韓国内の雰囲気の変化などを受けて、日韓の水面下では、日韓首脳会談実現に向けた動きが出始めていた。しかしそれは、安倍政権発足1年目の12月26日に、安倍首相が靖国神社を参拝したことで霧散した。
▽反日ではない大統領
「朴クネ大統領は決して「反日」の人ではない。日本の過去の歴史であったことをなかったように装い、自国を「美しい国」と美化する安倍政権の「歴史修正主義」に反対を唱えているだけである。
韓国社会は保守勢力と進歩勢力が激しく対立しているが、この日本の歴史修正主義に反対することでは一致している」
「朴大統領は大変な『父親っ子』であり、朴チョンヒ大統領の功績を誰よりも評価している。その意味で、日韓国交正常化を強行した父の業績を否定することはあり得ない。
父が大きな反対を押し切ってやった日韓正常化だからこそ、その日本が過去の植民地支配を正当化したり、従軍慰安婦など過去の歴史の傷を治癒しようとせず、逆に傷口を広げるようなことが許せないのだ。」
▽村山談話、河野談話が焦点に
今年になると、オバマ大統領のアジア歴訪(4月)を控え、日韓関係の改善を求める米国政府の強い意向が日韓両政府を動かし始めた。日韓首脳会談の開催が両政府の大きな課題になった。
「朴大統領は1月6日の年頭記者会見で、朝鮮半島の植民地支配と侵略を認めた『村山談話』と、従軍慰安婦をめぐる旧日本軍の関与と強制性を認めた『河野談話』が日韓関係の『基礎』であるとし、両談話の堅持を要求した。そのうえで日韓首脳会談については、『両国関係の発展に役立つ結果が出せるよう、事前の準備が必要だ』と述べた。」
安倍政権の閣僚や周辺には、かねてから両談話の見直し,検証を求める主張があり、韓国側は懸念を強めていた。管官房長官は2月21日の記者会見で、河野談話の根拠となった元慰安婦の証言内容を検証する意向を示した。「これに対し韓国外務省当局者は『河野談話を否定する試み』と反発し『韓日関係の基礎となってきた正しい歴史認識の根幹を崩すことにほかならない』とした」
「朴大統領は3月1日の独立運動式典の演説で、約3分の1を従軍慰安婦問題に割き、日本政府が河野談話を継承することを求めた。朴大統領は『生涯を悲痛の中で暮らし、55人しか残っていない』『歴史の真実は生きている方々の証言だ』と訴えた」
結局、菅官房長官が3月10日の記者会見で、河野談話の『見直しは考えていない』と明言。これを受け米国務省のサキ報道官は同日、村山・河野談話について『日本が近隣諸国との関係を改善するうえで重要な節目となった』と評価した。
これに続いて斎木外務事務次官が3月12日、訪韓して趙外交部第一次官と会談しハーグでの日米間首脳会談について協議した。
「安倍首相は3月14日の参院予算委員会で、河野談話について『安倍内閣で見直すことは考えていない』と表明し、菅官房長官も『河野談話を継承する』と言明した。」米国務省報道官は同日、安倍首相の発言について「発言を歓迎する」と評価した。
「朴大統領も15日、安倍首相のこの発言について『幸いに思う』と発言した。」日韓両国は3月21日、ハーグで日米首脳会談を25日に開催すると発表した。「米国の仲介に、北朝鮮の核問題を議題に作り上げた、ようやくの合意だった。」
しかし、安倍首相の側近である萩生田光一総裁特別補佐は23日、「『新たな事実が出てくれば、それに基づき新たな政治談話を出すことはおかしなことではない』述べ、河野談話に代わる新たな談話の可能性を指摘した。」「韓国側からしてみれば、またしても『信頼』は崩れた。韓国では、安倍政権の河野談話継承表明は日米間首脳会談やオバマ大統領訪日への一時しのぎで、安倍政権の本音は荻生田発言にあると感じられた。朴大統領が安倍首相の韓国語の語り掛けに、笑顔で応じることができなかった背景だ。』
▽来年は日韓正常化50周年
来年は日韓国交正常化から50周年の重要な節目の年だ。平井氏は論考のまとめの章で、今年14年に双方が正常化への努力を積み重ねるよう訴えるとともに、歴史問題の和解のために、まず韓国で生存している55人の元慰安婦への対応の重要性を強調している―。
「米国でも慰安婦の少女像や日本海(韓国名は『東海』)の呼称問題を巡り、日韓の対立が広まっている。日韓が米国でロビー競争をするような状況が生まれているが、まず取り組むのは米国の少女の像よりも、韓国にいる元慰安婦の方々への対応だろう。この人たちが亡くなってからでは、日本は歴史問題での和解の機会を失う。この問題への取り組みが状況を動かすことは間違いない。
日韓両国は2015年に国交正常化50周年を迎える。日韓の間では竹島、慰安婦、強制徴用、日本海呼称、教科書などの諸問題が存在するが、どれも歴史に起因する問題だ。国交を正常化して半世紀を迎える中で、お互いが歴史と向かい合うしかない状況になっている。」
「日韓関係が正常化するためには、安倍政権が『村山・河野談話継承』を明確化し、韓国との『信頼』を積み重ね、日本の国民も自らの内部から出始めている排外主義の芽を摘まねばならない。韓国も反日原理主義に走らず、東アジアの現実を認識して日韓関係の枠組みを維持する、広い視野に立った対応が望まれる。最初の試金石は、55人の慰安婦の方々の傷をどう癒すかだ。日本の努力と韓国の寛容な姿勢が望まれる。
来年は日韓が友好的な関係に戻るのか、葛藤を激化させていくのかの分水嶺の年になりかねない。日韓の『信頼』は、待っていてはつくれない。14年に積み重ねる努力が15年をうごかしていくだろう。」(了)
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