安倍政権は、正々堂々と、憲法改正の是非を問え
- 2014年 5月 26日
- 評論・紹介・意見
- 熊王信之
世情は、集団的自衛権行使の是非を巡り緊迫していますが、この問題の基本法である憲法第9条を、もう一度、虚心に読んでみては如何でしょうか。
まず、条文です。 日本国憲法の第二章には、第9条のみしかありません。
第二章 戦争の放棄
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、①国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
②前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
この条文を普通に読めば、日本国は、戦争を放棄し、そのために、陸海空軍等の軍備を持たない、となるでしょう。 でも、戦後のある時期から、憲法制定議会での議論を離れて、下線部①と②を特異に解釈(或は特に強調)して、結果的に自衛のためなら軍備を持て得るし、自衛のためなら戦争も出来得る、と、次第に解釈を拡張して、現在まで来たのです。
その特異な解釈論の典型では、まず、下線部①は、侵略戦争のことを言っている、と限定し、第一項では、自衛戦争は禁じられていない、と解釈するのです。 そして、下線部②に依り、第一項の限定解釈を敷衍して、侵略戦争をするための軍備は持てないが、自衛のためなら軍備を持てる、と解釈するのです。 或は、朝鮮戦争時に「警察予備隊」が創設された当初のように、「陸海空軍その他の戦力」でなければ保持出来る、と解するのです。 「自衛隊」と云う組織名は、このようにして成立したのです。
此処でいう「交戦権」とは、国際法上の交戦権で、一例を挙げれば、戦時国際法としての傷病者及び捕虜の待遇改善のための国際条約であるジュネーブ条約です。 上記の特異な解釈論では、下線部②がこの文言には及ばない、とされるものと、下線部②は、この文言にも及ぶ、とされて、自衛戦争名目ならば、交戦権も認められる、との解釈に依ることになるものがあります。
上記のように、自衛戦争と自衛隊の合法化を認める憲法解釈には、幾らかの異なった学説と、その変遷があります。 いずれにしても、私には、とても同意は出来かねます。 が、一部の有力な憲法学者が、この説を主張されたのは事実です。 過去には、故佐々木惣一氏が、その憲法学の著書でこの説に依られています。 京都学派の重鎮であった氏が主張されたことから、一定の影響があったことは事実ですが、憲法学者の多数説としては、小異はあるものの、前記のように自衛戦争も侵略戦争も禁じられている、と解するのが普通でした。
ただ、国連憲章でも認められている、国家が当然に有する「自衛権」の行使は、日本国憲法でも禁じられてはいない、とするのが普通です。 その場合にも、軍備を有しなければ、日本の場合なら、領海警備に任じる海上保安庁等の警察力、或は、国民の抵抗運動等のレジスタンスで抵抗するしか憲法上では、有り得ない、とされるのが普通の憲法解釈の多数説に依るものです。
私自身は、今日の国際社会の現状から、一定の国防上の有形力の保持は必要であり、国家の治安維持上の必要からも、警察力では対応できない、例えば内乱に処する有形力の保持も必要なことから、最小限の国防力は要る、との立場ですが、その立場に立っても、尚、法律学徒としては、多数説を肯定するしか他には無いものと思われます。
ところが、今の安倍政権の依ろうとされている憲法解釈は、とても法律学では、云々出来得ないものです。 自国への窮迫不正の侵害に対するために、自衛権の発動を行おうとするのを合法化しようとしていた憲法解釈ならば、少数ではありますが、一定の憲法学説も存在するところから、法律学的な論争も有意義ではありましたが、自国への窮迫不正の攻撃を超えて集団的自衛権の発動を合法化することは、最早、憲法解釈を超えたもの、という他はありません。
法治国家に於いて、法に依らずに、或は、到底、法律学上では解釈出来得ない「解釈」に依り、国家の政策を左右せんとすることは、認めがたい不法、と云わねばなりません。 こうした事例は、過去には、ワイマール憲法を実質的に、その実定法としての法効果を停止したナチスの行いに比例し得るものです。 保守政治家までもが、政治的立場を超えて、こうした策動に反対しているのは、政策の選択では無くて、国家存立の基盤が揺らぐ事態を憂うる立場からでしょう。
今日まで、営々として築き上げた国家の基盤をも揺るがしかねない策動を許しては、立憲主義の法治国家ではなくなってしまいます。
日本が法治国家として合法的に存在し、正当性を持った国家として世界に向き合うためには、憲法改正の是非を国民に問う必要があるのではないのでしょうか。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion4859:140526〕
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