パロディ -タケシの独断「悪代官と悪徳商人」-
- 2014年 7月 5日
- カルチャー
- パロディ盛田常夫
昔から言うじゃない、「魚心あれば水心」ってね。悪徳商人がお代官様の袖の下に、そうっと金子(きんす)を忍ばせてさ。「竹端(たけはし)様、件(くだん)の人足派遣の案件、当方に回るようによろしくお願いします」ってね。「分っておる。それよりな、南部屋(なんぶや)、また若い娘を世話してくれ。よろしくな」。「竹端様、お安い御用で。今度もとびきりの娘を送りますから。くれぐれもよろしく」なんてね。
「ところで、南部屋。つかぬことを聞くが、この前の宴にそちが招いておった役者の飛鳥乃蒸だがの、お上の目付け役からな、南蛮渡来の媚薬を使うておるのではないかと疑われておるのだが、お主に何か心当たりはあるか」。「竹端様、手前どもは堅気の仕事しかしておりませんで、ご禁制の品物など、まったく与り知りません」。「いや、お主を疑っているのではない。その方の招いた客の中に、媚薬を持っている者がいるのではないかと尋ねているのだ」。「竹端様、媚薬の話は聞いたことはありますが、目にしたことはございません」。「いや、他言してはならぬがのう、ワシもな、その媚薬とやらに興味があるゆえ、お主に尋ねているのじゃ。何か良い知らせがあったら、連絡をくれ」。「竹端様。それはいけません。役者や芸人が媚薬を使っても許されるところはありますが、堅気のわれわれがご禁制の品を扱ったとなれば、ただでは済みませぬ。竹端様も、お立場をお踏まえになって、重々、お慎みのほどを」。
こんな光景はテレビの時代劇で嫌と言うほど見てるね。権力と業者の癒着は江戸幕府成立からある話なんでさ、戦国時代だったら武士の矜持があるけど、権力が安定してくると武士は堕落するからね。みんな利権をめぐって、あの手この手で権力に取り入って、一儲けしようと考えるから、役人と商人の癒着が始まるってことさ。うまい話には公金が絡んでいるから、利権を落とすために、権力者を籠絡(ろうらく)するってわけ。昔も今も手口は同じだね。金を握らすか、女をあてがうかのどっちかだよ。オイラに言わせりゃ、これは「人類普遍の利権法則」だね。まぁ、こういう場に歌舞伎役者なんていう芸人の登場も必要になるわけでさ。オイラみたいな芸人は金に弱いから、金でどうにでも動くさ。お代官様を招いたパーティに名が知られた役者や芸人を連れて行けば、「南部屋、お主もなかなかやるのう」なんて、株があがるからね。そういう場にノコノコ出かける芸人を批判する人もいるけどね、芸人は場を盛り上げるのが仕事だから、何の違和感もないさ。
「南部屋。あの芸人なかなかのものじゃのう。あれと一晩何とかできないか」。「竹端様。それだけはご勘弁を。あれはただの飾りでございます。あれを相手にしますと、人目について、面倒が起こります。その代わりに、特上の生娘をお世話しますので、ご勘弁のほどを」。芸人は客引き用の道具なんでさ、見本や飾りに手を付けちゃいけませんってこと。何事にも限度や自重が必要なわけでさ、それを超えるとしっぺ返しを食ってことよ。調子に乗り過ぎて尻尾を掴まれ、悪事が暴露されるってのも普遍的な法則だね。
ASKA逮捕のニュースを聞いて、びっくりしたね。オイラには、ASKAでもCHAGEでもどちらでもいいんだけどさ、びっくりしたのはASKAじゃなくて、女の方だよ。どんな女かと思ったら、会社のOLだとさ。家賃が月15万円もするマンションに住んでるってじゃない。たまげたね。ふつうのOLがそんなところに住めるわけないさ。てっきりASKAが面倒見てるのかって思ったら、これがそうじゃないんでね。南部屋がもっている置屋の社員だってーの。「えっ」、て思ったね。会社が借り受けているマンションだって。そんな馬鹿な。代官様でもないASKAがどうしてって思うのが甘いんだね。場を盛り上げてくれる芸人にも、それなりの役得が必要ってわけさ。そのご褒美に南部屋から生娘をあてがわれてるって考えりゃ、納得が行くね。南部屋がマンションを借り受けるように指示していれば、何の不思議もないってこと。要するに、南部屋の子会社が「置屋」稼業だって考えれば、すべてが説明つくってことさ。
オイラのところにはいろいろな情報が入ってくるから、南部屋の噂は前から聞いてたよ。あそこに行けば、良い思いができるってさ。お代官様やお目付様を呼んでさ、役者や芸人を集めて夜な夜なパーティを開いてるって噂だね。南部屋が差し出した素人の綺麗どころをさ、選り取り見取りってわけ。役者と代官様が綺麗どころを取り合ってたという話もあるけどね。まるで、「南部屋の喜び組」か、「南部屋のハーレム」ってところだね。
最初からオイラにお呼びかかってれば、何なんだけどさ。まぁ、悔しくて言うわけじゃないけどね、未だに一度も声がかからないからね。だから、オイラは南部屋に何の義理もないってことさ。
そういえば、俺の知り合いの事務所にもさ、南部屋の若い娘が人足のセールスに来たことがあってさ。それが可愛い娘なんでね、田舎から出てミス寺子屋に選ばれたことがあるっての。その新入り娘がね、南部屋の主人を知っているというわけ。南部屋はそこそこの大きな稼業だから、入りたての子娘がどうしてご主人様と面談できるのか変だと思ったのさ。ところがさ、ASKAの件で合点がいったね。「置屋」の若返りが必要になったらさ、「人足業」で採用した新卒が呼び出されて、「置屋」のローテーションに回されるってことだね。そのためにも、新卒の女の子には南部屋直々の面接か、筆頭番頭の個人面接が必須になっているわけだよ。そうやってリストアップされた可愛い娘は、本業で頑張ってもらわなくても良いから、別の稼業で活躍してもらうってことなんでね。まぁ、人足稼業も置屋稼業も人材派遣に変わらないんでさ、「社命」を受ける方もそれほど深刻に考えないということだろうね。
オイラは何も南部屋を非難してるわけじゃないんでね。南部屋にも偉いところがあってさ、若い娘が入ってきてお役ご免になった置屋の女の面倒をきちんと見てるって話だね。だから、内部告発が起こらないんだって話してくれた人がいてね、俺なんかももっと見習わなくてはなんてさ、反省もしたわけ。
泣き言を言うわけじゃないけど、俺にも南部屋の目付役かなんかの仕事をくれてさ、「女の子の面接だけでもお願いします」って言われりゃ、「お安いご用で」なんて引き受けてさ、こんなところにくだくだ書くこともないんだけどね。オイラは何の仕事ももらってないもんね、南部屋からは。
南部屋にまつわる話はこれで終わらないってところが、ちと複雑なところだね。噂によれば、幕府の元目付役の後原様の奥方が、南部屋の女中頭だっていうじゃない。これも、「えっ」、ってところだね。しかもさ、後原様のお目付役解任後に生活が困っているご家来衆の面倒まで南部屋が見てるっていうことだよ。南部屋と後原様の関係は尋常じゃないね。本当かどうか知らないが、その背後には、「ネズミ講」が絡んでるっていうから、事実は奇なり、複雑怪奇、魑魅魍魎。世の中、どうなってるのかね。
南部屋が「ネズミ講」の元締めで、お代官様や幕臣方も「ネズミ講」と裏でつながっていたりしたら怖いね。オイラには何が何だかさっぱり分からないね。はっきりしているのはさ、利権、金、女、ネズミ講人脈を使ってさ、お互いに良い思いをしようってことだね。自分の金で勝手にやるのは構わないさ。俺の知っている商人のなかにはさ、本業で儲けた金で、会員制のクラブなんぞ作ってさ、寺小屋の娘さんたちに接待させているのもいるけどね。自分で儲けた金を使ってんなら良いさ。法律に違反していなければね。けどさ、幕府の公金が絡んでいると、見逃せないね。民から集めた年貢を、そうやって分け合ってもらっちゃ困るっての。こういう権力が絡んだ陰謀は根が深いから、瓦版の記者も及び腰だね。皆、購読中止や広告差し止めなんていう仕返しを恐れてさ、事の真相に迫らないのさ。メディアの堕落だね。芸人たちのゴシップだけを追いかけている脳足りんな記者には、思いも付かないことだけどね。だけど、オイラは、こんな不正を見逃せないね。
そうこうしているうちにさ、今ではネズミ講人脈が、幕府の外交政策まで動かすってじゃない。「利権は国益より強し」ってことだよ。こうなると、本末転倒だね。なんとかしないと、国が滅びるね。ジャンジャン!
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