青山森人の東チモールだより 第279号(2014年10月5日)
- 2014年 10月 6日
- 評論・紹介・意見
- チモール青山森人
この有様で来年の予算だと?
教育省による幻の教育番組
東チモール第4次政府(現在は第5次)であるシャナナ=グズマン第一期連立政権で教育大臣を務めたジョアン=カンシオ氏の裁判がデリ(ディリ、Dili)地方裁判所ですでに始まり、10月1日に第二回目、2日に第三回目の公判が開かれ、次回は10月の15日に開かれるという進行状況です。
ジョアン=カンシオ元教育相の容疑は商業活動にかかわったこと、つまり汚職です。同じシャナナ=グズマン第一次連立政権で法務大臣を務めたルシア=ロバト元受刑者は8月30日に大統領の恩赦によって自由の身になったことは前号の『東チモールだより』で書いたとおりですが、またしても元大臣の汚職疑惑が裁判にかけられているのです。
カンシオ元教育大臣にかけられている嫌疑をわたしなりに噛み砕いていうと、25万ドル以上とも150万ドルともいわれる教育番組作製事業が幻に終わるなかでの不透明な資金の使い方です。2回目と3回目の公判では、教育番組を製作するためオーストラリアから購入した機材を巡る証言がとられました。例えば、デリの港に到着した機材を正規の手続きを通過しないで番組製作のスタジオのある教育省にすぐ運ばれた不可解な出来事や、それが当時の大臣の指示であったこと、そして結局この機材は一度も使われることなく、したがって番組も作製されることなく今もそこに放置されていること、当時のカンシオ教育大臣がなぜか中古の機材を購入しようと努め、オーストラリアのダーウィンにまで赴いたことなどが証言されています(『チモールポスト』2014年10月2日・3日より)。なんとも摩訶不思議な教育省の仕事ぶりの実態が浮かび上がります。
カンシオ元教育大臣は商業活動にかかわった容疑で起訴されていますが、たんに誤った管理によって教育番組製作事業がぽしゃったのか、元教育大臣がこの事業を通して利益を得ようとする者たちに積極的に便宜を図ったのか……このことがしっかりと明らかになることを期待します。
なんといっても教育はこの国で全力を尽くして最優先事項として取り組まなくてはならない事業ですが、それを担う教育省がこんな有様なのですから、いま目にすることができる子どもたち・若者たちの放置のされようがさもありなんとうなずけるような気がします。
現役の財務大臣も……
閣僚の汚職疑惑にたいして大臣をかばい、逆に検察や反汚職委員会やジャーナリストに批判の矛先をむける悪い癖があるシャナナ首相は、カンシオ元教育大臣をもかばう発言をしたかどうかはわたしはちょっと知りませんが、地味なカンシオ元大臣よりかるかに汚職の話題の渦中にあるエミリア=ピレス財務大臣を強くかばい続けいています。しかし検察は負けずにピレス財務大臣を7月下旬に起訴しました。
ピレス財務大臣の容疑は、夫の経営するオーストラリアの会社が国立病院に入れるベッドや医療機器の購入を担当するように便宜を図ったことです(『東チモールだより 第227号』〔2012年12月31日〕参照)。当時の保健省のマダレナ=ハンジャン副大臣も同時に起訴されました。大臣と元副大臣、この二人の女性の初公判は11月に開かれる予定です。
よくやった検察!偉い!悪い奴ほどよく眠らせてはならぬ!と声援を送りたいほどです。しかしここでひっかかるのは、つい先ごろのタウル=マタン=ルアク大統領によるルシア=ロバト元法務大臣にたいする恩赦です。もしかして、これから政府要人の起訴と裁判が雁首そろえて順番待ちになっている現状において、検察やジャーナリストに噛み付く悪い癖のある首相に大人しくしてもらうために、大統領恩赦というものがあるのでそこんとこを慮って司法にとやかく発言するのは控えるようにしてくださいなと大統領は首相に妥協を示したのではないか(あるいはその逆で示されたか)……と下衆の勘繰りをしたくなります。
来年度の予算を決める資格は現政府にあるだろうか?
オーストラリア・アメリカの出張を終えて帰国途中にあったシャナナ首相は、バリ島で体調を崩し帰国日をやむなく延期し、10月1日、帰国ました。最近のシャナナ首相の体型を見ると、ラモス=オルタ前大統領とマリ=アルカテリ前首相もそうですが、重そうなでっぷりとした腹が突き出ており、とても健康そうには見えません。聞くところによればシャナナ首相は相当のヘビースモーカーとのこと。かれも寄る年波、70に近づいています。健康に十分留意してもらわないと困ります。東チモールは子ども・若者らの高い喫煙率が問題視されている発展途上国としても注意を喚起されている国です。まずはこの国を代表する第一人者がいいお手本を示してほしいものです。
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最近のたばこの広告にはテトゥン語でFUMA OHO ITA(喫煙はあなたを殺す)と強烈な注意書きが添えられている。それでもあなたは吸いますか。ビラベルデにて、2014年9月26日。ⒸAoyama Morito
シャナナ首相の去年の発表によれば年内中に辞任することになっています。このままズルズルと首相の座に坐ってはしめしがつかず、随分とカッコが悪いのではないでしょうか。それでも辞任する・しないはあくまでも本人個人の意思の問題という面もあります。しかし8月に公言した内閣改造は個人の意思の問題ではすまされません。もう10月です。
辞任するといって辞任せず、内閣改造するといってその気配を見せず、元教育大臣・現役の財務大臣は起訴され、これからも政府要人の起訴・裁判が待ち構えている……こうした状況で(わたしは末期的症状とつい思ってしまう)、なんと来年の国家予算15億ドルが閣議で決まったというのです。その額が適切かどうかを問う以前に、いまの政府に来年の予算を決める道義的な資格があるかどうかが問われます。果たしてシャナナ首相は大丈夫でしょうか?
9月29日、ラ=サマ副首相(シャナナ首相が海外出張中なので首相代理)は内閣改造について追うメディアにたいし、内閣改造をつけ回してはいけないと批判しました。しかし批判されるべきはどう考えても政府の方です。なにせ首相が内閣改造をするといってからほぼ2ヶ月もたったのだから、これをしつこくつけ回さない方がおかしい。それともそれが政府の望む報道姿勢なのでしょうか。そう考える政府だとしたら悪法「メディア法」を成立させようとする性根も理解できます。
『チモールポスト』(2014年10月3日)に、「内閣改造についてメディアに間違ったことを言うべきではない」というタイトルがついた、政府のこの発言に反発する「人民の声」という欄があります。そのなかで紹介された4人の大学生の声は至極まっとうです。
「政府のいうことは正しくない。メディアは情報をつかもうとする権利がある」。
「政府の言い分には同意できない。情報を政府から人々へ、人々から政府へ提供するのがメディアの役割だと思う」。
「政府内の問題は何か、何が起こっているのか、国民は知りたがっている」。
「政府の発言は悲しいし、報道の自由を殺すものとして同意できない」。
いまの政府には期待できませんが、健全な若者たちには期待できそうです。まさに、「親が無くても子が育つ」。汚職で闇に消えるお金があったら、子どもたち・若者たちにたっぷりと投資すべきです。それが東チモールの歩む道であると確信します。
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東チモール版・犯罪科学捜査班の看板。『CSI:チモール』なんて新番組ができる…わけがないか。カイコリにて、2014年9月26日。ⒸAoyama Morito
~次号へ続く~
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion5010:141006〕
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