原油と中国より怖いアメリカ経済 - 7年振りに紹介する一つの米国株バブル論 -
- 2016年 1月 29日
- 時代をみる
- アメリカバブル半澤健市
世界銀行が2016年の平均原油価格を37ドルと予想した。世界の株価は戻り始めた。市場が嫌うのは悪材料よりその範囲が全く予想できないことである。その意味で今回の発表は一種の安堵感をもたらしたといえる。しかも2017年は上昇に転ずるというのである。もう一つの悪材料である中国の景況は、依然として不透明だ。それでもGDP6%台成長は、本当だとすれば、日本の高度成長と比べても驚異的である。贅沢はいえない。
そこへ問題は米国経済だという警告が発せられた。それはベテランのエコノミスト中前忠(なかまえ・ただし)氏からである。本稿はその紹介に過ぎないが、大いに傾聴に値すると思う。読者に是非知って欲しいのである。日経新聞のコラム「十字路」(2016年1月19日夕刊)で、氏は「米国経済は万全か」と題して概要次のように論じた。
■資産バブルの背景に実体経済の低迷があるが、その対策に金融緩和が行われ資産バブルが起こる。中国の場合は設備投資の過剰に結果したが、米国の場合は典型的な株式バブルとなった。理由はリーマンショック後の金融緩和によるものだ。
2009年3月から15年9月までの間、米国家計の可処分所得の2・6兆ドル増加に比べ、家計の純資産は55兆ドルから85兆ドルへ30兆ドルも増加した。主に株価上昇による。上昇の主因は、社債発行で得た資金で行う企業の自社株買いである。これで1株当たり利益が上昇し、つれて株価の上昇が起こる。企業の実力以上の株価示現だ。金融引き締めが始まるとこの循環のベクトルは逆方向へ向かう筈だ。
家計部門純資産と可処分所得の比率は、資産が所得の651%(15年3月)に達した。これは99年のITバブル、07年の住宅バブルのピークを上回る。中前氏は「中国の投資バブルの崩壊懸念に目を奪われているなかで、世界経済の最後の砦とされる米国で、これだけ大きなリスクがあることを見逃してはなるまい」と結んでいる。■
私が「リベラル21」に書き始めたのは2007年9月である。
その直後から「サブプライム問題の射程」を十数回連続的に書いた。07年10月27日に「鳴っていた警鐘と住宅価格上昇の実態」という副題で書いた拙稿中に当時から4年前の中前氏の文章を次のように紹介している。
■「住宅ローンバブルの終えん」
03年6月20日日経紙のコラム「十字路」でエコノミストの中前忠氏が同様な指摘を行っている。氏は次のように書いている。「昨年(02年)の数字でいうと、六千七百億ドルの(全米住宅ローン)借り入れの内、住宅投資に向かったのが四千億ドル、残りの二千七百億ドルは現金で引き出され、このうちのかなりの部分が高額の耐久消費財に向かっている」、「ローンバブルをあおるような米国の金融政策が行き詰まるのは時間の問題といってよい」■
この「十字路」から12年後の今、今度の「十字路」の警告が現実となったら「アベノミクスの破綻」どころの騒ぎではない。中前氏の予想が当たるとしても、規模と期間が穏やかであることを祈るのみである。(2016/01/27)
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