安倍首相と会食し、原発再稼働を鼓吹してきた石原進氏がNHKの監督機関の長でよいのか
- 2016年 7月 10日
- 時代をみる
- 醍醐聡
2016年7月9日
視聴者コミュニティ、石原進・NHK経営委員長に質問書を提出
6月28日のNHK経営委員会で石原進氏が委員全員の一致で新しい経営委員長に選ばれた。しかし、その石原氏の、経営委員に就任以降の言動歴には数々の重大な問題がある。
1.3年前のNHK会長選考の時、籾井勝人氏を会長候補に推薦し、籾井氏の選任に中心的役割を果たしたのが石原進氏であったことはマスコミ報道も含め、関係者の間では一致した見方になっている。
その籾井氏は会長就任後、「政府が右と言う時、左とは言えない」、「NHKが従軍慰安婦問題をどのように扱うかは政府のスタンスが決まらないと定まらない」、「原発報道は、国民の不安をかき立てないよう、公的発表をベースにしてほしい」等々、NHKを政府の広報機関のように見なす発言を繰り返してきた。にもかかわらず、石原氏は経営委員長就任直後の記者会見でも、籾井会長には「誤解を生む発言があった」と述べて済ませている。「誤解」とは、誰の誤解なのか、視聴者が公共放送のトップと真逆の発言と受け取るのは「誤解」なのか? 籾井氏の上記のような発言は舌足らずではなく、自分の本心を「正直に」口にしたということではないのか。
自らが積極的に推薦したNHK会長の、公共放送のトップと真逆の発言を何ら諫めず、「誤解を生む発言」で済ませる態度で経営委員長が務まるのか?
2. 石原氏は6月28日の経営委員会終了後に行われた記者会見の場で、過去3年続けてNHKの次年度予算案が国会で全会一致とならなかった問題を指摘したうえで、「NHKは国民の意思を反映している国会で予算を通さなければ、業務を執行できないので、政治との関係は大切である」と発言した。
しかし、「NHK放送ガイドライン2015」は、「全役職員は、放送の自主・自律の堅持が信頼される公共放送の生命線であるとの認識に基づき、すべての業務にあたる。日々の取材活動や番組制作はもとより、NHKの予算・事業計画の国会承認を得るなど、放送とは直接関係のない業務にあたっても、この基本的な立場は揺るがない」と定めている(注:放送法第96条に定められているように、経営委員もNHKの役員)。
私は、NHK予算案が国会承認事項となっている現行制度自体を改める必要があると考えているが、「NHK放送ガイドライン2015」は、国会でNHK予算が承認されなければNHKは業務を執行できないとしても、NHKの予算・事業計画の国会承認を得る場面でも自主・自律の基本的な立場を貫く、と謳っている。
とすれば、「国会で予算を通さなければ、業務を執行できないので、政治との関係は大切である」という石原氏の発言は、この「NHK放送ガイドライン2015」の立場と整合するのか? うやむやで済ませてよい問題ではない。
3.石原氏は経営委員就任後も九州経済界の首脳として繰り返し、原発再稼働を強く促す発言を繰り返してきた。意見が分かれる政治問題でNHKの監督機関の委員が、そのような発言を繰り返してよいのか。
4. 「日本会議福岡」のHPを見ると、石原進氏は名誉顧問の職に就いている。しかし、「日本会議福岡」の「推進事業」を見ると、「わが国の中心的慰霊施設である靖國神社への首相の参拝を支持し、政治的施設である国立追悼施設建設に反対。英霊の方々を追悼し顕彰する行事を毎年開催」、「占領軍の圧力によって制定された現行憲法も約60年。制定過程や内容、わが国を取り巻く現在の諸情勢からも憲法改正は必至。毎年5月3日は憲法講演会を開催」などが掲げられている。
ここから、日本会議は、特定の政治的立場を鮮明にした団体というにとどまらず、あの忌まわしい侵略戦争に対する痛恨の反省の上に築きあげられた戦後日本の民主主義体制を敵視する団体であると見なして間違いない。
このような政治信条を掲げる団体の役員に、NHKを監督する機関の長が就いていてよいのか。
以上のような事実確認と判断に基づいて、「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」は昨日、運営委員2名がNHK放送センターへ出向き、石原進経営委員長に対し、次のような質問書を提出し、7月19日までに文書で回答を求めた。
重要な追加情報
2014年7月19日の「朝日新聞」朝刊、38ページに次のような記事が掲載されていたことがわかった。
「首相『川内、何とかしますよ』 九電会長と会食」
安倍晋三首相は18日夜、視察に訪れた福岡市内で、貫正義九州電力会長ら九州の財界人と会食した。出席者から九電川内(せんだい)原発(鹿児島県)の早期再稼働を要請された
首相は『川内はなんとかしますよ』と応じたといい、再稼働に前向きな安倍政権の姿勢をより鮮明にした。
首相は福岡市博多区の料亭で約2時間、貫会長らと会食。麻生太郎副総理兼財務相の弟の麻生泰(ゆたか)九州経済連合会会長、石原進JR九州相談役らが同席した。会食後、石原氏が首相とのやりとりを記者団に明らかにした。<以下、省略>」
同様に、「日本経済新聞」(2014年7月18日、電子版)も次のような記事を掲載している。
「川内原発の再稼働、首相『何とかする』」
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS18024_Y4A710C1EE8000/
この記事でも会食に石原進氏が同席し、会食後、石原氏が記者の取材に応じたと記されている。
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2016年7月8日
NHK経営委員会
委員長 石原 進 様
同報 経営委員 各位
貴職の経営委員長就任にあたっての質問書
NHK を監視・激励する視聴者コミュニティ
共同代表 湯山哲守・醍醐 聰
http://kgcomshky.cocolog-nifty.com/blog/
6月28日に開催されたNHK経営委員会で貴職は全員一致で新しい経営委員長に選任されました。この機会に当会は、貴職に対し、一連の質問をさせていただきます。経営委員長としての重責を担われ、ご多忙の日々をお過ごしのことと思いますが、今回の質問はどれもNHK経営委員会の自主自律、視聴者・国民からの信頼に直結する、きわめて重大な問題ですので、書面で7月19日までに別紙宛てにご回答くださるよう、お願いいたします。
1.籾井勝人氏を会長に推薦された貴職の責任について
籾井勝人氏はNHK会長に就任以降、「政府が右と言う時、左とは言えない」、「NHKが従軍慰安婦問題をどのように扱うかは政府のスタンスが決まらないと定まらない」、「原発報道は、国民の不安をかき立てないよう、公的発表をベースにしてほしい」等々、NHKを政府の広報機関かのように見なす発言を繰り返してきました。また、私的なハイヤー代を一時的とはいえ、NHKに立て替えさせるなど、公共放送の信頼を失墜させるような行為もありました。
〔質問1〕 経営委員会が籾井勝人氏をNHKの会長に選任する際、貴職が同氏を推薦され、籾井氏の会長選任を主導された経緯については衆目の一致した見方です。しかし、その籾井会長が上記のような公共放送の信頼を失墜させるような言動を繰り返したにもかかわらず、貴職は、経営委員会会議録を読むかぎり、籾井会長を諫め、厳重に指導監督する発言をされた場面は皆無です。そのような貴職が経営委員長として次期会長選考のとりまとめ役を務められることに当会は強い懸念と違和感を覚えます。
貴職は籾井氏をNHK会長に推薦された当事者として、どのように責任を感じておられるのか、次期会長選考に当たって、その反省をどのように活かすお考えなのか、明確にご説明ください。
2.政府・与党、政治からの自立に関する貴職の見解について
6月29日の「朝日新聞」朝刊は、新経営委員長選任の経緯を伝えた記事の中で、石原氏は、籾井会長の言動が原因でNHKの新年度予算案が3年連続で全会一致とならなかったことを挙げ、「次期会長の条件を『政権・与党との関係がしっかり築ける方がいい』と説明している」と記しています。
また、貴職は6月28日の経営委員会終了後に行われた記者会見の場で、「経営委員会が政権に近いのではないか、という指摘についてどのように考えているか」という質問に対し、「経営委員会が政権と近すぎるとは思わない。ただNHKは国民の意思を反映している国会で予算を通さなければ、業務を執行できないので、政治との関係は大切である」と答えておられます。
しかし、「NHK放送ガイドライン2015」は、「全役職員は、放送の自主・自律の堅持が信頼される公共放送の生命線であるとの認識に基づき、すべての業務にあたる。日々の取材活動や番組制作はもとより、NHKの予算・事業計画の国会承認を得るなど、放送とは直接関係のない業務にあたっても、この基本的な立場は揺るがない」と定めています。ちなみに、貴職も先刻ご承知のことと思いますが、経営委員もNHKの役員です(「放送法」第49条)。
〔質問2〕 「国会で予算を通さなければ、業務を執行できないので、政治との関係は大切である」という貴職の発言は、「NHK放送ガイドライン2015」の上記の定めと、どのように整合するのか(抵触しないのか)、わかりやすく、ご説明ください。
3. 原発再稼働に関する貴職の発言について
貴職は、経営委員に就任された2010年12月11日以降も、原発再稼働を強く促す発言を繰り返されました。たとえば、2012年の総選挙の大きな争点として「原発政策」が浮上している最中に、福岡市で、「原発を全廃すれば、電気料金が2倍となり、日本の産業は死ぬ」とまで述べ、原発の早期再稼働を訴え、再生可能エネルギーは原発の代替電源となり得ないとの考えを強調。民主党が掲げる「2030年代の原発ゼロ」について「日本国家が潰れ、失業者だらけになる。」と批判したと報じられています(産経新聞11月30日)
しかし、「経営委員会委員の服務に関する準則」は第2条で、「経営委員会委員は、放送が公正、不偏不党な立場に立って国民文化の向上と健全な民主主義の発達に資するとともに、国民に最大の効用と福祉とをもたらすべき使命を負うものであることを自覚して、誠実にその職責を果たさなければならない」と定めています。
〔質問3〕NHK経営委員にも言論の自由が保障されていることは当会も重々、承知しています。しかし、上記のような経営委員の服務準則に照らせば、たとえ放送に直結する場面でないにせよ、世論が二分される原発再稼働の可否について、一方の見解に偏した発言をNHKの最高決議機関の長が繰り返せば、NHKの政治的公平について視聴者・国民の間から疑念が生まれることは避けられません。
貴職は、今後、こうした特定の政治的立場を支持し、広報する言動を慎まれるべきだと当会は考えます。貴職のお考えをお聞かせ下さい。
4. 「日本会議福岡」の名誉顧問に就任されている件について
「日本会議福岡」のHPに掲載された「役員の紹介」欄を見ますと、貴職は同会議の「名誉顧問」と記載されています。
しかし、同会議のHPに掲げられた「推進事業」を見ると、「わが国の中心的慰霊施設である靖國神社への首相の参拝を支持し、政治的施設である国立追悼施設建設に反対。英霊の方々を追悼し顕彰する行事を毎年開催」、「占領軍の圧力によって制定された現行憲法も約60年。制定過程や内容、わが国を取り巻く現在の諸情勢からも憲法改正は必至。毎年5月3日は憲法講演会を開催」などが掲げられています。これを見ると、日本会議は、特定の政治的立場を鮮明にした団体というにとどまらず、忌まわしい侵略戦争に対する痛恨の反省の上に築きあげられた戦後の民主主義体制を敵視する団体であると見なして間違いありません。
〔質問4〕 貴職が、上記のような事業を進める「日本会議福岡」の名誉顧問の職にとどまることは、公共放送を監督する組織の長として不適切であり、直ちに名誉顧問の職を退かれるべきだと当会は考えます。貴職のお考えをお聞かせ下さい。
以上
初出:醍醐聡のブログから許可を得て転載
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://wwwchikyuza.net/
〔eye3528:160710〕
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