年金積立金を株で大損-国民は甘く見られている
- 2016年 8月 2日
- 時代をみる
- 年金田畑光永
暴論珍説メモ(147)
「この道しかない」とさも自信ありげに公言していた安倍首相の経済政策(誇大広告「アベノミクス」)がここへ来て、あちこちでほころびが広がり、やれ日銀の追加緩和だ、やれ新経済対策だと、うるさいことであるが、その中で、やはりというか、そらみたことかというか、大方が心配していたGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)による株式運用枠拡大の2015年度の通年実績が5兆3098億円の損失であったことが判明した。
大体、GPIFの前年度の運用実績は例年なら7月上旬に発表される。ところが今年は参院選挙への影響を恐れて7月29日まで延期された(と言われている)のだが、結果は事前予測通りの巨額損失であった。
この年金積立金とは国民が支払う保険料と基礎年金の2分の1を賄う国庫負担金(税金)から保険金を支払った残り(14年度の公的年金給付額は51.9兆円)を積み立ててきたもので、2015年度末の運用資金は134兆7000億円、運用利回りは3.81%のマイナスとなった。
これについて菅官房長官は「年金財政上の問題は生じていない。年金は短期的な変動に過度にとらわれるべきでない」と29日の記者会見で述べたが、年金の財源というそれこそ国民の命綱を預かる者がそんな姿勢でいるところに国民は不安を感ずるのだ。
この積立金は2001年から自主運用をしてきたが、株価大好きの安倍首相の肝いりで2014年10月から資産構成を大幅に変えて株式の割合を大きくした、つまりたくさん株を買うようにしたのである。具体的にはそれまで資産の60%を占めていた国内債券を35%に引き下げ、国内と外国の株式をそれぞれ12%から25%にまで増やしたのである。この変更は段階的に行われているので、2015年度末(2016年3月末)の資産構成は外国株式22.09%、国内株式21.75%、外国債券13.47%、国内債券37.55%である。
菅官房長官らが「短期的な変動にとらわれるな」と言う根拠は2001年度の自主運用開始から15年度末までの累積収益額が45兆4239億円になるという実績である。確かに過去はそうであったかもしれない。しかし、リーマンショックがあった08年度は10兆円近い損失を出したし、その後、世界の金融情勢はひどく不安定になり、各国経済もかつてのような成長は望めなくなっている。したがって株式市場も安定的に上昇することは望めなくなり、逆に国際的要因で各国の国内株式市場が振り回されるということも多くなった。
安倍首相が「年金積立金でもっと株を買え」と言い出したのは、株式市場が安定的に拡大しているからではなく、逆に不安定の中で低迷しているからこそそのテコ入れに年金を使おうというのであった。そしてその結果が外国株式で3兆2451億円、国内株式が3兆4895億円という損失を出した。一方、運用額を減らした債権では外国債券で6600億円、国内債権では2兆0094億円の収益が出ているのである。
「債権を減らして、株を多く買え」という安倍首相の指示が5兆3098億円、国民1人当たりでは約44000円の損害を出したのである。国民の前で最敬礼して、「私の間違いで皆さんに損をさせました。申し訳ありません」くらいのことを言ったらどうなのだ!
そして続けて「責任を取って総理を辞任します」と言えば、「いいぞ!大統領!」とかけ声をかけてもいいのだが。
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