「香害」の一因である消臭除菌スプレー、その除菌成分に新たな毒性が明らかに シリーズ「香害」第4回
- 2018年 1月 11日
- 評論・紹介・意見
- 岡田幹治香害
「香害」とは、香りつき商品の成分で健康被害を受ける人たちが急増している、新しい公害のこと。被害を受けると、「化学物質過敏症(MCS)」「喘息」「香料アレルギー」を発症したり悪化させたりする可能性があります。
喘息は、気管支が狭くなって吸い込んだ空気が通りにくくなり、発作を繰り返す病気。原因物質(ダニ・ハウスダストなど)がはっきりしているアレルギー性喘息と、原因物質が特定できない非アレルギー性喘息があります。前者は小児に多く、悪化すると生命にかかわるアナフィラキシーショック起こすこともあります。後者は成人に多く、難治化することが多い。
香料アレルギーは、香料成分が原因物質になって、皮膚炎・咳・くしゃみなどのアレルギー症状を起こす病気です(MCSについては第1回で説明しました)。
シリーズ第4回は、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)ジャパンの「ファブリーズ」をはじめとする消臭除菌スプレーが香害の一因であること、その除菌成分に新たな毒性が次々に判明していることをお伝えします(注1)。
◆「香料」には喘息やアレルギーを起こす成分がある
ファブリーズは、何にでもスプレーすれば嫌なニオイが消えると宣伝している商品で、衣類・カーテン・ソファ・枕・布団などに使う「布用」や、玄関・靴箱・台所・洗面所・居間などに置く「置き型」、さらには車のエアコンに取りつける「車用」などがあります。
「瞬間お洗濯! 99.9%除菌・消臭」「嫌なニオイを徹底消臭&爽やかな香り」などと宣伝していますが、一体どんな仕組みで消臭・除菌しているのでしょうか。
同社のサイトを見ると、「ファブリーズの主な成分は?」という項目が立てられ、「成分」と「働き」が以下のように記載されています。
▽トウモロコシ由来消臭成分=トウモロコシ生まれの有効成分で、ニオイのもとの分子を取り込み、消臭します。
▽除菌成分(有機系)=Quat(クウォット)。特定の除菌成分の総称です。このタイプの除菌成分の安全性は広く認められており、化粧品や薬用石けんなどに広く使用されています。(中略)
▽香料=布からさわやかな香りを感じる。(以下略)
以上のうち、トウモロコシ由来の消臭成分は、「シクロデキストリン」という、でん粉の一種です。シクロデキストリンは空洞の多い構造をしていて、ニオイのもとの分子を取り込む効果はありますが、消臭力はあまり強くありません。
そこで、「香料」を配合し、消しきれないニオイをごまかしているのです。
香料は香りのもとになる物質で、ほとんどが天然の香りに似せて合成した化学物質です。世界には約3000の物資(成分)があり、これらは普通、複数(ときには数十種も)の物質をブレンドした混合物として商品に使用されます。ただ、具体的な物質名は企業秘密として公表されず、「香料」と表示されるだけです。
香料の安全性は、世界の主要香料企業が加盟する「国際香粧品香料協会(IFRA)」傘下の「香粧品香料原料安全性研究所(RIFM)」で審査されており、安全性が確認されたものだけが流通しているとIFRAは説明しています。しかし、安全性試験の内容はほとんどが未公開です。
アメリカのNGO「地球のための女性の声」がIFRA公開の約3000物質を調べたところ、1000以上が国際機関などの公式リストで「懸念ある化学物質」とされていました。190物質は国際機関で「危険」とされ、7物質は国際がん研究機関(IARC)が「人に対する発がん性が疑われる」(グループ2B)に分類していました(注2)。
また在野の研究者・渡部和男氏は、香料にはアレルゲン(アレルギーの原因物質)となる成分や喘息を誘発・悪化させる作用を持つ成分が少なくないことを明らかにしています(注3)。
しかも「香料」とまとめて表記されるものには、香り成分を強めたり長続きさせたりする物質も含まれており、そちらの害も大きい。「いい香り」は、部屋の空気を汚染する「揮発性の有機化合物(VOC)」でもあるのです。
◆繁殖力が落ち、先天性異常の出生が増加
次に、ニオイのもとになる雑菌を減らす「除菌成分」=Quatを取り上げます。
Quatとは、「第4級アンモニウム化合物」と呼ばれる化学物質グループのこと(注4)。ファブリーズは、それらのうち界面活性剤として商業利用されている「塩化ベンザルコニウム」など2種類を含むことが研究者によって明らかにされています。
第4級アンモニウムは細菌の細胞膜を不安定にして細胞を殺す性質をもっており、このため殺菌剤をはじめ抗菌剤・消毒薬、洗浄剤(洗剤やシャンプー)、食品保存剤などに広く使用されています。
ヒトの細胞膜も不安定にしますから、健康被害をもたらすことがあります。殺菌力が強い「逆性石けん(薬用石けん)」を多用する医療従事者は皮膚炎を起こし、喘息の原因にもなります(注5)。またアレルギーを起こしやすいため、医薬部外品に使うときは必ず表示しなければなりません。
この物質はコンタクトレンズ用品に防腐剤として含まれ、角膜障害を起こすことがあるし、麻酔時の筋弛緩剤として使われてアナフィラキシーショックの原因にもなっています。
中でも塩化ベンザルコニウムはヒトの眼・皮膚・気道への刺激性が非常に強く、国際化学物質安全性カード(IPCS)で「環境中に放出しないよう強く勧告する」とされています(注6)。
以上のような作用を持つQuatについて近年、新たな毒性が次々に明らかになっています。
たとえば国内では、ファブリーズの原液を希釈し、生まれたばかりの仔マウスに投与したところ、死亡率が高まったとの研究結果が公表されています(注7)。これはソファやぬいぐるみに残ったファブリーズの成分を乳幼児がなめる場合などを想定した研究です。
アメリカ・バージニア工科大学のテリー・フルベック教授らの研究はもっと衝撃的です。
教授によると、研究室の飼育かごの洗浄剤をQuat含有のものに変更したとたんにマウスの出産率が低下しました。驚いた教授らははまず生殖毒性について調べ、Quatに曝露したメスマウスは出産数が少ないことを2014年に発表。15年には、Quatに曝露したマウスでは、オスの精子が減少し、メスの排卵が少なくなるなど繁殖力が落ちることを報告しています。
続いて今年7月、Quatに曝露させたマウスから生まれた仔マウスは、二分脊椎症や無脳症といった「先天性異常(欠損)」(注8)が多いと発表しました(注9)。
教授らは、塩化ベンザルコニウムなど2種類のQuatを用い、それらを「餌に入れて食べさせる」「チューブを通じて服用させる」「それらを含む消毒薬を飼育室で使う」という三つの方法で曝露させた結果、次のことがわかりました――。
▽曝露されたオスとメスのマウスから生まれた仔は先天性異常の比率が高く、その現象は曝露をやめた後、2世代にわたって引き継がれた。▽オスだけに曝露させ、メスには曝露させなかった場合でも、仔の先天性異常の割合は高かった。▽Quat含有の消毒薬を飼育室で使った場合でも同じ現象が見られ、先天性異常の発生率は別の消毒薬では0.1%なのに、Quat含有の消毒薬では15%にもなった。
あくまでマウスを使った実験の段階ですが、教授は「動物実験はヒトへの影響を予測する確固とした基準」であると強調し、「次の研究ではQUATとヒトとの関連を検証する」と言っています。
◆ファブリーズはいらない!
以上をまとめると、ファブリーズのような消臭除菌スプレーは「香料でニオイをごまかし、次々に毒性が判明している危険な物資で除菌する商品」ということになります。
「瞬間お洗濯!」と宣伝していますが、実際には洗濯でなく除菌しているだけですから、汚れは落ちません。またすぐに菌は繁殖します。そこで毎日のようにスプレーをしなければならないのです。
こんなものを室内でスプレーしてよいわけはありません。とくに乳幼児や妊婦のいるところでは絶対に使わないようにしましょう。車のエアコンにつけて車内に成分を充満させるのも、とても危険です。
部屋がにおうようなら、まず部屋の空気を入れ替える。そしてニオイの発生源をなくすことです。腐ったものは捨て、湿った場所に貯まったごみは掃除します。カーテン類はときどき洗濯し、ソファやカーペットは掃除機をかけ、布団類は外に干して日光に当てます。
化学物質を使いたいのであれば、「重曹」と「クエン酸」が清掃用に使える比較的安全な化学物質だと渡部和男氏は言っています(注5)。布か紙の袋に入れた重曹を靴の中に入れておくと、重曹がニオイを吸着します。またアンモニア臭や魚臭を消すためには、1~2%のクエン酸液を発生源にスプレーするとよいそうです。
注1 消臭除菌スプレーはP&Gジャパンのほか花王・ライオンも発売しており、2社は「除菌成分」について次のように説明している。
▽花王「リセッシュ 除菌EX 消臭ストロング」
「成分」という項目に「両面界面活性剤、緑茶エキス、除菌剤、香料、エタノール」と記しているだけ。除菌剤の物質名は全くわからない(塩化ベンザルコニウムなどだと推定されている)。
▽ライオン「HYGIA衣類・布製品の除菌・消臭スプレー」
「成分情報」に「界面活性剤・除菌剤」という項目を立て、「ジアルキルジメチルアンモニウム塩」と明記。これは第4級アンモニウムの一つで、毒性は塩化ベンザルコニウムより低いとされている(殺菌力も弱い)。
各社の表示があいまいなのは、消臭除菌スプレーが「家庭用品品質表示法」の対象になっていないからだ。同法の対象を大幅に増やす必要がある。
注2 ブライアン・ジョセフ「“香り”は我々を病気にしているのか」(安間武・訳が化学物質問題市民研究会のサイトに掲載)
注3 渡部和男「香料の健康影響」(同氏のサイト)。香料の成分には発がん性を持つ物質やホルモン攪乱作用(環境ホルモン作用)を持つ物質もある。
注4 英語ではquaternary ammonium compounds。窒素原子(N)に水素原子(H)が四つついた「アンモニウムイオン」の水素が他の有機物質に置き代わった化学物質。「陽イオン界面活性剤」でもある。
注5 渡部和男「消臭剤―第4級アンモニウムの恐ろしさ」(化学物質過敏症支援センター『CS支援』89号)
注6 国際化学物質安全性カード(ICSC)は、化学物質の健康や安全に関する重要な情報の概要をまとめたもの。欧州委員会や各国の協力で作成されている。
注7 藤谷知子ら「市販家庭用消臭除菌剤に配合される4級アンモニウム化合物のマウス新生仔および成獣における一般毒性指標に及ぼす影響」(『東京都健康安全研究センター年報』61号・2010年)
注8 二分脊椎症は、脊椎の骨が脊髄の神経組織を覆っていない症状。神経組織が正常に働かず、下肢の運動障害などが起きる。無脳症は、脳が十分に形成されず、多くは流産や死産となる。いずれも神経管(脊髄や脳など中枢神経系のもと)の閉鎖障害によって起きる先天性異常。
注9 論文はhttp://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/bdr2.1064/abstract。ブライアン・ビエンコウスキーによる解説「清潔への代償 消毒薬・第4級アンモニウム化合物はマウスの仔に先天性欠損を引き起こす」の安間武・訳が化学物質問題市民研究会のサイトに掲載されている。
◆岡田の1、2月の講演予定
▽広がる「香害」~柔軟剤や消臭スプレーはこんなに怖い!~
1月28日(日)午後1時30分~3時30分
千葉県印西市コミュニティセンター サザンプラザ 2階多目的室
問い合わせ:印西 水と暮らしを守る会 竹内(090-3907-8355)
▽香害、あなたならどうする!
2月6日(火)午前10時30分~12時30分
大田区立消費者生活センター 2階講座室(JR蒲田駅東口5分)
問い合わせ:23区南生活クラブ生協(℡03-3426-9914)
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