書き初めに勇ましい字が出ぬように(かうぞう)
- 2018年 5月 22日
- 評論・紹介・意見
- 弁護士澤藤統一郎
一昨日(5月19日)毎日新聞「仲畑流万能川柳」の年間賞表彰式があった。
2017年の投稿59万句から選ばれた年間大賞は、
書き初めに勇ましい字が出ぬように
2017年1月1日に掲載された句。大阪府高槻市作野一男(柳名・かうぞう)の作。
特に優れた句とは思えない。しかし、選者には、これが時代の空気を反映した注目すべき警句と解されたのだ。かつて、戦争の時代には、「勇ましい字」が書き初めに躍った。「勇ましさ」はことさらの「憎悪」や「差別」、そして「非人間性」をともなうものでもあった。
1字の勇ましい字なら、こんなところであろうか。
武 勇 征 勝 皇 国 奮 闘 軍 戦 …
2字なら、
必勝 皇基 大君 軍機 皇楯 聖戦 撃滅 尽忠 忠義 愛国 …
4字熟語となれば、
滅私奉公 挙国一致 尽忠報国 堅忍不抜 一億一心 七生報国 八紘一宇 鬼畜米英
五族協和
そして、戦時の戦意高揚標語の数々。以下は、落合道人、前坂俊之などが、収集し整理したものの孫引きだが、なかなかみごとなものではないか。まこと、わが大八洲は言霊の幸ふ国なのだ。但し、言霊は、科学にも物量にもかなわなかった。
「護る軍機は 妻子も他人」「国のためなら 愛児も金も」「空へ この子も捧げよう」「金は政府へ 身は大君へ」「支那の子供も 日本の言葉」「笑顔で受取る 召集令」「家庭は 小さな翼賛会」「りつぱな戦死とゑがほの老母」「屑も俺等も七生報国」「翼賛は 戸毎に下る 動員令」「強く育てよ 召される子ども」「働いて 耐えて笑つて 御奉公」「屠れ米英 われらの敵だ」「子も馬も 捧げて次は 鉄と銅」「まだまだ足りない 辛抱努力」「国が第一 私は第二」「任務は重く 命は軽く」「一億が みな砲台と なる覚悟」「科学戦にも 神を出せ」「二人して 五人育てて 一人前」「産んで殖やして 育てて皇楯(みたて)」「日の丸で 埋めよ倫敦(ロンドン) 紐育(ニューヨーク)」「米英を 消して明るい 世界地図」「初湯から 御楯と願う 国の母」「嬉しいな 僕の貯金が 弾になる」「百年の うらみを晴らせ 日本刀」「アメリカ人をぶち殺せ!」「征け 米英にとどめ刺すまで」「突け 米英の心臓を」「米鬼を一匹も生かすな!」「今に見ろ 敵の本土は焼け野原」「撃滅へ一億怒濤の体当たり」
今は、「憲法に明記するだけ自衛隊」という時代だが、投句者や選者には、こんな「勇ましい」書き初めをする近未来が、見えているのかも知れない。
(2018年5月21日)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2018.5.21より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=10401
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion7664:180522〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。