6/8 第312回 現代史研究会「新たに発見された国際諜報団資料(太田耐造・思想検事の資料)をめぐって」
- 2019年 4月 19日
- スタディルーム
- 研究会事務局
6/8 第312回 現代史研究会
日時:6月8日(土)午後1:00~5:00
場所:専修大学・神田校舎・本館(1号館)3階・301教室
テーマ: 「新たに発見された国際諜報団資料(太田耐造・思想検事の資料)をめぐって」
講師:渡部富哉(社会運動資料センター)「中共諜報団事件」
加藤哲郎(一橋大学名誉教授)「昭和天皇へのゾルゲ事件上奏文――思想検察のインテリジェンス」
進藤翔大郎(京都大学大学院・博士課程)
篠田正浩(映画監督):交渉中
参加費・資料代:1000円
2017年に国立国会図書館憲政資料室で「太田耐造関係文書」が公開された。今回の研究会は、そのなかの、ゾルゲ事件に直接・間接に関わる、オリジナルな第一次資料をもとにした調査研究の報告である。
憲政資料室の「太田耐造関係文書目録」(2017年1月)をもとに、「司法書記官、刑事局第六課長(昭和14年1月―17年7月)」時代中の「3.4 ゾルゲ事件」と分類された文書(請求番号170-215)を中心に、同事件と多少とも関連する外国諜報・海外共産主義情報、日本共産党再建運動、企画院事件、満洲合作社事件、中共諜報団事件などの執務・取調・裁判関係資料が基になっている。
「太田耐造関係文書」の全体は、神兵隊事件など右翼・国家主義資料や治安維持法・言論統制検閲資料などを含む膨大なものであるが、ゾルゲ事件に関するものは、これまで研究上の第一次資料とされてきた『現代史資料 ゾルゲ事件』全4巻(みすず書房)に未収録の新資料を多数含む、当時の権力最奥での捜査記録である。『現代史資料』は、もともと戦後に警察庁が収集した旧内務省活字資料・裁判資料の集大成であったが、「太田耐造文書」は、手書きやタイプ印刷の、文字通りの第一次資料である。
特筆すべき新資料は、「昭和天皇へのゾルゲ事件上奏文」である。『昭和天皇実録 第八』昭和17(1942)年5月13日に、「午前11時30 分、御学問所において司法大臣岩村通世に謁を賜い、尾崎秀実及びリヒャルト・ ゾルゲ等の機密漏洩事件告発につき奏上を受けられる。なお16日、司法省はゾルゲ事件を国際諜報団事件として発表する」とあるが、その「我が国情に関する秘密事項」の具体的内容が、「太田耐造文書」に上奏文案として綴じ込まれていた。 それを5月17日の各紙が報じた「司法省発表」と比較すると、当時の国家権力内部で、ゾルゲ事件を小さく扱い、戦時体制への打撃を最小限にとどめようとしたことがわかる。そのための新聞発表文を内務省・外務省・大審院とも調整して逐語的に検閲し、「新聞記事掲載要項」で報道統制した経緯も明らかになる。
事件全体の総括として、『現代史資料 ゾルゲ事件1』(及び警察庁警備部『外事警察資料』第3巻5号、1957年)巻頭に収録された内務省警保局保安課「ゾルゲを中心とせる国際諜報団事件」のもとになった詳しい捜査総括記録も、 留岡幸男警視総監の司法大臣宛「国際共産党対日諜報機関検挙申報」として発見された。尾崎秀実・宮城与徳・西園寺公一・犬養健・田口右源太・水野成・中西功ら日本人被告・関係者の新資料・証言も、初めて発表される。太田耐造が1942年9月に満州国司法部に転任するため、その後の裁判資料は少ないが、思想検事としての太田の経験が、中共諜報団事件、満洲合作社事件、満鉄調査部事件などにも影を落としたことが読みとれる。
「太田耐造文書」の公開は、ロシアのM・アレクセーエフらによるゾルゲが上海・東京からモスクワに送付した秘密電文・書簡類の発掘・公刊と共に、21世紀のゾルゲ事件研究を新たな段階に導くことになるであろう。
*以上の紹介文は、加藤哲郎先生の草稿によったものです。
共催:現代史研究会、ちきゅう座、社会運動資料センター
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔study1034:190419〕
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