深刻な日韓関係のなかでの「自警団国家ニッポン」の内向と孤立
- 2019年 8月 3日
- 時代をみる
- アベ加藤哲郎選挙韓国
2019.8.1 次回更新予定の8月15日は、日本では「終戦記念日」ですが、隣国韓国では「光復節」です。1945年8月15日は、日本にとってはポツダム宣言受諾による日米戦争の敗北と連合国軍GHQの占領開始でしたが、軍国日本の植民地であった朝鮮半島の人々にとっては、「解放」でした。「光復」とは、「奪われた主権を取り戻す」という意味です。この20世紀前半の歴史を踏まえないと、今日深刻な日韓関係を、たんなるナショナリズムの衝突と見てしまいます。「侵略した側」が忘れても、「侵略された側」の記憶は、長く何世代に渡って残ります。日本のいわゆる嫌韓・反韓意識は、若者の問題のように語られますが、実際には植民地時代の民族差別の延長上で、戦中・戦後世代に引き継がれています。1965年の日韓条約で過去の問題は決着済みとか、戦後50年の村山談話で「謝罪」は済んだというのも、「侵略した側」の傲慢な論理です。「侵略された側」にしてみれば、1965年段階の独裁政権の結んだ条約は、すべてを解決したものではなく、個人レベルの人権・補償問題は未解決です。
日本にも韓国にも、戦後はアメリカの軍事基地がおかれ、「主権」が制限されてきました。米国トランプ政権は、両国に安全保障上の経費負担増、日本に対しては「思いやり予算」の5倍増を求めています。その観点での日韓関係「仲裁」はありえますが、それは、両国にとって、外交的にも経済的にもいっそうの米国への従属・依存を強いるもので、両国の自主的交渉よりも高くつくものになるでしょう。両国には既に、米国からホルムズ海峡安全航行確保の「有志連合」参加の圧力が加えられています。同じく米軍基地があっても、ドイツは参加に難色を示しました。かつてベトナム戦争への派兵も余儀なくされた徴兵制の韓国は、海軍部隊派遣に前向きです。トランプとの同盟ばかりを頼りにしてきた安倍の日本は、参院選が終わって、自衛隊派遣に前のめりです。当然、安倍の野望である憲法改正と一体です。参院選中も選挙後も、ファシスト安倍の改憲策謀は続いており、発議権を持つ立法府の長=衆院議長交替まで側近が公言する始末です。
歴史認識に関わる徴用工問題をからめた日本政府の対韓輸出規制強化は、韓国では大きな反発と市民の抗議運動・不買運動まで招いています。韓国国内での文大統領の孤立と韓国経済への打撃を狙った安倍政権の狙いは裏目に出て、国際世論も日本に厳しく、文化交流・東京オリンピックへの影響も危惧されています。米国でも、ブルームバーグ社説、ニューヨークタイムズは自由貿易主義の観点から日本を批判し、外交誌『フォーリン・ポリシー』は「今回の問題の原因は戦前の戦争犯罪に無反省な安倍政権にある」と見抜いています。そんな日韓関係を追ってみつけた、韓国の市民運動が「反日」ではなく「No Abe」なことに注目した徐台教さんの「韓国『安倍糾弾デモ』のメカニズム」、日本の若者の「第3次韓国ブーム」に注目した毎日新聞「日韓政治対立と韓国ブーム」。どうも、先の参院選結果にも応用できそうです。参院選表層での大きな論点にはなりませんでしたが、明らかに今回の「韓国叩き」は、17年衆院選での「北朝鮮の脅威」と同じ効果を持ったと思われます。結果は第1に、50%以下という深刻な低投票率。アベ長期政権下での深刻な政治不信・政党離れ、主権者の「ファシズムの初期症候」慣れと生活苦の中での諦観をも示します。第2に、マスコミ統制ばかりでなく、ブラック政商企業である電通・吉本興業をも使っての自公過半数確保。改憲に必要な3分の2議席に届かなかったとは言え、憂鬱なファシスト政治は続きます。第3に、非力な既成野党が軒並み得票数を減らすもとでの、山本太郎新党のSNS・街頭エンターテインメントを使った2議席獲得。4億円の寄付金集めと重度身障者議員を送り込んでの国会バリアフリー化は、かつてバブル経済崩壊期の日本新党発足時を思わせる、格差社会での作戦勝ちです。行く末は、なお未知数ですが。深層での構造的論点、日米安保と象徴天皇制は問題にならず、表層での年金・福祉・消費税も、大きな論点になりませんでした。東本高志さんのブログ「みずき」がツイッターから拾ってきた、「ある韓国人と日本人の対話」ーー韓国人『軍事政権下の韓国でも、デモの鎮圧に際して銃口をデモ隊に向けた、そして沢山の血が流れた。沢山の血を流してもなお屈せず、結果的に韓国の民は民主主義を手にした。しかし仮に日本で同じようなことが起きても、果たして韓国のように立ち上がるのかがかなり疑問だ』vs.日本人『軍より前に、「国民」が起ち上ろうとする民衆を弾圧する。そんな自警団国家がニッポンです』ーーという閉塞状況は変わりません。投票所に足を運ばなかった50%の「文化的成熟」によってしか、かの関東大震災時を想起させる内向きの「自警団国家ニッポン」は、変わらないのかもしれません。韓国ばかりでなく香港も台湾も、私たちの歴史認識の内省の契機となる「東アジア」なのに。
昨年から毎日新聞や朝日新聞で大きく報じられてきた、国会図書館憲政資料室「太田耐造関係文書」のゾルゲ事件関係新資料を中心にした私の最新の編纂書『ゾルゲ事件史料集成――太田耐造関係文書』 全10巻(不二出版)が発売されました。すでにカタログが公開されています。個人では大変なセット価28万円の高価な図書館・公共機関向けの本ですので、出版社の許しを得て、ここに発売された第一巻所収の「解説ーーゾルゲ事件研究と『太田耐造文書』」を公開します。関心のある方は、これをご覧のうえ、大学図書館・公共図書館等に購入希望を出して頂けると幸いです。「15年戦争と日本の医学医療研究会(戦医研)」で行った私の記念講演はyou tube に入っていますが、その後の研究で厳密にした学術論文「731部隊員・長友浪男軍医少佐の戦中・戦後」が、同研究会誌19巻2号(2019年5月)に発表されました。著作権の関係ですぐにはアップロードできませんが、ご関心の向きは、戦医研の方にお問い合わせ下さい。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html
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