青山森人の東チモールだより…予算案の審議は年明けに
- 2019年 12月 31日
- 評論・紹介・意見
- 青山森人
期待に叛いたタウル首相
嘆かわしいことにこの一年、結局、東チモールの指導者たちは政治的袋小路から脱け出ることはできませんでした。しかも袋小路の迷路はさらに混迷している有り様です。若い世代・知識人・市民団体が募らせている危機感を指導者たちはいかに認識しているのか、おおいなる疑問を抱かざるを得ません。
今年 10 月、コノコフィリップス社が政府を訪れ、「バユウンダン」田の石油が枯渇するのに伴い、同 田開発を 2020 年に終了し、子会社がその後の業務を引き継ぐことを正式に報告しました。つまり国家 の収入源である「バユウンダン」から石油が採れなくなる現実が眼の前に迫っているのです。そして国 家運営の資金源である「石油基金」はこのままでは 10 年ほどで空になるというのは、もはや議論の余 地がない事実であるということなのです。
このままではいけない、どうすればよいか、単純にいって二通りあります。一つは「バユウンダン」
に代わる新たな収入源、つまり「グレーターサンライズ」ガス田開発の早期実現。もう一つはこれまでのような大型開発への拠出を抑え長期的な展望にた立って人材育成に投資する。もちろん現実的にはこれら二つが組み合わさって政策に現れます。問題はどちらに比重を置くのか、その選択と比率(バラン ス)です。
コノコフィリップス社の宣告をうけて東チモールはこの「選択」と「比率」が東チモールの子どもた
ちの運命を決定してしまうという“臨戦態勢”に否が応でも入らなければならない段階にいよいよ突入 したのです。
大型開発への拠出を抑え長期的な展望に立つ(と思われた)タウル=マタン=ルアク首相による政権2 年目の今年、「グレーターサンライズ」ガス田開発に邁進するシャナナ=グズマン CNRT(東チモール再 建国民会議)党首による政策がたとえ僅かばかりでも軌道修正されるであろうと(タウル首相が大統領 だったときの言動を思えば)期待されました。
ところが2年目のタウル首相率いる政府は、一般世論からは無能と縁故主義のレッテルを貼られ、大
統領・野党だけではなく与党内からも激しく批判されるという事態に陥ってしまい、タウル首相は期待 に叛いてしまいました。
さほど減額されなかった修正予算案
2年目のタウル=マタン=ルアク首相がとくに世間を驚かせ、大統領や与野党から強く非難され再考を 求められたのは 2020 年度国家予算案の約 19 億ドルという総額の大きさでした。シャナナ=グズマン CNRT 党首でさえも減額を要求したのですから、シャナナとタウル、攻守を入れ替えたのかといいたく なります。
ちょうど1年前の今頃も2019年度の国家予算案の約 21 億 3200万ドルという過去最大の予算額が話 題になりました。この場合、チモール海の「グレーターサンライズ」ガス田における共同開発企業のな かの2社(コノコフィリップス社とシェル社)からその権利を買うための6億 5000 万ドルが含まれて いたので最大額となってしまったのです。ルオロ大統領から拒否権をうけた 2019 年度予算案でしたが、 結局、6億 5000 万ドルが差し引かれ、総額 14 億 8200 万ドルの国家予算として発布されました(のち に法律が改訂され、6億 5000 万ドルの買い物は完了)。
したがって今回の場合も、額の大きさが問題視されて撤回を余儀なくされた予算案の額は 13~14 億 ドル前後に削減されると思われました。12月19日、国会に再提出された予算案の総額はしかしながら、 16 億 6800 万ドル、さほどの削減とはなりませんでした。
今年 1 月、まだ 2019 年度予算案の額が約 21 億 3200 万ドルだったころのこと、わたしは過去最大の 予算額ですねとタウル首相に話しかけたところ、中身を見ればそれほどでもないと首相に返えされたこ とを憶えています。6億 5000 万ドルはコノコフィリップス社とシェル社からの権利を買い取るための 資金なので行政サービスに直接反映する資金でないことはいわずもがな、予算総額からうける印象とち
がって小ぶりな内容であることをこのときタウル首相は数字を並べてわたしに述べたのです。そのとき
のタウル首相のことを想えば、庶民の生活向上のためならば過去最大に匹敵する予算を計上してもおか
しくはありません。大切なのは「バユウンダン」油田に代わる国家収入源の早期確保を目指すのか、長
期的展望に立って人への投資をするのか、この二つの「選択」と「比率」です。惜しむらくは、タウル 首相の提出した予算案は、政府機関の仕事ぶりにたいする酷評と AMP 政権内のひび割れ状態という政 治的混迷によって搔き消さてしまい、総額の大きさが独り歩きして内容が吟味されることなく自滅した ことです。
市民団体がしばしば指摘することですが、なぜタウル首相は沈黙を保っているのか? これがまず不 思議です。タウル首相が寡黙の人という意味ではなく、批判・非難にたいし反論もしないし、国民・市
民の苦情にたいし説明もしなければ適切な対処もしないという意味です。説明をして指導力を発揮でき なければなんのための首相という職なのか、わかったものではありません。
暦に救われたタウル首相
日本でも12月20日・金曜日からクリスマス・年末年始休暇に入った企業が話題になったようですが、 東チモールのタウル首相も 12 月 20 日から1月6日まで法で定められる年休をとりました。その間、首 相代理を務めるのはアジオ=ペレイラ内閣長官です。また、ルオロ大統領も 12 月 23 日から 1 月 13 日 までの年休をとりました。12 月 23 日が過ぎれば 24 日・クリスマスイブ、そしてクリスマスのあとは 当然 26 日・木曜日、27 日はもう金曜日、週末です。ほとんどの政府機関・役人は 20 日からクリスマ
ス・年末年始休暇に入りました。国会も、12 月 19 日に再提出された国家予算案について 23 日にその 性格を緊急性を帯びているものと定義するかどうかの採決をし、そして可決しただけで休暇に入りまし た。中身の本格的審議は年明けに持ち越しです。
修正された国家予算案が提出され、今度こそ本格的な予算案の国会審議が始まろうというときに、そ の翌日 20 日から休暇をとったタウル首相は、身の引き際を考え始めたのかとわたしは一瞬思ってしま いましたが、そうではなく、単純に暦の曜日の並びのうえでの出来事・行動でした。
世論と与野党からの批判され、四面楚歌の状態で国会提出を強行した 2020 年度国家予算案でしたが、 タウル首相自らが撤回を余儀なくされ(首相は屈辱を味わったと思うが、その感情さえ黙して語らずだ) 、
このまま世論と与野党からの強い風当たりにさらされ続けると思いきや、東チモールはクリスマス・年
末年始休暇に入ってしまいました。タウル首相は暦の曜日の並びによって苦しい局面から一時避難する ことができたようです。
修正された 2020 年度予算案によって、「石油基金」はこのままでは 10 年ほどで空になるという事態 に、どのような「選択」と「比率」で立ち向かっていくのか、タウル首相の説明を待ちたいと思います。
去年から懸念された、町にあふれるゴミの問題も未解決のままで年を越してしまう。クリスマスが終わ って道を歩けば、歩道はゴミで塞がれていた。1年前と同じ光景だ。
2019 年 12 月 26 日、ベコラにて。 ⒸAoyama Morito.
クリスマスの季節そして年末年始の休暇用に特別設置された露店の列。店側も消費者側も喜んでいる。 消費者の出費は去年に比べて低いとニュースで報じられた。 2019 年 12 月 24 日、コルメラにて。 ⒸAoyama Morito.
キリスト生誕を描写するクリスマスの飾りつけ。わたしが滞在する家の子どもたちが手作りでこしらえ
た。子どもたちは普段スマホいじりに明け暮れているが、やるときはやる。写真手前・下の文字には「メ リークリスマス、2019 年 12 月 25 日、新年おめでとう、2020 年 1 月 1 日」とある。 これを読んでいるみなさんにも、良いお年を! 2019 年 12 月 24 日、ベコラにて。 ⒸAoyama Morito.
青山森人の東チモールだより 第407号(2019年12月30日)より
青山森人 e-mail: aoyamamorito@yahoo.com
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion9312:191231〕
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