世界の真ん中で萎縮しファッショ化する日本!
- 2020年 1月 2日
- 時代をみる
- 2020加藤哲郎
2020.1.1 昨年末に予告したように、2020年から月1回、1日の更新です。といっても、正月だからめでたい話とはなりません。すでに数年前から、安倍晋三内閣を「忍び寄るファシズム」「ファシズムの初期症候」と述べてきた本サイトとしては、憂鬱な新年です。なにしろ「天皇陛下万歳」がテレビで繰り返し放映され、公共美術展の芸術作品が「御真影」を侮辱したと批判されて展示が中止されました。公金私消の権力私物化が国会で十分解明できず、その糸口になるはずの公文書の隠匿・改竄は、ついにシュレッダーで裁断されてなかったことにされるところまで進んだのですから。とても「おめでとう」を語る気分になれません。国際社会での地位はどんどん下落し、女性の政治参加では発展途上国以下なのに、この国の独裁者は「日本が世界の真ん中で輝いた年になった」という年末回顧、恐るべき自己愛(ナルシシズム)です。実際は、トランプの米国以外四面楚歌、萎縮する日本です。
もっとも「忍び寄るファシズム」は、日本だけの話ではありません。国際協調の崩れ、自国中心主義、移民・難民・外国人労働者の排斥は、いたるところで見られます。かつて冷戦崩壊時に夢見られた、グローバリズムによる越境の容易さと世界の平準化は、インターネットによるコミュニケーションの広域化に促されて世界平和へ進むかに見えましたが、実際には地球規模での多国籍企業による自然破壊と格差拡大、国民国家の再編と新たな国境の壁の構築でした。左右の全体主義と権威主義体制が終わって、「退屈な」自由と民主主義が広がるという「歴史の終焉」論もありましたが、宗教の違いや人種・民族問題が至る所で吹き出し、新たな対立と紛争、抑圧と抵抗、暴力と追放、そして戦争が日常化してきました。そして、それを統括する大国の指導者たちは、アメリカン・ファーストの大統領、EUから脱退するイギリス首相、強権的な中国とロシアのトップ、彼らの権力と統治技術に比べると、沈み行く日本の安倍晋三は、いかにも小物の貧弱な国家主義者にみえます。
かつて戦後西欧で、雇用と所得再分配を保障するケインズ主義的福祉国家は財政破綻をもたらしたとして「イギリス病」や「スウェーデン病」が叫ばれ、「小さくて強い政府」を掲げる英国サッチャー首相が登場したのが1979年、当時は、「鉄の女」の反共ポピュリズムと言われました。それが米国レーガン、西独コール、日本中曽根と広がったのが、1980年代でした。それから40年、新自由主義は、ソ連・東欧社会主義が自壊し、EUやアジアにも広がって、グローバリズムを牽引しました。同時に市場的自由競争、投機的マネーゲーム、私的自己責任の論理が世界に流され、中国やインドが国際社会のアクターとして台頭しました。科学技術の成果はグローバル企業の利益独占と核軍拡から宇宙へと広がった戦争準備につぎ込まれ、学術研究の世界もグローバルな人材確保競争と国家の産軍学協同推進の波に呑み込まれました。第二次次世界大戦後30年で西側に構築されたシステムが、その後の40年で新自由主義に再編されましたが、どうやらそのシステムも制度疲労が進み、内部矛盾が周辺部から吹き出しています。
大国の市場と金融支配の競争の中で、東南アジアで、中東で、アフリカで、ラテンアメリカで、とりわけアメリカと中国の覇権競争に小国や地域が巻き込まれ、膨大な移民や難民が彷徨い、それがEU諸国や、新自由主義下でも福祉国家を保持した北欧諸国にまで流れ込みました。もともと移民国家として生まれた北米や豪州でも、既得権を奪われかねない下層の階級・階層からも、高い壁を作れという声があがります。40年前とは方向の違う、ナショナリズムと排外主義を動員したポピュリズムが新たな支配者を産み、ネオ・ナチ政党や極右政党が議会でも勢力を伸ばします。かつてのムッソリーニ、ヒトラー、東条=昭和天皇とは異なる形での、権力分立や選挙・議会を残してのファシズム化です。21世紀新自由主義下の独裁は、国軍の権威や直接的暴力を担保にしながらも、経済界の支持調達とメディア支配、プロパガンダと情報戦による対抗文化の周辺化・抹殺を特徴とするようです。もっともそれぞれの国情に応じて、一度は悲劇として、二度目は喜劇としての運命に終わらせる余地は、グローバル化をくぐった社会運動のネットワークと、インターネットの民衆メディアがある限りにおいて、残されていますが。
日本が悲劇の国になるか、喜劇の国になるかは、2020年代の選択にかかります。1980年代に新自由主義の波に乗ったが、バブル崩壊と失われた30年で米中対立の狭間に沈没しつつある国が、国際社会の中で名誉を回復する道は、大きく二つあります。一つは、広島・長崎を経験した国として、核兵器の廃絶・違法化の先頭に立つこと、いま一つ、東日本大震災・福島原発事故の被災国として、度重なる地震・台風・風水害を過去も現在も幾度も繰り返してきた国として、地球的規模での温暖化・気候変動への対策、エネルギー転換、そのための科学技術転換、教育・学術研究への投資を率先して進めることです。その方向転換への障害となる、軍備拡張の対米従属や東アジア諸国への敵対とヘイトを改め、国内での格差と低賃金、女性・外国人労働者や沖縄への差別をなくしていくことです。初期ファシズム政権となった安倍晋三内閣は、当面の最大の国民的障害です。
トップページの月一回更新にあわせて、「ネチズンカレッジ」全体のカリキュラムを、組み替えました。一橋大学・早稲田大学での40年近い教職を勤め上げたのを機に、これまでの4年制大学・学士論文向けカリキュラムから、大学院修士課程・博士課程を想定した新総合カリキュラムで、専修コース、主題別分類を採りました。まだ参考文献、pptパワポ原稿 やyou tube 映像の追加等はこれからの暫定版ですが、おいおい進めていきます。なお、これまで「情報処理センター」として皆様にご愛顧頂いたリンクページは、グーグルやウィキペディアの精緻化、スマホ検索の普及を踏まえてトップページからは廃止し、情報学研究室に歴史的資料としてのみ、残しました。イマジンやカレッジ日誌と共に、いわば本カレッジの公文書です。その代わりに、「今月のお勧め」として、個人的に参考になった書物・論文やTV番組、you tube映像等を、図書館書評ページや学術論文データベ ースとは別に、取り上げて紹介していきます。
[2020年1月のおすすめ] まずは本サイト・学術論文データベ ースの常連、神戸の弁護士深草徹さんの最近の寄稿「最近の日韓関係の危機の顛末と原因をつまびらかにし、その修復の道を論ずる」が加筆されて、市販の単行本になりました。『戦後最悪の日韓関係』というタイトルで、かもがわ出版から1月に刊行されます。世界の動きを、改めて人類史的に見るために、マルクス・ガブリエル、マイケル・ハート、ポール・メイソン『未来への大分岐ーー資本主義の終わりか、人間の終焉か?』(集英社新書)、編者・斎藤公平さんの発言を含め、考えるヒントが満載です。この間進めている、日本の科学技術と今日の大学・学問を考えるために読んでいる、谷川 建司、須藤 遙子『対米従属の起源 「1959年米機密文書」を読む』(大月書店)と志垣民郎『内閣調査室秘録ーー戦後思想を動かした男』(文春新書)、共に2019年の刊行ですが、前者は米国 USIS(広報文化交流局)の1950年代日本文化工作、後者は内閣調査室の1960年代日本知識人・学界工作を、実名入り第一次資料で明らかにする重要文献です。you tube を二本、共に今、香港民主化運動のなかで歌われている、「香港に栄光あれ」と「世情」ーー後者はもともと、日本の中島みゆきの名曲でシュプレヒコールが出てきます。
2020年も、新装「ネチズンカレッジ」をよろしく。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye4677:200102〕
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