生協の組合員が3000万人へ 個配や地域社会づくり推進が奏功か
- 2020年 2月 6日
- 評論・紹介・意見
- 岩垂 弘生協生活協同組合
生協(生活協同組合)の組合員が2020年度に3000万人を超える見通しとなった。1月24日に東京・渋谷の日本生活協同組合連合会本部で行われた日本生協連新年記者会見で、嶋田裕之・代表理事専務が明らかにした。生協組合員数が3000万の大台に乗るのは初めてで、今や、生協は日本最大の消費者組織となったと言える。日本生協連が進めてきた商品供給事業での個配と、「誰もが安心してくらし続けられる地域社会づくり」が地域住民に支持され、組合員増につながったとみていいようだ。
生協には、地域生協、職域生協、学校生協、大学生協、医療福祉生協、共済生協、住宅生協などがあり、これらの生協のほとんどが日本生協連に加盟している。その数は2018年度で568。その組合員は総計で2924万人である。
嶋田専務によると、組合員はその後も増えており、2019年度中には3000万人に届かないものの、2020年度の早い段階に3000万人に届きそうだという。
日本は少子高齢化のテンポが速く、人口減少が著しい。そうしたこともあって、労組、農協など、これまで多数の国民を組織してきた団体は軒並み構成員を減らしている。その中にあって生協は年々組合員を増やしているわけで、このことは特筆に値する。
とりわけ、地域生協での組合員増加が目立つ。2018年度の地域生協数は123。その組合員 は2227万人。これは全体の76%を占める。世帯加入率は38・1%。全国の世帯の約3分の1が地域生協に加入していることになる。北海道、宮城、福井、兵庫の4道県は加入率が50%を超す。加入率40%を超すのは青森、岩手、山形、茨城、群馬、千葉、京都、奈良、岡山、香川、愛媛、大分、宮崎の1府12県。
これらの数字からしても、生協が国民の間に広く根を張りつつあることが分かる。
組合員増加の理由は何か。
日本生協連関係者はまず、「個配」が組合員の支持を受けていることをあげる。
地域生協の事業で最も主要なそれは組合員に生活必需品を供給することだが、それには2つの手段がある。店舗での供給と宅配による供給だ。
日本生協連の報道用基礎資料によると、全国の主要地域生協(65生協)の2018年度の供給高は2兆7661億円だが、その内訳は店舗での供給が32%、宅配による供給が65%。
宅配には組合員の自宅に届ける個配と、グループや職場へ届ける班配がある。その比率をみると、宅配の中で個配が占める割合は71%にのぼる。日本生協連関係者によれば、このところ、個配が年々1%増を示しているという。「組合員の生活スタイルや個人ニーズに対応した供給の仕方が組合員に支持されているからだろう」というのが関係者の見方だ。
地域生協が全国各地で産声をあげたのは1960年代で、70年代には世界的に注目を浴びた驚異的な発展を遂げるが、それを支えたのは組合員による共同購入だった。いわば、宅配の原型だ。宅配こそ、生協にとってお家芸だったわけである。
市民の自宅まで商品を届けるというやり方は、最近では他の流通業でも急速に進んでいるが、生協のレベルまでにはまだ追いつけない、といったところか。
地域生協が推進する「誰もが安心してくらし続けられる地域社会づくり」も、地域の人たちに受け入れられつつあるとみていいようだ。その活動は多岐にわたるが、成果を上げているものとしては、まず、被災地復興支援活動があげられる。
この活動が本格化したのは2011年の東日本大震災で被害を被った東北の被災地への支援活動からで、日本生協連と全国の生協が2011年度に被災地へ送った義援金は約35億円にのぼった。2012年度から2015年度までは支援活動の一つとして「くらし応援募金」に取り組み、6億6000万円を集めた。
2018年7月の西日本豪雨では、日本生協連が全国の生協に現地の復興活動を支援するための緊急募金を呼びかけ、募金総額は10億円に達した。同年9月の北海道胆振東部地震被害でも、全国の生協が約3億7000万円を集め、被災地の関係団体に送った。
さらに、昨年の台風19号による災害でも、被災地支援活動をおこなった。全国の生協から長野市や宮城県丸森町の災害ボランティアセンターに職員を派遣したほか、全国の生協による被災地支援募金は6億7000万円を超えた。
全国の地域生協が取り組んできた災害地支援活動は他にもある。その一つが、災害などの緊急時に自治体の要請に応えて生協が被災住民向け物資を自治体に供給するという協定を両者で結ぶ活動だ。日本生協連によれば、これまでに都道府県のほとんどと協定が結ばれ、区市町村との協定は700件以上にのぼる。
宅配のインフラを活用した「地域見守り活動」の推進もあげていいだろう。
高齢社会を迎えて、地域では1人住まいの高齢者が増えている。そこで、生協の宅配担当者が家々に商品を配達する折りに「高齢者宅でポストに郵便物が貯まったままになっていないか」「届けた商品に手がつけられていないということはないか」などと気をくばり、異変があれば、行政や社会福祉協議会に連絡する、という仕組みをスタートさせた。日本生協連によれば、すでに全国99生協が47都道府県の1147市区町村と地域見守り活動協定を締結した。これは、全地区町村の65・9%にあたるという。
さらに、全国各地の地域生協は、高齢者が多い過疎地の買い物困難地域に商品を積んだ移動販売車を派遣している。
生協が、2015年度から、貧困に直面している子どもたちを支援する活動を始めたことも地域住民の関心を集めていると言っていいだろう。具体的には「フードバンクまたはフードドライブ」、「子ども食堂」、「学習支援」といった活動だ。
「フードバンク」とは、食品を取り扱う企業から、余剰食品や規格外商品、店舗で売れ残った賞味期限・消費期限内の食品などの寄付を受け、無償で必要な人や団体に提供する活動だ。「フードドライブ」とは、家庭で余っている食品を持ち寄り、福祉団体や施設、フードバンクなどに提供する活動をいう。「子ども食堂」とは空腹であったり、1人で食事をしている子どもたちに無料または低額で食事を提供する取り組み、「学習支援」とは、貧困家庭の子どもたちの勉強を支援する活動だ。
日本生協連によれば、こうした活動は生協単独で行うというよりは他の団体、例えばNPO法人やJA(農業協同組合)と連携して行う事例が多い。2019年度現在、フードバンクを行っている生協は40、フードドライブを行っている生協は37、子ども食堂をやっている生協は39、学習支援をしている生協は19にのぼるという。
こうした多面的な地域貢献活動が地域住民に歓迎され、組合員の増加をもたらしたというわけである。
もっとも、生協陣営としては組合員の増加を手放しで喜んでばかりいられないようだ。なぜなら、主要地域生協の2019年度の4月度から12月度までの総供給高累計が前年比で99・4%にとどまったからである。嶋田専務によれば、主要地域生協の総供給高が前年度割れしたのは初めてという。1世帯あたりの購入額が減ったためだが、これは消費税増税のほか、高齢者世帯が増えて食べる量が減ったことなどが響いたという。
同専務はこうした実態を「生協にとって厳しい状況だ」とし、「これからは宅配事業の改善と再強化に力を入れたい」と述べた。
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