世代交代の戦いが続く男女プロテニス -錦織世代の終戦
- 2020年 2月 13日
- カルチャー
- スポーツテニス盛田常夫
全豪オープンテニスが終わった。女子は予想外の決勝戦となり、今回もまたグランドスラム大会の新しいチャンピオンが生まれた。2017年以降、この全豪大会までの4大大会各年の女子優勝者はすべて異なる選手となった。もっとも、大坂なおみ選手は2018年全米と2019年全豪と、年をまたいで連続制覇しているが、同一年だけに限ると、グランドスラム大会を連覇した選手はいない。セリーナ姉妹という絶対的な王者を引き継ぐ若い選手の激しい攻防が続いている。
男子の場合は極端で、2004年の全豪でフェデラーが優勝して以降、グランドスラム大会は実に16年にわたってフェデラー、ナダル、ジョコヴィッチによるビッグスリーの天下が続いている。この間、マリーとワブリンカの実力者がそれぞれ3度の優勝を飾ったほかは、ガウディオ、デルポトゥロ、チリッチの3選手がそれぞれ一度だけトップスリーの壁を破っただけだ。
しかし、男子テニス界にも確実に世代交代の並みが押し寄せている。20歳代前半の若手選手の天下取りはそう遠くない。
女子テニスの現状
2018年全米オープンでの大坂選手の優勝は予想外であったが、それに続く2019年全豪制覇で一歩抜け出たと思われた。しかし、全仏はバーティ(23歳)、全米はアンドレスク(19歳)、そして2020年の全豪がケニン(21歳)となった。そして、今年の全豪3回戦で大坂選手が敗れた相手が15歳の天才少女ガウフである。
女子テニスは大坂選手(180cm、22歳)、クヴィトヴァ(180cm、29歳)、プリシュコヴァ(186cm、27歳)の男子並みの速いサーヴを武器にパワフルなテニスを展開する選手と、小柄で粘り強いストロークを展開する選手(バーティ166cm、アンドレスク170cm、ケニン170cm、ハレプ168cm、ケルバー173cm)に分かれている。
この戦いに新たに参入したのが、15歳の天才少女ガウフである。体格的には大型選手に近い175cmだが、サーヴスピードは大型選手並みである。ファーストサーヴィスの平均速度は170km/h台で、これはほぼ大阪選手や錦織選手と変わらず、セカンドサーヴィスのそれは155-160km/hと男子の一流選手並みのスピードである。セカンドサーヴィスは錦織選手より15-20km/hほど速い。女子選手としては驚異的な数値である。ストロークの粘りも、とても15歳とは思えない。文字通り、天才少女である。
昨年の全米では大坂選手に完膚無きまでに叩き潰されたが、この全豪では堂々と押し切った。全豪の第一セットのガウフ選手のファーストサーヴの確率はセット途中まで8割を超え、セカンドサーヴも160km/hのスピードで圧倒した。ここまでガウフ選手の調子が良ければ、大坂選手が100%の状態でなければ勝つのは難しい。サーヴの圧力で大坂選手は押されてしまい、凡ミスを重ねることになった。大坂選手にしてみれば、男子選手と戦っているような状態だった。
ただ、テニスのサーヴィスはどれだけ好調でも必ず波があるし、返ってくるはずのない球が返球され続けると調子が崩れる。実際、ガウフ選手は4回戦の対ケニン戦の最終セットを0-6で失った。いったんサーヴィスの調子が崩れると、それを立て直すことができず、それがストロークミスを誘発する悪循環が起きる。
また、サーヴィスではイップス(形が崩れて制球できなくなる状態)に陥ることがある。2017年の全仏でノーシードから19歳の若さで優勝したオスタペンコ選手は、その後、サーヴィスで典型的なイップスに陥り、ダブルフォールトを連発して試合にならず、ランキングを落としてしまった。男子の次世代王者と言われるズヴェレフ選手も、220km/hの剛球サーヴと、パワフルなストロークで相手を圧倒的する力を持ちながら、ここまで半年以上、サーヴィスのイップスに悩んできた。全豪はファーストサーヴの速度を10km/hほど遅くして制球に努め、ベストフォーまで勝ち上がった。
大坂選手が再びトップの座を狙うための課題は明らかである。ストローク型の若手に対抗できるストロークの粘りと安定性を高めること。そのために、打球を捉える前のステップを細かくする足の運びを怠らず、時にはスライスで返球するストロークのヴァリエーションをもつことである。もうひとつは、セカンドサーヴィスの威力を付けることである。ファーストサーヴィスは一流でも、セカンドサーヴィスは二流である。そこを叩かれる場面が多い。これらを克服すれば、再び頂点に立てることは間違いない。大坂選手は大きな伸びしろをもっている。そこが他の大型選手との違いである。
男子は混戦状態
男子はようやく世代交代が始まった。ビッグスリーのうち、今年で39歳になるフェデラーはバックハンドストロークに難があり、これが若手選手の狙い所になっている。最近では左右の動きが鈍く、勢いのある若手のホープに勝つことがますます難しくなっている。
全豪決勝でジョコヴィッチと戦ったティームは26歳だから若手とは言えないが、若手グループを引っ張る代表格である。彼を先頭に、ズヴェレフ(22歳、198cm)、チチパス(21歳、193cm)、メドヴェージェフ(24歳、198cm)、ハチャノフ(22歳、198cm)が次世代のチャンピオンを狙う若手である。彼らに共通しているのは大型でサーヴ力があり、大型選手に特有のストロークでのもろさがないばかりか、ジョコヴィッチやナダルと堂々とストローク戦を展開できる機動力をもっていることである。
この次世代の若手が台頭したことによって、故障が多い錦織世代(錦織、チリッチ、ラオニッチ)はフェイドアウトすることになった。若手のホープたちは錦織以上のストローク力を誇り、ラオニッチ並みのサーヴ力があり、チリッチ並みの体格がある。2014年に全米決勝を戦った錦織とチリッチには世代交代の期待が寄せられたが、その後の技量の向上に目立った進歩がなかった。錦織選手の状態は2014年全米決勝を比べると、明らかにストローク力が退歩している。ストロークの鋭さがなくなれば、女子選手並みの錦織選手のサーヴ力で、現在の男子テニス界を戦うのは難しい。ビッグスリーと次世代をつなぐ錦織世代の役割は終わった。
ナダルのストローク力は依然として威力万点だが、若手のホープのストローク力も着実にナダルに迫っている。ティームが一歩も引かないストローク戦を展開してナダルを破ったが、メドヴェージェフもチチパスも、ナダルを恐れないストローク力がある。加えて、若手選手は皆、ビッグスリーを上回るサーヴ力をもっている。これがビッグスリーを脅かす大きな武器になっている。
男子テニスでサーヴ力の占める割合は高い。ストローク力が同等なら、サーヴ力が試合を決める。だから、ナダルもジョコヴィッチも30歳を超えてなお、サーヴ力の向上に力を入れている。ここは錦織世代がトップスリーから離されたところでもある。サーヴ力を強化できるコーチを付け、台頭する若手に対抗するための攻撃力を付けている。この努力こそ、彼らがトップを守り続けている源でもあり、錦織選手に欠けているところだ。錦織選手はコーチの選択を誤った。
全豪でジョコヴィッチが頂点に立ったが、着実に世代交代の波が押し寄せている。
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