責任と贖罪:虐殺の記憶を語ること
- 2020年 2月 16日
- 評論・紹介・意見
- 9条髭郁彦
1月13日、文京区区民センターで憲法を考える映画の会が企画した「自主制作・上映映画見本市#3」が行われ、総計7本のドキュメンタリー映画が上映された。私はその中で「靖国・地霊・天皇」(2014年)、「9条を抱きしめて―元米海兵隊員が語る戦争と平和―」(2013年:以後サブタイトルは省略する)、「反戦を唱う女たち」(1988年)という三本の映画を見たのだが、ここで書こうと思う事柄は「9条を抱きしめて」と関係する問題である。映画の完成度から言うならば、この映画よりも他のニ本の方が完成度は高かったが、この作品が提示する問題について考察する必要性を私は強く感じたのだ。それには以下の理由があった。
そして、私は「9条を抱きしめて」を見た。この映画の元海兵隊員の物語とその物語に関係した歴史性について何かを書くことも、歴史の波間に消え行こうとする問題に再び光を灯すことではないだろうか。そう考えたのである。それゆえ、このテクストでは最初にアレン・ネルソンという元海兵隊員の人生に関して検討する。それに続いて、やはりアメリカの軍人で、ヒロシマの原爆投下にゴーサインを送った先導機の機長だったクロード・イーザリーについて書いていく。そして二人の元アメリカ軍人が引き受けようとした戦争責任と彼らの行為の歴史的意味という問題について考えていきたい。
だが、こうした二人の勇気ある行為は権力者によってすぐに潰され、歴史のページから破り捨てられてしまう。だからこそわれわれはヴァルター・ベンヤミンが行ったように見捨てられたもの、些末的なものに目を向けていかなければならないのではないだろうか。21世紀が始まってすでに20年が過ぎた。だが、多木の言葉は未だに果たされていない。それゆえ、次のセクションではネルソンとイーザリーが投げかけた問題を通して20世紀という過ぎ去った歴史の中で忘却されそうになっている小さな出来事について検討していきたい。
ネルソンが語ったこと、イーザリーが語ったこと、それを風化させ、彼らの言葉が塵のように吹き飛ばされる前に、われわれは彼らの言葉を、彼らの行為をもう一度しっかりと見つめ直す必要があるのではないだろうか。そうでなければ、歴史の荒波の中で、われわれが守らなければならない倫理は政治の前で無残に押し潰されてしまうだろう。このテクストの最後に、アーレントが『暗い時代の人々』のベンヤミンについて書いたテクストの中にある文を引用しよう。アーレントはベンヤミンの歴史に対する信念に関して、「(…) たとえ生存は荒廃した時代の支配を受けるとしても、腐朽の過程は同時に結晶の過程であるとする信念、かつては生きていたものも沈み、溶け去っていく海の底深く、あるものは「海神の力によって」自然の力にも犯されることなく新たな形に結晶して生き残るという信念である」(阿部齊訳)と述べている。この言葉はベンヤミンの歴史と向き合う姿勢を表すだけではない。それはネルソンやイーザリーの歴史と向き合う姿勢でもあった。われわれは彼らの信念の結晶を粉砕してはならない。21世紀の歴史の扉を確かに開くために、その結晶が必要であるから。
初出:宇波彰現代哲学研究所のブログから許可を得て転載
http://uicp.blog123.fc2.com/blog-entry-345.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://chikyuza.net/
〔opinion9456:200216〕
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