米国の大統領選挙と候補者への支持者たち
- 2020年 2月 23日
- スタディルーム
- アメリカ大統領選岡本磐男
私は今年秋に行われる米国の大統領選挙には重大な関心を持っている。それは多分、約2年先に行われるであろう日本の総選挙に対してよりも強い関心事である。日本人でありながら、日本の総選挙よりは、米国の大統領選の方が関心が高いとうのは、私が、奇人・変人に属するからだと思われるかもしれぬ。だが私は他人にどう思われようと、構わないが、そう考える所以は、いうまでもなく今年秋の米国の大統領選は、世界を変えるとみられるからである。
現状についていえば、先ず米国大統領の共和党の候補者は現在の大統領であるトランプ氏のみである。だが私はトランプ氏の再選には賛成できない。それにはさまざまな理由があるが、主要な理由の第1は、彼は核戦略を発展させることを主張し、現実に使用可能な核兵器を製造することを提案している点である。また第2には、中東諸国との複雑な関係においては軍事力を行使しても解決せねばならぬと考えており、現実にイランの革命軍の司令官を殺戮しイランとの関係悪化を招いた点である。この関係は決して容易には解決可能とは考えられぬであろう。今後引続いてトランプ氏が米国大統領の地位にとどまるとするなら、米国対イランの関係はいっそう悪化することを余儀なくされるであろう。さらに彼は、北朝鮮の非核化問題に取り組んできたとはいえ、北朝鮮問題を少しも解決の方向に進展させたとはいえなかった。むしろ彼の大統領への再任は、第3字世界大戦の勃発への口火を切るようになるかもしれぬとの懸念を引き起すものである。この点を考えると、2年後の日本の総選挙などは、重要性において、戦争勃発への懸念という観点からみて、まずは安心していられるのではあるまいか。日本国民の大多数は、米国の核の傘の下に安住して、戦争の可能性など考えていないし、また自からの社会的地位や階級意識について考えることなく、支配階級を支える政党に自己を委ねているかの如く思われるからである。これはこれで大いに問題があると感じられるにしてもである。
共和党と対立する民主党のアイオア州における2月初旬の候補者選びは、バーニー・サンダース上院議員(78)やエリザベス・ウォーレン上院議員(70)の「革新系」とジョー・バイデン前副大統領(77)とピート・ブダジェッジ前インディアナ州サウスベント市長(38)およびクロブシャー氏(59)「穏健派」らの5名が争う構図となったといわれるが、残念ながら投票数の集計問題でトラブルが発生し、候補者への投票数が直ちには明らかにならず、この点では前哨戦ともいわれる選挙戦で民主党は失敗した。ここで前哨戦と述べた理由は、アイオア州で勝利した候補者は大統領になれるという歴史的根拠が知れわたっていたためである。失敗が明らかとなってから2日程経って、結局アイオアでの選挙に1位となった候補者はブダジェッジ氏であり、2位の候補者はサンダース氏であるが、その差は0.1%の僅差であることが判明した。(ブダジェッジ氏=26.2%、サンダース氏=26.1%)。そうであるとするなら、今後の各州の選挙において、サンダース氏が1位になることは、決して夢ではないであろう。それというのはサンダース氏は年はとっていても、17歳から30歳にかけての若年層からの圧倒的に高い支持(統計の区分によっては50%に届くほどの支持を受けているからである。
それというのは、現在の米国社会では貧富の格差の拡大に若者たちは怒りを感じているためである。この社会は限界に達しつつあるとみているためである。就職するためには、学問を収得しなければならない。大学・大学院の教育費や学費は高騰しつつある。それ故学生たちは教育費や学費のローン(奨学金)に頼らねばならないが、その結果、大学・大学院の卒業までに多額の借金を抱えてしまうのである。中には800万円もの借金をして苦しんでいる若者もいるといわれている。この点にサンダース氏は着目して若者たちの学費の負担の軽減をはかる政策を提示しているのである。同氏への若者の人気が高まるのは当然といえよう。こうした政策への展開は、当然に資本主義というシステムに一定の制約を貸すことになるのであり、同氏が民主社会主義者だといわれる所以もこの点にある。
こうしたサンダース氏の立場は、かつては大学教授の地位にあったウォーレン女史によっては理解されているであろう。だが別の3名の候補者によっては過激にすぎるとみられている。それ故彼等は民主党の伝統的な理念としての社会的弱者の救済の問題からは一歩も突き進んでいない。
これに対して共和党の理念は、資本の論理を尊重するという立場であり、20世紀のソ連型社会主義との間の冷戦時代にも米国は資本主義のチャンピオンだといわれていただけあってこれに固執する傾向がつよい。それ故トランプ氏は在任中、成長率が高まり、失業率が低下したことのみを自慢げに語っている。また米国の労働者もこれを評価し、ウォール街の大富豪と共にトランプに票をいれる人が結構多い。
米国大統領の候補者支援に関してこれまで取上げなかった重要な問題は、宗教信仰者の立場である。米国宗教者の中で最も大きな派閥はキリスト教福音(いん)派であり、米国人の4分の1の人たちはこれに属しているといわれる。この宗派は旧約・新約の聖書の内容に最も忠実であるといわれるので大派閥を構成しているのであるが、この宗派の人たちは前回の大統領選挙のさいには、みなトランプ氏に投票し勝利させたのである。今年秋の大統領選挙ではどうなるかは未定であるが、テレビ報道によれば、団結することはなく分裂し、トランプ賛成派と反対派に分かれると予想されている。それ故宗教の宗派がトランプ氏を利することになりえないと目されている。
トランプ大統領を誕生させたキリスト教福音派のような一大宗教派閥において、信徒間に分裂がもたらされ、かつ若年層の多くの人たちが民主党を支持するようになっていけば、それはサンダース氏にとって有利になるであろう。私はサンダース氏が米国大統領となるに相応しいと考え、そうなることを期待するものである。もし彼のような民主社会主義者が米国大統領(あるいは2位となったとしても)資本主義世界に衝撃がもたらされるであろう。(ニューハンプシャー州における二回目の選挙ではサンダース氏は1位となる)
20数か国の資本主義国から構成されるEU諸国は、今日ではドイツを除けば、財政赤字、貿易赤字に苦しんでいるし、これに難民や移民の問題がつけ加わることによってきわめて困難な情況に直面している。右派のナチスのような独裁体制をとる国も現われているが、ナチスがケインズ政策をとっても成功しなかったように財政収支を悪化させるばかりである。またこれに追加して企業の極大利潤の追求を放任してきたために地球環境異変がますます激しくなってきた。この問題と共に今後10年もすればAI(人工知能)の問題も発生し失業者がふえることも予想される。こうなれば資本主義の危機はいっそう深まり決して自由経済ではいられなくなるであろう。すなわち資本主義には制約する必要が発生し、統制と計画化が必至となってくるであろう。
現在はその過渡期にあるといえるであろう。今日の米国および日本のジャーナリストの中にも、米国の次期大統領が誰になるかは未だ不明であるとみている人たちもいるようである。だが私からみれば、彼等こそ、現在の資本主義に対する危機に対する認識が甘い。現在は地球規模で危機が発生している時代なのだ、だからこそ過激といわれようと、新しい発想の思想家、政治家が必要とされているのだ、といわざるをえないのである。(2月14日に記す)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔study1105:200223〕
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