極右政治家が台頭する背景 2022年のマリーヌ・ルペン大統領、小池百合子首相の可能性
- 2020年 7月 6日
- 評論・紹介・意見
- 村上良太
昨日の都知事選で右翼政治家の小池百合子現職が大差で再選を果たしたことは何を意味しているのでしょうか。筆者には日本の格差拡大と貧困化がついに長期安定軌道に突入したであろうことです。格差の拡大と貧困層の増大が極右政治家を台頭させる傾向は世界共通です。
フランスのマリアンヌ誌(※)で、先日、2022年の大統領選挙でマリーヌ・ルペン大統領が誕生する可能性がますます高まっていることが伝えられました。マリーヌ・ルペン氏はかつての極右政党・国民戦線(旧FN、現在はRN)の女性党首です。2017年の大統領選の決選投票でマクロン候補にダブルスコアで敗れましたが、2002年の大統領選の決選に臨んだ父ジャン=マリ・ルペン氏に比べると、票を積み増しています。
今年6月時点のIfop-Fiducialの世論調査ではマリーヌ・ルペン氏が2022年の大統領選の第一回投票をトップで通過、決選投票でごく僅差(10ポイント差の45:55)でマクロン大統領が優位だそうですが、2022年の状況次第で逆転する可能性も出ている、と言うのです。実は、2011年に党首を引き継いで以来、着実に党員を増やしてきた旧・国民戦線(現在は、国民集合=RN)は2017年の大統領選でマリーヌ・ルペン大統領を生むという予測もかつては多数出ていたのを筆者は覚えています。もしマクロンという新人が新党を作っていなければすでに2017年の時点でルペン大統領の可能性もあったのです。マリアンヌ誌の政治記者であるトマ・ゲノレ氏によると、かつてならフランス人はたとえ誰が大統領になろうと決選投票で極右政治家は絶対につぶしてきたのですが、今ではそうした歯止めはなくなったと言います。
マリーヌ・ルペン氏は父親のジャン=マリ・ルペン氏に比べると言い回しこそ柔らかくなっていますが、思想的な本質は変わりません。フランスをキリスト教国と位置づけ、イスラム教徒にはキリスト教文化のフランスの伝統を尊重せよ、と唱えています。ルペン氏が率いるRN(Rassemblement national:国民集合)はフランスが欧州連合に加盟し、グローバリゼーションが進展するのと軌を一にして勢力を急速に拡大してきました。この間、格差が拡大し、貧困が増えてきたのは日本と同じです。フランスのルイ16世はフランス革命で断頭台の露と消えましたが、スペインにブルボン王家の子孫にあたるルイ20世(Louis XX)が存在すると聞きます。フランスには王党派が存在しており、フランス革命後も19世紀に王政復古を一度成し遂げていますから、「王位継承者」とされるルイ20世(アンジュー公ルイ・アルフォンス・ド・ブルボン)が今後どうなるかも気になるところです。
極右政治家は、格差と貧困に苦しんでいる人々に国家の偉大さを語り、国民であることの誇りを語りかけることで支持を拡大します。国家の偉大さ以外には、内面の個的な価値観を持つことができない大量の人々が必要です。ですから、たとえ勢力を伸ばしたり、政権を奪ったりしたとしても、いったん格差と貧困が解消されてしまったら、極右勢力を拡大する培養土がなくなってしまいますから、そのようなことは政治の力学から言って期待できないと思います。この都知事選の最中に中国が国家安全法を制定して香港の一国二制度を形骸化したことは、小池都知事への思わぬボーナスになったと思います。さらにロシアが改憲したため、北方領土交渉が永久に凍結したというニュースもでしょう。北朝鮮による拉致被害者の父、横田滋氏の死も先月のことでした。ナショナリストの政治家としては限界の見えた安倍首相に代わる、原爆保有も辞さず周辺国と戦ってくれそうなコワモテの政治家を都民が選んだのだと思います。
※Presidentielle 2022 : desormais, Le Pen peut gagner
https://www.marianne.net/debattons/billets/presidentielle-2022-desormais-le-pen-peut-gagner?
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〔opinion9909:200706〕
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