BLMの白人参加者、覚悟のほどは?
- 2020年 7月 18日
- 評論・紹介・意見
- 藤澤豊
アフリカ系アメリカ人ジョージ・フロイド(George Floyd)さんが白人警官に抑えられて窒息死した。これをきっかけに、人種差別に反対する運動BLM (Black Lives Matter)が全米を覆い尽くすかのように広がっていった。それがあっという間にヨーロッパにまで飛び火した。
あちこちのニュースサイトに掲載されているデモの動画には、アメリカでもヨーロッパでもアフリカ系の人たちに混じってかなりの数の白人が写っている。差別する側まで巻き込んだ大きな大衆運動になっているのがわかる。でも、その白人の人たち、自分たちに何が求められているのか、何をしなければならないのか、どこまで分かっているのか気になる。余計なお節介を承知で、「本当に覚悟はできているのか」と訊きたくなる。
黒人を差別し続けてきた白人としてwhite supremacy(白人優越主義)に反対するのはいいが、突き付けられているのは、アメリカに限ってみれば、四百年に渡って迫害され搾取され続けてきた人たちに対する思いやりでもなければ慈善でもないことに気がついているのか。何世代にも渡って、黒人を奴隷として使役し、解放後も社会的、経済的に底辺に押し込めることによって享受してきた特権、平たい言葉でいえば美味しい汁をすってきたのを全部吐き出して、黒人に無償提供して、社会的、経済的不利益を甘受することまで考えたことがあるのか。
差別する側にいると差別が当たり前になってしまって、余程の人でなければ、目の前に差別があること、そしてその差別から自分がどれほどいい目を見てきているのかに気がつかない。BLMの背景を知るために、ちょっと遠回りになるが、ベルギーの繁栄の基礎を概観してみる。
ベルギーは、面積三万平方キロ(九州より二割ほど小さい)、人口一千万人ちょっとの小国でしかない。ブラッセルもアントワープも歴史の重みを感じさせる華やかな街がだ、その街を築く富はどこから来たのか。一千万人が粉骨砕身、質素倹約につとめてドイツやフランスと肩を並べるまでになったわけじゃない。
Texoma’s homepage.comというニュースサイトに「As protests grow, Belgium faces its racist colonial past」と題する興味深い記事がある。
https://www.texomashomepage.com/news/as-protests-grow-belgium-faces-its-racist-colonial-past/
記事によると、六月一〇日、第二代国王レオポルド二世の騎乗像が落書きされ、右手は血を表すかように赤いペンキが塗られているのがみつかった。ざっと目を通すと、国王がどのようにしてベルギーをヨーロッパ列強とならぶ豊な国にし、EUの政治の中心であるベルギーの礎を作ったのかがわかる。
落書きと赤いペンキの背景がウィキペディアにも書いてある。こちらは日本語で分かり易い。記載の要点を転載する。
「初代ベルギー国王レオポルド1世の王太子として生まれ第2代ベルギー国王(在位:1865年 – 1909年)」
「即位前から植民地獲得に強い関心を持ち、他の列強の支配が及んでいないコンゴに目を付け、1884年のベルリン会議にてコンゴを私有地として統治することを列強から認められた(コンゴ自由国)」
「先住民を酷使して天然ゴムの生産増を図り、イギリスなどから先住民に対する残虐行為を批判され、1908年にはコンゴをベルギー国家へ委譲することを余儀なくされた(王の私領からベルギー植民地への転換)」
ヨーロッパ列強による植民地支配が当たり前の当時ですら、レオポルド二世のコンゴ掠奪には目を覆うものがあった。あまりの酷さにイギリスなどから批判されて国の植民地にしたが、当初の二十三年間はレオポルド二世の個人所有の領地だった。一九六〇年に独立するまでに、ゴム栽培や銅、金、ダイヤなどの鉱物資源をほしいままにして、一千万人以上を虐殺した。
ベルギーの繁栄の基礎をつくった賢王がコンゴからみれば、歴史上にもまれにみる掠奪者だった。よくある話でしかないが、ちょっと視線を変えると思わぬ類似性がみえてくる。レオポルド二世とベルギー人がアメリカ建国の父と呼ばれる偉人たちや白人に相当して、略奪され虐殺された人たちの末裔である今日のコンゴの人たちがアメリカの黒人に相当する。
レオポルド二世とベルギー人はコンゴを掠奪しただけではない。彼らの支配が社会常識となって、暴力と汚職が支配する、紛争の絶えないコンゴ共和国を残した。ここまでアメリカの黒人社会の貧困と暴力と疲弊に似ている。
BBCの記事がある。タイトルにある「squeeze」だけで何が書いてあるか想像がつく。
「Belgian wealth squeezed from Congo」
http://news.bbc.co.uk/2/hi/programmes/from_our_own_correspondent/1123933.stm
何がベルギーダイヤモンドだ、なにがベルギービールだ。コンゴの人たちにとってみれば、そんな略奪者の銅像なんかおったてやがって、ふざけんな――落書きや赤ペンキは人種差別に呻吟してきた人たちの怒りを現わしている。
レオポルド二世から続くコンゴ掠奪に対する批判が高まるなか、現国王フィリップがコンゴの独立記日(六月三〇日)に、コンゴ民主共和国大統領フェリックス・アントワーヌ・チセケディ宛に、遺憾の意を表した私信を送った。
フィリップの叔母マリア・エスメラルダ(Marie-Esméralda)はロンドンに居を構えた性差別や環境問題に関するジャーナリストらしいが、私信を知ってわざわざニュースサイト「Democracy Now」の七月九日の対談番組に出演した。そこで一私人としてではなく王族の一員として発言した。「Democracy Now」はアメリカの信頼のおける左翼ニュースサイト。
「Belgian Princess Condemns Her Family’s Brutal Colonial History in Congo & Calls for Reparations」
https://www.democracynow.org/2020/7/9/belgium_colonial_legacy_leopold_ii
「王族の一員として、コンゴの問題に関して責任を感じる。遺憾の意は始まりにすぎない。過去に対峙して新しい関係を作らなければならない」
「reparation(賠償と訳していいのか?)について話し合わなければならない。まずフェアトレードから始めたらどうだろう」
ちょっと待ってほしい、「遺憾の意じゃすまない」に続いて「賠償」がでてきて、分かってる人もいるのかと思ったら、なんのことはない出てきたのは「フェアトレード」。それじゃ、ただの慈善家ぶったお金持ちと何が違う。
「the REAL news network」の七月十三日付けの記事にコンゴの人たちの要求が書いてある。
The REAL news networkは左翼系の信頼のおけるアメリカのニュースサイト。
表題を見ただけで記事の内容の想像がつく。
「Congo Doesn’t Need An Apology, It Needs Justice And Reparations」
https://therealnews.com/columns/congo-doesnt-need-an-apology-it-needs-justice-and-reparations
「何がフェアトレードだ。EUやNATOの本部でございますって言う前に、盗んだものを返せ」
「俺たちがあんたらがくる前と同じ状態のままで、あんたらが近代社会へと発展したわけじゃない。お前たちに盗まれ殺された分、俺たちが沈んで、俺たちから盗んだものでお前たちが今日の繁栄、豊さを享受してる。分かってんのか」
ベルギーとコンゴの関係がそのままアメリカの人種差別や白人優越主義に生き写しになっている。地球の外にでないと地球は見えない。毎日の生活からはその生活が見えているようで見えていないことが多い。アメリカで幸か不幸か差別する側に生れてしまった人たち、自分たちのありようを外から見ようとでもしないかぎり、見なければならないものが見えないのではないか。そんなことをしなくても、しっかり見える人もいると思うが、大勢ではないだろう。BLM運動に参加している白人たちの理解というのか覚悟がいかほどのものなにか気になる。もう慈悲や哀れみでもなければ同情や連帯なんて甘っちょろいことではないこと分かってんのか。
奴隷制から人種差別、そこから生まれる経済格差……に対する補償といっても、誰もどこもできやしないし、しっこないだろうと思っていた。ところが「THE Root」が七月十五日付けで、驚くニュースを送ってきた。
「A Liberal North Carolina Town Has Unanimously Voted to Give Its Black Residents Reparations」
https://www.theroot.com/a-liberal-north-carolina-town-has-unanimously-voted-to-1844389058
ノースカロライナ州のアシュビル市議会が、長年にわたる黒人差別に対する補償として、黒人居住地区の再開発や黒人企業に優先的に財政資金を充当することを、歴史的にもまれな全会一致で十四日夜決議した。一時金の支給ではなく、時間をかけて経済格差、福祉や教育格差を解消する政策を進めていくという。
郊外も含めれば四十万を超えるが、アシュビル市じたいは人口九万人の一地方都市でしかない。長い歴史とリベラルな街として知られているが、人種差別が色濃く残っているノースカロライナ州で歴史的な補償に踏み切った意味は大きい。
驚くことに、アシュビル市の人口構成は、白人が八十三パーセントを占め、黒人は十二パーセントにすぎない。
<人種差別の象徴の撤去>
南北戦争時の南軍の指揮官や、南部の名士、奴隷解放に反対した人たちの銅像の撤去、軍事基地の名称、地名や学校の名前を変える作業が進んでいる。
その先には紙幣の肖像換えが控えているような気がしてならない。
特に問題とされているのは、初代大統領ジョージ・ワシントンと七代大統領アンドリュー・ジャクソンの二人。
ワシントンは317人、ジャクソンは200人の奴隷の所有者だった。
<ショッキングなニュース>
「Africa Nigeria’s Slave Descendants Hope Race Protests Help End Discrimination」
https://allafrica.com/stories/202007010015.html?aa_source=nwsltr-latest-en
ナイジェリアの宗主国イギリスは、二十世紀初頭に奴隷制を廃止し、四十年代後半から五十年代初頭にかけて奴隷制度は根絶された。ナイジェリアでも制度は廃止されたが、奴隷の子孫は今でも奴隷階級として差別され続けている。自由人として生まれた人たちとの結婚は禁止されている。そこには人種による差別ではなく社会階級としての差別がある。植民地支配も含めて、日本人にとっても他人ごとではない。
ナイジェリアからアメリカに運ばれた人たちは、アメリカに着いて奴隷とされたのではなく、母国ナイジェリアで既に奴隷という身分に押し込められた人たちで、ナイジェリアに奴隷制度があった、そしてその歴史は今でも尾をひいている。
もし、アフリカ系アメリカ人が自身のルーツを求めてナイジェリアに戻って、自身のルーツである人たちから奴隷の子孫であると差別されたら、ショックには計り知れないものがるだろう。
蛇足になるが、アメリカで奴隷制度が廃止されたとき、ナイジェリアなどアフリカの奴隷輸出大国が外貨獲得の手段が消滅するとして反対したことを付け加えておく。
Private homepage “My commonsense” (http://mycommonsense.ninja-web.net/)にアップした拙稿に加筆、編集
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion9945:200718〕
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