「与党合意」と、市民連合の「野党共闘の呼びかけ」と ー 是非とも、比較検討を。
- 2020年 9月 24日
- 評論・紹介・意見
- 澤藤統一郎選挙協力
(2020年9月23日)
スガ新政権抱負のスカスカぶりに、暗澹たる思いである。下記の9月16日総理就任記者会見を読み直して、改めてそう思う。
コロナ対策も、経済の建て直しも、外交方針も、アベ内閣が失った国民からの信頼回復も、なんともスカスカでしかない。新政権の政策といえば、「省庁の縦割り是正」と「ケイタイ料金の値下げ」くらいではないか。これが総理大臣会見の目玉のテーマであることがさびしい。ケイタイ料金問題など、所轄の大臣か局長のいうべきことではないか。
https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/statement/2020/0916kaiken.html
9月14日自民党の総裁となったスガは、翌15日公明党代表の山口那津男との間で、自公新政権合意文書を作成している。
産経が、「『拉致』消える コロナ、デジタル化前面」と見出しを打って、大要次のとおり、報道している。
9項目にわたる合意の中で新型コロナウイルス対策に関する項目を新設し、ワクチン・治療薬の確保などを通じ「国民の命と健康を守る」と記した。一方、前回衆院選後の平成29年10月の政権合意に明記した「拉致問題」の解決との文言は盛り込まなかった。
菅氏の「デジタル庁」構想を踏まえ「デジタル化の推進をはじめ、日本経済社会の脆弱(ぜいじゃく)性を克服する」とも盛り込んだ。憲法改正は前回と同様に「改憲に向けた国民的議論を深め、合意形成に努める」とした。
自民党と公明党の与党合意の全文は以下の通り。念のためだが、これが全文である。
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自由民主党、公明党は、新政権発足に当たり、これまでの安倍政権における政権合意(平成二十九年十月二十三日)を継承し、国民のための政策をさらに前へ進めることを確認する。
現在、わが国は、新型コロナウイルス感染症と、これによる経済や国民生活への影響が広範に及び、未曽有の国難に直面している。自民・公明両党は、この国難を乗り越え、その先に新たな繁栄の道筋を切り拓くため、以下の政策を強力に推進するものとする。
一、新型コロナウイルス感染症(以下、「新型コロナ」)から国民の命と健康を守るため、ワクチン・治療薬の確保をはじめ、医療機関への支援にも全力を挙げる。
二、新型コロナの影響から、産業と雇用を守り、成長軌道に回復させるとともに、国民生活、中小企業、地方などの“安心“を取り戻す。
三、デジタル化の推進をはじめ、日本経済社会の脆弱性を克服する。
四、全ての人が安心して暮らせる全世代型社会保障の構築を急ぎ、とりわけ深刻な少子化を克服するための取組みを強化する。
五、全国津々浦々まで元気にする地方創生を成し遂げる。
六、防災・減災、国土強靱化を強力に推し進めることにより、災害に強い国づくりを進めるとともに、東日本大震災をはじめ、近年の災害からの復旧・復興に全力で取り組む。
七、気候変動対策や環境・エネルギーに関する課題への取組みを加速化させ、エネルギーの安定供給と、持続可能で強靱な脱炭素社会の構築に努める。
八、平和外交と防衛力強化により、国民の生命と財産を守る。
九、衆議院・参議院の憲法審査会の審議を促進することにより、憲法改正に向けた国民的議論を深め、合意形成に努める。
令和二年九月十五日
自由民主党総裁 菅 義偉
公明党代表 山口那津男
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他方、野党側である。9月19日、「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」は19日、「立憲野党の政策に対する市民連合の要望書 いのちと人間の尊厳を守る『選択肢』の提示を」を発表した。「立憲野党」と、これを支持する人々への呼びかけとなっている。
https://shiminrengo.com/archives/3171
同要望書は、前書きがあり、4本の柱・15項目からなっている。
4本の柱とは、以下のとおり。
(1)憲法に基づく政治と主権者に奉仕する政府の確立
(2)生命、生活を尊重する社会経済システムの構築
(3)地球的課題を解決する新たな社会経済システムの創造
(4)世界の中で生きる平和国家日本の道を再確認する
以下、まず、前書きと15項目の表題だけを紹介する。
はじめに
私たち、安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合は、2015年の安保法制反対運動以来、憲法に基づく政治を求めてきた。しかし、法と道理をわきまえない安倍晋三政権およびその継続を公称する菅義偉政権の下で新型コロナウイルスの蔓延を迎える状況となった。人間の尊厳を顧みず、為政者の自己正当化のために情報を隠蔽してきた安倍・菅政権の対策が的外れであることは、必然の帰結である。我々は今までの運動の延長線上で、法と道理に基づいて人間の生命と尊厳を守る政治を確立するために運動を深化させなければならない。そして自民党政権に代わり、新しい社会構想を携えた野党による政権交代を求めていきたい。
政治の最大の使命は、いのちと暮らしの選別を許さないことにある。新型コロナウイルスの危機のさなか、医療、介護、福祉など「この人たちがいないと社会は回らない」エッセンシャルワーカーたちが注目を浴びた。と同時に、このエッセンシャルワーカーたちが、この30年間の「小さな政府」や「柔軟化」を旗印とする雇用破壊によって、過酷な労働を強いられてきたことも明らかになった。彼ら・彼女らの過酷な状況は、一部の企業に富を集中する一方で働く人々に貧困と格差を押し付けてきたこれまでの経済システムの象徴である。個々の人間の尊厳、およびジェンダー平等はじめ互いの平等という基本的価値観の上に立ち、このシステムを転換し、社会を支える人々の尊厳を守ること、さらにすべての働く人々が人間らしい生活を保障されることを、新しい社会像の根幹に据えなければならない。
次期総選挙は、自民党政権の失政を追及する機会であると同時に、いのちと暮らしを軸に据えた新しい社会像についての国民的な合意、いわば新たな社会契約を結ぶ機会となる。野党各党には、この歴史的な転換を進めるべく、以下の政策について我々と合意し、国民に対して選択肢を提示し、その実現のために尽力するよう要望する。
Ⅰ 憲法に基づく政治と主権者に奉仕する政府の確立
1.立憲主義の再構築
2.民主主義の再生
3.透明性のある公正な政府の確立
Ⅱ 生命、生活を尊重する社会経済システムの構築
4.利益追求・効率至上主義(新自由主義)の経済からの転換
5.自己責任社会から責任ある政府のもとで支えあう社会への転換
6.いのちを最優先する政策の実現
7.週40時間働けば人間らしい生活ができる社会の実現
8.子ども・教育予算の大胆な充実
Ⅲ 地球的課題を解決する新たな社会経済システムの創造
9.ジェンダー平等に基づく誰もが尊重される社会の実現
10.分散ネットワーク型の産業構造と多様な地域社会の創造
11.原発のない社会と自然エネルギーによるグリーンリカバリー
12. 持続可能な農林水産業の支援
Ⅳ 世界の中で生きる平和国家日本の道を再確認する
13. 平和国家として国際協調体制を積極的に推進し、実効性ある国際秩序の構築をめざす。
14. 沖縄県民の尊厳の尊重
15. 東アジアの共生、平和、非核化
そして、以下に各項目の全文を掲載する。時宜を得ての体系性、全面性、現実性が明らかである。与党の自公合意の内容と比較して、その政策としての優位性は余りに明らかではないか。
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立憲野党の政策に対する市民連合の要望書 ー いのちと人間の尊厳を守る「選択肢」の提示を
Ⅰ 憲法に基づく政治と主権者に奉仕する政府の確立
1.立憲主義の再構築
公正で多様性にもとづく新しい社会の建設にむけ、立憲主義を再構築する。安倍政権が進めた安保法制、特定秘密保護法、共謀罪などの、違憲の疑いの濃い法律を廃止する。自民党が進めようとしてきた憲法「改定」とりわけ第9条「改定」に反対し、改憲発議そのものをさせないために全力を尽くす。日本国憲法の理念を社会のすみずみにいきわたらせ、公正で多様な社会を求める市民、企業、団体との連携をすすめ、安倍政権で失われた民主主義の回復に取り組んでいく。
2.民主主義の再生
主権者が、自分たちの生きる公共の場をどのように作り出すか自由闊達に議論し、決めていくという民主主義を取り戻す。そのために、国会の行政監視機能の強化、選挙制度の見直し、市民参加の制度の拡充、学校教育における自由な主権者教育を実現する。また、地方自治体の自由、自立を確保するために、中央省庁による無用な制度いじり、自治体の創意工夫を妨げる統制、操作、誘導を排し、一般財源を拡充する。
3.透明性のある公正な政府の確立
安倍政権下ですすんだ官邸主導体制の下で、権力の濫用、行政の歪みが深刻化している。政府与党による税金の濫用や虚偽、隠蔽により生じた市民の政府への不信の高まりが、効果的な新型コロナウイルス対策を妨げている。透明性のある公平な行政の理念のもと、科学的知見と事実に基づく合理的な政策決定を確立し、政策への信頼を取り戻すことが求められている。内閣人事局の改廃を含め、官僚人事のあり方を徹底的に再検討する。一般公務員の労働環境を改善し、意欲と誇りをもって市民に奉仕できる体制を確立する。国民の知る権利と報道の自由を保障するために、メディア法制のあり方も見直し、政府に対する監視機能を強化する。
Ⅱ 生命、生活を尊重する社会経済システムの構築
4.利益追求・効率至上主義(新自由主義)の経済からの転換
新型コロナウイルスの危機は、医療、教育などの公共サービスを金もうけの道具にしてきた従来の改革の失敗を明らかにした。医療・公衆衛生体制、労働法制、教育政策等への市場原理の導入により、社会的な危機が市民の生活の危機に直結する事態が生じている。信頼できる有能・有効な政府を求める世論の要求は高まっている。利益・効率至上主義を脱却し、国民の暮らしと安全を守る新しい政治を目指していく。
5.自己責任社会から責任ある政府のもとで支えあう社会への転換
小さな政府路線と裏腹の自己責任の呪縛を解き、責任ある政府のもとで支えあう社会をめざす。新しい社会をつくりあげるために、財政と社会保障制度の再分配機能を強化する。消費税負担の軽減を含めた、所得、資産、法人、消費の各分野における総合的な税制の公平化を実現し、社会保険料負担と合わせた低所得層への負担軽減、富裕層と大企業に対する負担の強化を図る。貧困対策においては、現金・現物の給付の強化と負担の軽減を組み合わせた実効的対策を展開し、格差のない社会をめざす。
6.いのちを最優先する政策の実現
新型コロナウイルスとそれに伴う経済危機による格差の拡大を阻止するための政策が求められている。医療・公衆衛生体制に国がしっかりと責任をもち、だれでも平等に検査・診療が受けられる体制づくりをめざす。感染対策に伴う社会経済活動の規制が必要な場合には、労働者、企業への補償に最優先の予算措置を講じ、公平性、透明性、迅速性を徹底する。
7.週40時間働けば人間らしい生活ができる社会の実現
先進国の中で唯一日本だけが実質賃金が低下している現状を是正するために、中小企業対策を充実させながら、最低賃金「1500円」をめざす。世帯単位ではなく個人を前提に税制、社会保障制度、雇用法制の全面的な見直しを図り、働きたい人が自由に働ける社会を実現する。そのために、配偶者控除、第3号被保険者などを見直す。また、これからの家族を形成しようとする若い人々が安心して生活できるように公営住宅を拡充する。
8.子ども・教育予算の大胆な充実
出産・子育て費用の公費負担を抜本的に拡充する。保育の充実を図り、待機児童をなくし、安心して働ける社会を実現する。教育予算を拡充し、ゆとりある小中高等学校の学級定員を実現する。教員や保育士が安心して働けるよう、待遇改善をすすめる。教育を受ける機会の平等を保障するために、大学、高専、専門学校に対する給付型奨学金を創設するとともに、大学、研究機関における常勤の雇用を増やす。学問の自由の理念の下、研究の自立性を尊重するとともに、政策形成に学問的成果を的確に反映させる。
Ⅲ 地球的課題を解決する新たな社会経済システムの創造
9.ジェンダー平等に基づく誰もが尊重される社会の実現
雇用、賃金、就学における性差別を撤廃し、選択的夫婦別姓を実現し、すべての人が社会、経済活動に生き生きと参加する当然の権利を保障する。政治の世界では、民主主義を徹底するために議員間男女同数化(パリテ)を実現する。人種的、民族的差別撤廃措置を推進する。LGBTsに対する差別解消施策を推進する。これらの政策を通して、日本社会、経済の閉塞をもたらしていた政治、経済における男性優位の画一主義を打破する。
10.分散ネットワーク型の産業構造と多様な地域社会の創造
エネルギー政策の転換を高等教育への投資と結びつけ、多様な産業の創造を支援する。地域における保育、教育、医療サービスの拡充により地域社会の持続可能性を発展させる。災害対策、感染対策、避難施設の整備に国が責任をもつ体制を確立する。中小企業やソーシャルビジネスの振興、公共交通の確保、人口減少でも安心して暮らせる地域づくりを後押しする政策を展開する。
11.原発のない社会と自然エネルギーによるグリーンリカバリー
地球環境の危機を直視し、温暖化対策の先頭に立ち、脱炭素化を推進する。2050年までに再生可能エネルギー100%を実現する。福島第一原発事故の検証、実効性のある避難計画の策定をすすめる。地元合意なき原発再稼働は一切認めない。再生可能エネルギーを中心とした新しいエネルギー政策の確立と地域社会再生により、原発のない分散型経済システムをつくりあげる。
12. 持続可能な農林水産業の支援
農林水産業については、単純な市場原理に任せるのではなく、社会共通資本を守るという観点から、農家戸別補償の復活、林業に対する環境税による支援、水産資源の公的管理と保護を進め、地域における雇用を守り、食を中核とした新たな産業の育成を図る。また、カロリーベースの食料自給率について50%をめどに引き上げる。
Ⅳ 世界の中で生きる平和国家日本の道を再確認する
13. 平和国家として国際協調体制を積極的に推進し、実効性ある国際秩序の構築をめざす。
平和憲法の理念に照らし、「国民のいのちと暮らしを守る」、「人間の安全保障」の観点にもとづく平和国家を創造し、WHOをはじめとする国際機関との連携を重視し、医療・公衆衛生、地球環境、平和構築にかかる国際的なルールづくりに貢献していく。核兵器のない世界を実現するため、「核兵器禁止条約」を直ちに批准する。国際社会の現実に基づき、「敵基地攻撃能力」等の単なる軍備の増強に依存することのない、包括的で多角的な外交・安全保障政策を構築する。自衛隊の災害対策活動への国民的な期待の高まりをうけ、防衛予算、防衛装備のあり方に大胆な転換を図る。
14. 沖縄県民の尊厳の尊重
沖縄県名護市辺野古における新基地建設を直ちに中止し、環境の回復を行う。普天間基地の早期返還を実現し、撤去を進める。日米地位協定を改定し、沖縄県民の尊厳と人権を守る。さらに従来の振興体制を見直して沖縄県の自治の強化をめざす。
15. 東アジアの共生、平和、非核化
東アジアにおける予防外交や信頼醸成措置を含む協調的安全保障政策を進め、非核化に向け尽力する。東アジア共生の鍵となる日韓関係を修復し、医療、環境、エネルギーなどの課題に共同で対処する。中国とは、日中平和友好条約の精神に基づき、東アジアの平和の維持のために地道な対話を続ける。日朝平壌宣言に基づき北朝鮮との国交正常化、拉致問題解決、核・ミサイル開発阻止向けた多国間対話を再開する。
以 上
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2020.9.23より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=15695
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion10138:200924〕
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