故意にわからないように
- 2020年 11月 11日
- 評論・紹介・意見
- 藤澤豊
文字だけのホームページも素っ気ないし、本の表紙にもなにか欲しい。フリーウェアのお絵描きソフトで簡単なイラストぐらいと思ったが、描きはじめて直ぐやめた。絵心もないところに、使い慣れないソフトウェアで疲れた。なにかベースになるものがあれば、なんとかなるんじゃないかと、Webで使えそうな画像と写真を探した。これはいい。この写真ならと思ったがラインセス料がかかる。個人利用なら無料と書いているサイトもあるが、どこまでなら個人利用でどこからが商用利用になるのかわからない。判断基準を問い合わせるもの面倒くさい。
個人のプライベートのホームページでしかないにしても、無料サーバーだから何か宣伝が入ってくる可能性がある。そんな宣伝で商用利用と言われるのも怖い。それがホームページを開設する前ならまだしも、オープンしてからだったら、いくら請求されるかわかったもんじゃない。電子ブックにしても出版したあとで変な請求がきたらたまらない。
あちこち見ていったら、うん、これはなんとしても使いたいという写真が見つかった。英語のサイトで利用規定が事細かに書いてあった。聞いたこともない法律用語が並んでいるわけでもない。平易な文章ですっと読める。ただ、いくら読んでも有料なのか無料なのか分からない。
写真は使いたいが、危なくて使えない。ホームページのurlを知り合いアメリカ人に伝えて見てもらった。公認会計士で、込み入った文章にはなれている。予想していた通りの返事だった。
「故意にわからない文章にしている。絶対使っちゃいけない。法外な使用料を請求されかねない」
何をいっているのか故意にわからないようしているとしか思えない文章をあらためて見ていて、昔展示会場で引っかかった詐欺を思い出した。いかにも業界コンサルの風を装って声をかけていた。アンケートかなにかなのだろう。さっきはあっちのホールにいたのに場所を変えたのか、真正面から出会ってしまった。簡単なアンケートだからと言われて、まあいいやとレターサイズのフォームを埋めていった。出展者か来場者か、会社の所在地や業種……、どこでも聞かれることがならんでいた。なんのアンケートなのかもわからずに終わった。一年後の展示会の直前に千ドルの請求書が届いた。
なんの請求か問い合わせたら、アンケート用紙の一番下の注意書きのような小さな文字で、どうとでも読める市場調査の契約が紛れ込ませてあった。ふざけるなと思ってWebでみたら、オーストリアのコンサル会社だった。体裁のいいホームぺージだが、ありきたりの調子のいいことが書いてあるだけで、中身は何もない。コンサル会社を装った詐欺だ。
先月(十月)聞いたこともないコンサル会社からメールが届いた。なにかと思ってみてみれば、電話でコンサルした料金二五〇ドル払えと書いてある。コンサル会社にコンサルして金をもらったことはあるが、コンサル会社にコンサルしてもらったことはない。どうせろくでもない会社だろうと思いながらWebで調べたら、アメリカの会社で日本支社まで載っていた。ホームページの体裁だけは一人前の詐欺としか考えられない。なにかの間違いだろうと電話すれば、電話番号まで抜ける。どうしたものかとメールを読んでいったら、小さな文字でとってつけたようにReferenceとしてGEの事業部名が書かれていた。そんなもの十年近く前の話で、古文書のような従業員名簿が転売されたのだろう。
GEという会社は事業の売り買いが日常茶飯事で、人の出入りが激しい。だらしのない会社(少なくとも日本で見るかぎりでは)で、社員名簿が多分何度も流出していた。名簿が抜けるか転売されるたびに、新手のコンサルやら不動産屋や投資会社なのか、よくわからないところからメールや電話が入ってきて往生していた。要件を言ったら直ぐ断られるから、インチキ稼業のやつらに限って、どうでもいい口上をだらだら続けて、いくら促しても要件には入らない。相手にしている時間が惜しいからとつっけんどんに断ると、嫌がらせの電話をかけてくるのがいる。あまりに頻繁で仕事にならない。同僚の一人は、電話番号を換えざるをえなくなった。
二五〇ドルの架空請求、無視してしまってもかまわないが、次は何を言ってくるのか気になって返信メールを送った。
「電話でコンサルを受けたことはない。コンサルをしたというEvidenceをつけて、Invoiceを発行しろ」
何も言ってこない。メールアドレスが使用されていることを知られてしまうが、迷惑メールは毎日のことで、そんなものが増えたところで驚きゃしない。
なかには立派なコンサルもいるのだろうが、この手の詐欺(紛い)でしかないインチキ商売も多い。経験も限られているし、何をもってして詐欺というのか線引きがむずかしいが、こっちのほうが多いんじゃないかと思っている。
コンサルタントといえば聞こえはいいかもしれないが、クライアントの業界の外に身をおいてクライアントの業界の景色を見てるだけだから、業界内の具体的な詳しいことまではわからない。業界の中にいる、あるいはいたことのある人(コンサル)なら、特定の限られた領域については詳しくても、その業界の上流や下流、その先の関連業界まで鳥瞰し得る人はなかなかいない。当事者ではない弱みと当事者すぎる近視眼を越えられるのか?越えられるという人もいるだろうが、大勢ではないどころか非常に稀だろう。
詐欺や詐欺もどきの連中は、利権の采配で禄を食んでいる政治屋でもそこまで曲解はとためらうことでも平気でやってくる。喰うのに困っているのだろうが、いかにも歴史のありそうな驚くほど通りのいい社名(いい例が豊田商事)で、最初に聞いたときはえっと思うが、ゴタクを聞いていると名前負けの見本じゃないかと要らぬ心配までしてしまう。
似たようなことはどこにでもある。携帯電話の割引だか特典だかの口上を聞かされて、下手をするとそんな機能の契約なんかしたことすらわからないものが乗っている。あまりにごちゃごちゃしすぎて、あれこれ言ってる店員ですら、どのプランの基本契約にどのオプション類を組み合わせたら、自分たちに(客にではない)とって一番得なのか、どこまで分かっているのか怪しいものだと思っている。馴れ馴れしい長口上は聞いているだけで疲れる。ああだのこうだのとゴタクをならべてないで、コンピュータのアプリケーションでいくつものケースを表示して比較できるようにしたらいいのにと、余計なお節介のアドバイスまでしたくなる。もっとも、そんなことをしたら仕事がなくなるのかもしれないが。
そもそも勝手につけたサービス名なんか聞かされたって、それがなんだかピンとくる人のほうが少ないだろうし、口頭の説明は記録に残らない。後でいらない機能に気がついて外してもらおうとしたら、二年契約で違約金が発生するという。おいおい、詐欺に近いんじゃないかと言ったら、名誉棄損で訴えられるのか。
拙い経験則を言わせていただければ、口上が長ければ長いほど、そしてなんだか分からない名前がいくつもならんでいたら、まずろくなもんじゃないと思った方がいい。巷の口上は垂れている人にとって得にはなっても、聞かされる人に得なことはない。
人を騙すより騙される側でありたいとは思うが、「信じる者は救われる」より「信じる者は救われない」が世の常のような気がする。
2020/10/18
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion10275:201111〕
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