菅首相のメディアと学会統制術
- 2020年 11月 14日
- 時代をみる
- スガファシズム言論統制隈井孝雄
安倍首相(当時)退陣表明のあとは菅義偉官房長官(当時)が引き継ぐと聞いた8月下旬、私は日本の政治は更に悪い方向に進むという予感を持った。案の定就任早々赤旗のスクープ「菅首相、学術会議人事に介入」(9/29)によって、政治の闇が深まったことが明らかになった。
学術研究者への新たな言論統制
菅義偉首相は就任早々学術会議会員候補6名の任命を拒否した。安保法制について、公の場で反対意見を表明した学者らが含まれている。学問の自由を奪うものだとして226の学会が11月6日、共同声明を発した。
学問の分野での言論統制、思想統制は大きな問題であり、安部前政権も踏み込まなかった新たな分野に菅政権が乗り出したものだ。政権批判する学者6名を学術会議名簿から外したことはファシズムではないかとわたしは思う。
思い起こす「クロ現、国谷、菅対決」
私は6年前の2014年7月3日「クローズアップ現代」での集団的自衛権をめぐる映像を思い起こした。「他国が攻撃を受けた際、日本が攻撃されていなくても武力を行使できる」ことが閣議決定された。番組には菅官房長官(当時)が出演、国谷裕子キャスターは「政府は国民の懸念をどう払しょくするのか」と再三問いただし、納得が得られぬまま菅氏の発言中に番組が終了した。菅氏は激怒、同行した秘書官がNHKの番組担当者に謝罪をもとめた上「責任を取ってもらうと」と発言した。「官邸がNHKを土下座させた一 部始終」との記事(7/11/’14)を週刊誌フライデーが掲載した。
このことが国谷キャスター退任(16年1月)の主因となった。
古賀、岸井、古館相次ぐキャスター退陣にも菅氏の影
「報道ステーション」の古賀茂明コメンテーターが番組で「I’m not ABE」と書いたフリップで安倍政権を批判し降板となった(15年3月27日)際も、菅氏がテレ朝に対応を求めた。
一連の安保法制を批判した「ニュース23」(TBS)の岸井成格キャスター、報道ステーション(テレ朝)の古館伊知郎キャスターらの退任(いづれも16年3月)の舞台裏でも菅氏の関与あったとみられる。放送免許を更新しないとの脅しが使われた。
最近では東京新聞、望月衣塑子記者の記者クラブ排除画策もあった。菅首相就任後、正規の会見は少なく、グループインタビュー(10/5,10/9)などの閉鎖型面会、オフレコ懇談が多用されている。
テレビ番組書き起こしで、メディア発言監視
菅首相は官房長官時、メディアの監視、恫喝に力を入れた。官邸に複数の担当官を配備、報道番組、ワイド番組を連日書き起こしている。「スッキリ」(日テレ)、「羽鳥モーニングショー」(テレ朝)、「とくダネ」(フジ)、「ミヤネ屋」(日テレ)、「ひるおび」(TBS)、「報道ステーション」(テレ朝)、「News23」(TBS)などが対象番組だ。報道系だけではなく、エンタメ系の「アッコにおまかせ」(TBS日曜11:15)での和田アキ子とIKKOの「コロナ」についてのやり取りも書き起こされていた。これらの事実は「週刊ポスト」(6/5号)に詳細にわたって掲載されて明らかになった。
私が見た書き起こしの量は40日で922枚(A4判)あった。さらに桜を見る会だけでも、書き起こしは255枚にのぼると週刊ポストが新たに報じた(11/6,13日号)。
こうした記事をもとに、政府からの修正見解を送り付ける。またSNS上でキャスターらの個人名を特定して批判したケースもある。明らかな検閲行為の横行だ。
外務省、厚労省も内外メディアの批判進める
2020年度外務省は海外メディアの批判チェックに24億円の予算を組んだ。日本政府のコロナ対策が諸外国のメディアからさまざまな批判を受けた現状を変えるためだ。主要20ヵ国の報道メディアやSNS上の政府批判をチェックするためAI(人工頭脳)などを活用して、”正しい情報を発信する”という。
厚生労働省も、国内の報道メディア、SNS上の「ネガティブ情報を払しょく」、「正しい情報発信を行う」ための予算35億円を組んだ。
テレビの体質改善が半ば成功したと考える菅首相は、今度は学術会議の任命拒否で学会全体の体質改善をはかるのではないか。日本政治は限りなく危険な方向に向かっている。(すみいたかお)
写真、1.集団的自衛権で菅官房長官と対決する国谷キャスター
(2014.7.3 NHKクローズアップ現代)
2.古賀コメンテーターがI am not Abeのフリップかかげる
(2015.3.27テレ朝報道ステーション)
3.首相官邸テレビ監視記録文書、桜を見る会だけで255枚と報じる
(週刊ポスト、2020.11/6,13日号
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〔eye4784:201114〕
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