人工mRNAでコロナウィルスワクチン
- 2020年 11月 18日
- 評論・紹介・意見
- 藤澤豊
- 細胞核内でDNAが転写されてmRNA(メッセンジャーRNA)がつくられる。
- mRNAは細胞核(城)を出て、町にあるタンパク質合成工場のリボソーム(細胞内にある小器官)に運ばれる。そこでmRNAの四塩基(A、G、C、U)が、タンパク質の二〇塩基(二〇種類のアミノ酸)に翻訳される。
大筋では間違っていないと思うが、所詮素人の聞きかじり、とんでもない勘違いをしている可能性もある。それでも知り得たことをまとめておくのも無駄ではないだろう。できればご一読いただき、間違いをご指摘いただけないかという勝手な思いがある。
遺伝子組換は異種生物のDNAとの入れ替えだが、入れ替えは大雑把で予期しなかったDNAの置き換えも起きてしまう。しょうがないから、いろいろ出てきた変異種からこれはと思うものを選別(品種改良の際の人為的な選択と同じ)することになる。そんなやり方では思わぬ変異種もでてきて危険だし、第一効率というのか生産性が悪すぎる。そこでというわけでもないが、DNAの特定の個所を一塩基単位でかなり正確に置き換える遺伝子編集技術が開発された。さしたる科学的知識がなくても使えるツールとしてCRISPR/cas9が二〇一二年に登場した。その功績を評価されて、CRISPR/cas9を開発した科学者が今年のノーベル賞を受賞した。
新型コロナウィルスワクチンの開発のニュースのなかにmRNAを使ってというのを見て、あれ、まさかと思っていた。そこに、ファイザーが効果率九十パーセントのワクチンの開発に成功したというニュースが入ってきた。何日もしないうちにModerna社のワクチンのニュースで、こっちは効果率九四・五パーセントだという。どちらもmRNAの人工合成技術を使って開発されたもので、バイオサインスが実用域でここまで進歩していたのかと腰を抜かすほど驚いた。
遺伝子組換も遺伝子編集も自然界に存在する生物のDNAを人間の手で変更する技術で、生態系におよぼす影響や健康や人権の視点から規制が強く求められている。それというのも遺伝子編集のすぐ先には、受精卵の段階で遺伝子を操作して、親(国?)が希望する外見や運動能力や知能を持ったデザイナーベビーの可能性があるからで、昨年の六月には中国の研究者が双子のデザイナーベビーを誕生させたと発表して大騒ぎになった。その後の追跡ニュースが入ってこないので真偽のほどは分からないが、誕生させたのは事実だろうと言われている。
NDAの変更とmRNAの人工合成とでは、対象が次世代なのか現世代なのかの違いがある。遺伝子編集で遺伝病を防ぐという話を聞くが、それは次世代への遺伝子に手を加えることで、現世代の遺伝病対策にはほとんど使いようがない。
DNAの組換や編集は次世代のDNAに手を加えることだが、mRNAの人工合成は現世代のDNAのコピーに相当するものを人工的に作ることで現世代の生理活動に遺伝子レベルの変更を与えることを目的としている。
遺伝子は、例えていうなら家の設計図のような情報を伝達する媒体でしかない。その設計図は二重らせんのDNAとして細胞核(城)内に保存されている。大事なDNAは城にしまっておいて、直接家の部品作りには使わない。どうするかというと、DNAをmRNAに写し取って、そこから部品―タンパク質を作る。実作業に原版(DNA)は使わないで、コピー(mRNA)を使うようなものと考えればいい。
その工程は大雑把に次のようになる。
mRNAはDNAと同じように塩基が並んだもので、mRNAの配列は転写元のDNAの配列と一ヶ所だけ違う。
DNAはアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)という4種類の塩基によって構成されている。
そのコピーに相当するmRNAはチミン(T)がウラシル(U)に置き換わっている。
このタンパク質が生物の身体のすべてを構成する部品になる。
ワクチンは、特定の病原体(ウィルスや細菌)の記憶ファイルを人為的に作って、その記憶ファイルに合致する病原体が感染しようとしたときに病原体を攻撃する仕組み――抗体を作ることを目的としている。
従来ワクチンの開発には二通りの方法が使われてきた。一つは病原体を生かしたまま弱毒化したもので生ワクチンと呼ばれる。病原体を何世代にもわたって培養して、接種しても発病することなく安全に抗体を作れるようになるまでには大量の変異種を作って実験の繰り返しになる。もう一つは不活性化ワクチンで、熱や化学物質によって殺した病原体から作る。どちらの方法も時間と手間のかかる開発で、市場に出るまで五年から十五年かかるといわれてきた。
莫大な投資と何年にもおよぶ研究開発も終わっていざ製造となると、これがまた手間暇かかる。インフルエンザワクチンの製造のために毎年五億個の鶏卵が使われていると言われている。
新型コロナウィルスの世界的な蔓延に一日も早くワクチンを開発する必要に迫られたこともあってだろうが、ファイザー社とアストラゼネカ社の二社はmRNAを人工合成して、そこからワクチンを作る方法を採用した。
アメリカのファイザー社はドイツのBioNTech社の、イギリスのアストラゼネカ社はアメリカのModerna社のmRNA合成技術を使っている。
ファイザーのニュースの数日後から、どういう訳かアストラゼネカ社ぬきでModerna社のワクチン開発成功のニュースが飛び交っている。
新型コロナウイルスのRNAは塩基にして約三万。ウィルスのRNAとしては大きいが、ヒトのDNAの塩基対(二重らせんだから対になる)約六〇億に較べれば簡単なもので、そんなもの直ぐに解析できる。解析できれば、どのようなタンパク質なら抗体になりえるのかを予想できる。細胞内のリボソームへのタンパク質の合成指示書はmRNA。ならばmRNAを人工合成すればいいじゃないかということになる。CRISPR/cas9の開発に至るまでにmRNAを合成する技術は出来上がっていた。
新型コロナウィルスの抗体(タンパク質)を作るmRNAを人工合成して接種すれば、人間の生理活動――細胞内にある小器官リボソームで新型コロナウィルに対する抗体が作り上げられる。鶏卵なんか一個もいらない。mRNAのワクチン、短時間で開発できるし、製造コストも従来のワクチン製造とは比べれることすら意味がないほど低い。
mRNA合成技術は、薬やワクチン開発のプラットフォームとなるだけでなく、さまざまなタンパク質や幹細胞さえもつくりだせると期待されている。
BioNTech社は癌に対する抗体を作るmRNAの研究をしていた。そこに新型コロナウィルスワクチンの市場が降って湧いてきたという経緯がある。mRNAの編集で抗体を作る研究はすでに三〇年以上前から進められてきた。
遺伝子組換も遺伝子編集も、人為的に改変されたDNAをmRNAにコピーして、そこから生まれ成長した動植物、例えば大豆やトウモロコシ、あるいは豚でも鶏でも食料として食べる。食べれば改変されたDNAが体内に入るが、そんなもの消化の過程で分解される。それが安全でないかもしれないというのであれば、人工合成したmRNAを接種して自らの細胞内で抗体を生成するのはもっと危険じゃないかということにならないか。
バイオサイエンスがここまで進んだと感動しきりだが、遺伝子(DNA)編集にはあれほど規制が叫ばれているのに、寡聞にしてmRNA人工合成に対する危惧の声は聞かない。新型コロナウィルスの脅威の前にはそんなもの気にしてられるかということなのかもしれないが、どうなってんだろう。
mRNAでも今までのやりかたでもいいから、一日も早くいいワクチンが欲しい。
p.s.
<ファイザーのワクチンは使えない>
ファイザーとモデルナ(Moderna)のワクチンの保存温度は下記の通り。
ファイザーのワクチンはマイナス70度で保管しなければならない。家庭や店舗や事務所で使われている冷蔵庫の冷凍室や冷凍庫でマイナス20度は可能だが、一般病院でマイナス70度の冷凍庫を用意するのは難しい。一言でいえば、ファイザーのワクチンは使えない。
「ファイザーのワクチン」
効果:90%
保存:マイナス70度
冷蔵庫保管期限:5日
二回接種
「モデルナ(Moderna)アストラゼネカのワクチン」
効果:94.5%
保存温度:マイナス20度(水疱瘡ワクチンと似たような保管温度)
2から8度で30日間保存可能
二回接種
2020/11/14
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion10293:201118〕
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