安倍晋三は、自らのフェイク投稿を削除せよ。
- 2020年 11月 29日
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- 右派・右翼朝日バッシング
(2020年11月28日)
安倍晋三の「桜疑惑」再燃は、11月24日読売朝刊のスクープ以来のこと。それまで、9月に体調不良で退任したはずの安倍晋三が、あちこちではしゃいだ不快発言を繰り返していた。その一つが、慰安婦問題判決にコメントした11月20日フェイスブック投稿。安倍晋三のなんたるかをよく物語っている。
本日(11月28日)10時0分配信の共同通信配信記事のリードを引用する。標題は、「安倍前首相がSNS投稿で”事実誤認” 慰安婦報道の最高裁判決で削除要求」というもの。”事実誤認”と、ダブルクォーテーションが付けられている。
「従軍慰安婦報道に関する名誉毀損訴訟を巡り、安倍晋三前首相が会員制交流サイト(SNS)に事実と異なる投稿をしたとして、削除要求の内容証明を送りつけられる騒動が起きている。訴訟は、従軍慰安婦に関する記事を「捏造(ねつぞう)」と決めつけられたとして、朝日新聞元記者の植村隆氏(62)がジャーナリストの桜井よしこ氏(75)らに損害賠償を求め、札幌地裁に2015年に提訴。一、二審は請求を棄却し、最高裁が今月18日に上告を退けて原告敗訴が確定した。」
安倍晋三は、自身のフェイスブックに、植村隆対櫻井よしこ訴訟の最高裁判決を報じた産経新聞の記事を添えて、「植村記者と朝日新聞の捏造が事実として確定したという事ですね」と投稿したのだ。「セカンドレイプ」という言葉を思い出させる。植村隆と朝日に対する櫻井よしこの悪罵を繰り返して、再び「捏造」と言ってのけたのだ。問題は小さくない。
真正の歴史修正主義者たる安倍晋三という人物、従軍慰安婦に関する記事は「捏造」であると言いたくて仕方がないのだ。こういう発言をすることで、自分の政治的支持者が喜び、自分の政治基盤が固まると計算もしているのだろう。
しかし、「最高裁判決によって、植村記者と朝日新聞の捏造が事実として確定した」という安倍晋三の投稿は、明らかなフェイクである。「ウソとごまかし」をもっぱらとしてきた彼らしい一文。ファクトチェックで正されなければならない。
民事訴訟の構造から言えば、「植村に対して、『捏造』という悪罵を投げつけた櫻井よしこの名誉毀損論稿」が、法的に損害賠償請求を根拠付けるには至らなかったという判決が確定したというにとどまり、裁判所が「1991年に植村が書いた記事が、『捏造』に当たる」と認定したものではない。
この点を共同配信記事は、「確定判決は植村氏に対する名誉毀損を認めた上で『植村氏が事実と異なる記事を執筆したと(桜井氏が)信じたのには相当な理由がある』とした内容。植村氏も『法廷では桜井氏自身が事実誤認を認め、捏造でなかったことも裁判で明らかになった』と話している。」としている。
櫻井よしこの論稿を不法行為として損害賠償を認定するためには、
(1) 当該論稿が植村の名誉を毀損し、
(2) しかも、当該論稿の摘示事実が真実性を欠く、だけでは足りない。
(3) 櫻井よしこが、自分の間違った事実摘示を真実と信じるについて相当な理由があった場合は不法行為の成立要件である違法性が阻却される。
この裁判では、(1)と(2)は明確に認められ、(3)の論点で争われた。結果的に、植村敗訴となったことは残念だが、ジャーナリスト櫻井よしこにとっては、真実性のレベルでは勝てなかったのだから、薄氷を踏む厳しい判決内容でもあった。11月26日付植村弁護団の声明をよくお読みいただきたい。
2014年に週刊文春が火付け役になった植村・朝日バッシングが、私には衝撃の体験だった。とりわけ、文春や、産経や、西岡力や、櫻井よしこらの煽動に踊らされた、いわゆるネトウヨ族の跳梁には、背筋に寒いものを感じざるを得なかった。時代はここまで退行しているのか、日本の社会はここまで劣化しているのか、という絶望にも似た恐怖感である。
とりわけ、「植村氏の娘の実名や高校名、顔写真などがネット上にさらされ「(娘を)必ず殺す」と書かれた脅迫状が届き、警察が身辺警護に動いた時期もあった。植村氏は、家族や勤務先の大学を巻き込んだバッシングを止めるため、桜井氏らを札幌地裁に、同様の主張をしていた西岡力・東京基督教大教授(当時)と文芸春秋を東京地裁に、それぞれ提訴した。」のは緊急避難的意味合いが強かった。「植村氏が非常勤講師を務める札幌の大学には、爆破予告などの脅迫状が相次いで届いた」という事情もあった。
当時から、このような時代の空気を作った張本人として、安倍晋三の名が上がっていた。しかし、さすがに首相が個別事件に口を出すことはなかった。今、首相の座を離れた安倍晋三が、自ら当時の推測を証明しているのだ。
その安倍晋三フェイスブックのフェイク投稿、削除要求の期限は、12月3日となろう。注目したい。
なお、判決内容の評価については、リテラが「捏造したのは櫻井よしこのほうなのに…『慰安婦報道を捏造』と攻撃された元朝日記者・植村隆の名誉毀損裁判で不当判決」との表題で詳しく報じている。
https://lite-ra.com/2018/11/post-4354_4.html
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最高裁判決を踏まえての植村訴訟札幌弁護団声明
植村隆氏が櫻井よし子氏らを相手取った名誉毀損訴訟で、最高裁判所第2小法廷は去る11月18日付で上告棄却・上告不受理決定を出しました。
これによって、櫻井氏が植村氏の記事を「捏造」と書いたことが名誉棄損に当たることを認めつつも、「捏造」記事と信じたことに相当の理由があるとして櫻井氏を免責した札幌地裁判決(2018年11月9日付)が確定しました。
この札幌地裁判決は、「従軍慰安婦とは、太平洋戦争終結前の公娼制度の下で戦地において売春に従事していた女性などの呼称のひとつ」などと、河野談話をはじめとする政府見解にも反する特異な歴史観をあからさまに示した上で、櫻井氏による名誉毀損行為を安易に免責した不当判決にほかなりません。札幌高裁判決もこれを追認しました。
最高裁がこれまで幾多の判断で営々と積み上げてきた名誉毀損の免責法理を正当に適用せずに、植村氏への直接取材もしないなど確実な資料・根拠もなく「捏造」と決めつけた櫻井氏を免責する不当判決を追認してしまったことに、強い憤りを覚えるものです。
とはいえ、札幌訴訟の一連の司法判断は、「捏造」と決めつけた櫻井氏の表現行為に真実性を認めたものではなく、むしろ、札幌地裁判決でも「継父によって人身売買され慰安婦にさせられた」という櫻井氏の表現が真実であると認めることは困難である旨を認定しています。
また、櫻井氏自身も、元慰安婦の1人が日本政府を相手取った訴状には「14歳の時、継父によって40円で売られたと書かれている」と真実に反することを述べていたことを被告本人尋問で認め、産経新聞とWillに訂正記事を出さざるを得なくなりました。
何よりも、植村氏が敢然と訴訟に立ち上がったことによって、櫻井氏による一連の「捏造」表現を契機とした植村氏への激しいバッシング、同氏やその家族あるいは勤務先だった北星学園大学に対する脅迫行為を止めることができました。
私たちは、こうした成果を確信するとともに、植村氏の訴訟をこれまで支援してくださった皆さまに対し、心からの感謝を申し上げます。
そして、植村氏の東京訴訟の勝利のために引き続き連帯を強めることを決意するとともに、二度とこのような人権侵害が繰り返されることのないよう、取り組みを続けていく所存です。
2020年11月26日
植村訴訟札幌弁護団
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2020.11.28より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=15978
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion10323:201129〕
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