トランプ笑劇場
- 2020年 11月 30日
- 評論・紹介・意見
- 藤澤豊
トランプと取り巻きの共和党議員が激戦区だったと思っている州の選挙管理当局や裁判所に投票と集計にごまかしがあったとして提訴してきた。提訴が起きているのは、ペンシルバニア、ミシガン、ウィスコンシン、アリゾナ、ネバダ、ジョージア、ミネソタの七つの州。
一一月二六日付けのNBCNewsによると、少なくとも四一件の提訴がある。一つずつ却下あるいは取り下げざるを得なくなって二六件は終わったものの、まだ一五件は審理が続いている。
「Trump’s election fight includes over 40 lawsuits. It’s not going well」
https://www.nbcnews.com/politics/2020-election/trump-s-election-fight-includes-over-30-lawsuits-it-s-n1248289
一個人のことなら、おかしなヤツの嫌がらせですむが、それが現職の大統領となると行政やマスコミだけでなくアメリカ全土に社会不安を撒き散らすことになる。インチキだという文句をくりかえしているだけで、根拠らしきものの提示は一つもない。巷の普通の人たちにはいつものトランプのウソの続きとしか思えない。共和党の上院議員やトランプ支持者のなかにももういいかげんにしろと思っている人もいるし、左傾の人たちのなかにはトランプがクーデタをしかけているといいだす人たちまでいる。
それでも弁護団は金を貰っている以上、どこかの司法にもちこめないかと訴状を送り続けては、マスコミにその正当性を訴えている。もともと証拠どころか根拠もないダラ話。それでも心ある人たちなら一度は聴いてくれる。でも二度三度となると、多少霧のかかった頭の乱視の人たちにですら聞いてもらえなくなる。いくらもしないうちにダラ話が脱線してあきれたホラ話になるっていく。ホラ話にホラ話が続くと、ほとんどトランプ笑劇場の即興劇になって、品のないお笑い以外のなにものでもなくなる。
ジリアーニ、若い時はもうちょっとまともだったんじゃないかと思うが、トランプのお抱えになってでてきた途端、ピエロ顔負けのナチュラルなお笑いパーフォーマンスで見ちゃられない。それが一度や二度ならまだしも、出てく毎に下手な道化を見せられると、ちょっと痛々しくなってくる。
一一月一九日の記者会見では、左右のこめかみの辺りから黒い汗?、もしかしたら血と思わせる一筋に見ていた人はどきっとした。まさか血じゃないよなと思いながら、あとで伝えられた記事を読んでほっとした、というかバカバカしくなってきた。毛染めが汗で溶けだしたんじゃないか、いやメーキャップのマスカラじゃないかという話になっている。まさか道化の道もしっかり極めて、受け狙いの変な小道具というわけでもないだろう。
披露宴かなにかでマスカラが涙で流れたパンダ目は可愛いと思うことがあるが、ジイサンの毛染めかマスカラが流れ出したのなんか見たくもない。トランプの主席弁護士として一日二万ドルももらってんだから、もっとちゃんとしたヘアドレッサーにいけ。
黒い汗?のジリアーニ、あちこちのニュースにでているが、一一月一九付けのNew York Timesの記事に写真が何枚か掲載されている。
「Whatever It Is, It’s Probably Not Hair Dye」
https://www.nytimes.com/2020/11/19/style/rudy-giuliani-hair.html
ジリアーニのくえない喜劇に気をとられていたら、ジリアーニだけでなく、さしものトランプも慌てて引いた弁護士がいた。サンディー・パウエル、どこの裁判所にも相手されなくって、根拠がどうのというレベルをこえた荒唐無稽としかいいようのないことを言いだした。
彼女の理解といっていのか知識になるのか、思考に障害をきたしたのか知らないが、そこまでずれているとなると尋常じゃない。
「Ex-Trump lawyer Sidney Powell files lawsuits in Michigan, Georgia」
「投票の集計に使われたDominion Voting Systems社の装置はベネズエラの前大統領ウゴ・チャベスが開発した技術を搭載している」
チャベス、二〇一三年だから、もう七年前に厚い支持者に惜しまれながら他界した。サンディー・パウエルの話を聞いてチャベス、墓のなかで怒ってるんじゃないかと思う。
「なんでそこでオレを持ち出す。なんでオレがアメリカの選挙の集計装置を設計するんだ。馬鹿も休み休み言え。気は確かか?医療費が高くって医者にいけないってんなら、キューバのいい病院紹介してやるぞ」
このサンディー先生、立派な弁護士で、訴状のタイトルを二か所でタイプミスした。
「district」と書くところを一回目はCが一つ余計で「DISTRICCT」、二回目は COまでつけて「DISTRCOICT」。個人のメモでもここまでミスはなかなかない。スペルチェックもあるんだし、ものは裁判所に提出する法律上の正式書類。
日本じゃ官僚が用意した台本に書かれた漢字が読めないって笑い話になった首相がいたが、さすがアメリカ、時の大統領が雇った一流?弁護士がこの体たらく。さすがのトランプも弁護団からサンディー先生を外した。放っといたら、オウンゴールなんてことも起きかねない。
もっともトランプ、自分の現住所フロリダをツイッターでFrorida(正しくはFlorida)と書いて、アメリカ中の失笑をかった。郵便でも免許証でもなんにでも、ホテルのチェックインでも州の名前が出てくる。州の名前にはMassachusettsなんでながったらしいものもある。そこで立派なアメリカの経済合理性からアルファベット二文字の略称を使う。Floridaの略称は「FL」。RじゃなくてL。二文字のうちの一文字を間違えるか?フロリダなら小学校にあがる前の子供でも、そのくらいのことは知っている。
日本ではLとRの発音がと思っている人も多いだろうが、アメリカの大統領でもその程度。英語の先生に叱られそうだが、あまり気にしすぎることもないだろう。
トランプージリアーニーサンディー先生、トランプ笑劇場のメインキャラクター。いい三人組だと思っていたのにサンディー先生がいなくなるのは残念でならない。
トランプがインチキ選挙を法廷の場で糾弾してやる。訴訟にはどうしても金がかかると訴訟支援寄付金の声をかけた。それにしっかり乗る人たちがいるというのがアメリカの凄いところなのだが、選挙がインチキだというトランプの根拠のないインチキ訴訟に騙されて寄付した人たちが、寄付金を返せとトランプを訴えた。
「Donor sues pro-Trump group over failure to prove voter fraud: ‘Empty promises’」
3Kが付きまとう製造業という実業の世界からサービス業という物理的にはつかみようのない業界が急成長を続けている。かつては額に汗して社会の富を創り出した人たちが社会の底辺層に追い込まれて、いってみれば口先三寸の法律の専門家や弁護士先生が法律にもとづいて、富をあっちからこっちからこっちへと合法的に頂戴してくる社会になった。
アメリカの画像処理屋の日本支社でマーケティングをしたときに遭遇したレメルソンの特許が忘れられない。何年もかかったが、レメルソンの訴訟を受けて立って勝訴した多分最初の会社だろう。訴訟を恐れた多くの日本企業が示談金を払ったと聞いていた。サブマリン特許の典型的な例、ウィキペディアにも記載があるから一度ご覧になられたらいい。Webで「レメルソンの特許」と入力して検索すれば色々でてくる。
二四時間戦えますかなんて馬鹿げた宣伝が受けた時代があるべき姿だなんて冗談じゃないが、法律家が富を左右する先進国は好きになれない。職工になりそこなった古い人間だが、トランプの笑劇場で笑わせてもらう気持ちの余裕はまだ残っている。
2020/11/30
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion10325:201130〕
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