「私はA天皇の時代に生まれ、B天皇の時代に弁護士登録をし、C天皇の時代に立候補しました」と表示される大いなる違和感。
- 2021年 1月 30日
- 評論・紹介・意見
- 司法制度天皇制弁護士澤藤統一郎
(2021年1月30日)
例年2月は弁護士会選挙の時期。だが、今年(2021年)は2年任期の日弁連会長選挙はない。そして、私の所属する単位弁護士会である東京弁護士会(会員数8700)も選挙がない。会長・副会長(定員6名)・常議員(定員80名)・監事(定員2名)の座を争って、華々しい選挙戦があってしかるべきだが、どこでどう調整がつくのか立候補者が定員で収まって選挙はなくなった。
本来であれば2月5日(金)が投開票である。勝れて理念的な存在である弁護士会には、弁護士のありかた、弁護士会のありかた、司法や司法行政のありかた、そしてこの社会の人権や民主主義のありかたについても、選挙を通じての熱い議論があってしかるべきだが、それがないのはややさびしい。
私は、弁護士のありかたは市民社会の関心事であるべきだと思っている。選挙戦における主張の応酬はできるだけお伝えしたいところだが、今年はそれができない。とは言え、東弁の選挙公報には、会長・副会長・監事各候補者のなかなか熱い公約が掲載されている。弁護士会、なかなかの水準だと思う。
今年の特徴として、多くの候補者がコロナ対策に触れている。コロナ禍にともなう会員の減収と会の財政問題にも。しかし、それだけにはとどまらない。弁護士自治の堅持、立憲主義の擁護、憲法価値の実現、人権の尊重、弱者の司法アクセス等々についての理念を語っている。
会長候補者は矢吹公敏氏。事実上の次期会長である。この人の所信(選挙公報に掲載した公約)は決して熱くはないが、真っ当と評価できよう。その一部を引用させていただく。
弁護士全体の課題への対応
(1)弁護士自治の充実を
弁護士の自治は弁護士の独立を保障する制度です。この弁護士自治を守るために、法テラス、弁護士費用保険、法曹人口(特に、女性の法曹人口)、貸与制世代の会員などの課題に向き合っていかなければなりません。また、組織内弁護士の方々とも意見交換をしていく必要があります。さらに、会務も透明性があり、説明責任を果たせるような運営が求められます。
(2)司法の独立の中心となる活動を
司法が市民からより信頼され司法の独立を守るために、裁判所や検察庁と、時に厳しい意見を率直に述べ合うためにもさらに相互に信頼関係を深めていく必要があります。また、弁護士会が掲げる政策の実現には、立法府や行政府とも連携する取り組みが大切だと考えます。
(3)市民とともに歩む活動を
弁護士自治が弁護士法を通じて国民から負託されたものである限り、市民社会と連携する弁護士会でなければなりません。NGOなどとの協力も必要であり、またメディアへの適切かつ幅の広い対応も求められます。加えて、ジェンダー、LGBTQ、子ども、高齢者、障がい者の方々への法的サービスを欠かしてはなりません。
また、市民社会が政府や経済界に対して監督的な役割を持てるように、市民社会の側に立ってその活動を支援する取り組みが必要です。例えば、ビジネスと人権にかかわる取り組みが考えられます。
(4)憲法的価値の維持と民主主義の堅持へ
立憲民主主義は、我が国の憲法の拠って立つ礎です。加憲問題、憲法改正問題(改正手続規定に関するものを含む)、国家緊急権の問題など立憲主義にかかわる問題に積極的に意見を述べる必要があります。また、報道の自由や表現の自由など、民主主義の根幹にかかわる人権問題にも積極的に意見を述べていくべきです。
(5)法の支配の強化に向けた活動を
我が国の法手続は他国に比して遅れている課題があると言われています。IT化を含む民事司法改革や弁護人の立会い権などの被疑者・被告人の権利拡充含む刑事司法改革など弁護士会が取り組むべき課題に積極的に関与していきたいと考えています。犯罪被害者支援の拡充(犯罪被害者の権利保障、被害者参加制度の拡充、損害回復手段や経済的支援制度の拡充等)もその一つです。
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もう一つ、東弁選挙公報についてのご報告を。
9名の立候補者が所信(公約)を寄せている。経歴の紹介を西暦表示だけで行っている人が8名。たった一人だけが、西暦表示を主として元号表示を括弧に入れている。いったい何のための西暦・元号併記なのだろうか。この人も、本文では全て西暦表示である。そろそろ、元号使用は廃絶されつつあるとの実感。
ところが、公的な場面となるとガラリと変わる。選挙公報の選管作成部分の記載は全部元号表示で統一されている。昭和・平成・令和、3元号混在の摩訶不思議の世界。それぞれの候補者が、「私はA天皇の時代に生まれ、B天皇の時代に弁護士登録をし、C天皇の時代に立候補しました」と表示されている。こういう愚劣な事態は一刻も早く止めようではないか。
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2021.1.30より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=16261
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion10511:210130〕
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