3.11から10年、何が変わり、何が残されたのか?
- 2021年 3月 2日
- 時代をみる
- 3.11加藤哲郎原発新型コロナウィルス
2021.3.1 あれから10年だという。3月11日、東日本大震災と大津波、福島第一原発の核事故から10年である。もう10年なのか、まだ10年なのか、地域によって異なり、人それぞれだろう。それが被災体験の歴史的継承と世代交代の問題につながり、記録と記憶の乖離になり、時には科学と政治の衝突となる。2月13日夜、福島県沖を震源とする大きな地震があった。M7.3 、最大震度6強で、東京郊外の私の家でも、大きな揺れが1分近く感じた。私は実は、10年前の3.11の時は日本には居らず、メキシコでニュースで知っただけで、体感していなかった。今度の地震で家人に聞くと、10年前はこんなものではなかったという。その晩は、10年前の地震の余震で、原発は問題なし、人的・物的被害も軽微ということだった。ところが翌朝、東北新幹線など受験期の交通網で大きな被害があり、東北電力ばかりでなく、東京・神奈川・埼玉・千葉などコロナで緊急事態下の東京電力管内83万戸の停電が明らかになった。人的被害は10年前の経験が生きて死亡なしとされたが、10日以上たって、福島で一人暮らしの男性が家財道具の下敷きで亡くなっているのが発見された。ウィキペディアでは「福島県沖地震(2021年)」と立項された。
問題なしとされていた福島第一原発も、危ういものだった。幸い津波は軽微だったが、福島第一・第二原発で使用済み核燃料貯蔵プールの水の一部が溢れ出ていた。東京電力は2月19日に、福島第一原発1、3号機の原子炉格納容器で水位の低下傾向がみられることを発表した。また、21日には1号機容器内の圧力が低下していることを発表した。いずれもこの地震の影響とみられるが「原子炉への注水は継続しており溶融核燃料(デブリ)の冷却などに問題はない」とした。23日になって、東電はなんと、福島第1原発3号機の原子炉建屋内に昨年設置した2基の地震計が故障していたにもかかわらず、修理などの対応を取らずに放置していたことが明るみに出た。最大震度6強を観測した13日深夜の地震の揺れのデータを記録できておらず、公表もしていなかった、と報道された。海洋放出が問題になっている汚染水タンク53基の位置が、最大で19センチずれていた。地震に耐えて「アンダーコントロール」どころか、震度も分からない「ノーコントロール」だったのである。これが、あの地球的大事故を起こした福島第一原発の、10年後の姿である。この期に及んで、10年前のメルトダウンに際して、原子炉格納容器の圧力を下げる「ベント」の配管が途切れた設計ミスがあったことが、ようやくスクープされた。ーーここまでは、敢えて文語体にしておきます。
3.11当時の菅直人元首相は、「震災前、原発事故を想定していなかったのが間違っていた」「危機管理は最悪の場合を想定することが必要」と回顧しました。一度は脱原発に向かった政府のエネルギー政策は、自公安倍政権の復活で「電力安定供給」「エネルギー源の多様化」の名目で、原発再稼働から原発輸出策まで試み、ついには世界的な脱炭素・再生エネルギーの流れに「クリーン・エネルギー」の一部として生き残ろうと宣伝を強めています。「原子力ムラ」の完全復活です。東日本大震災の復興予算1兆円超が被災地と関係の薄い使途にも流用され、「復興庁が2013年に管轄省庁に返還を求めた23の基金事業を調べたところ、最終的に少なくとも7割に当たる約8172億円が返還されないことが明らかになった」というのが「ムラ利権」の実態でした。10年前、毎日の新聞には震災の死者・行方不明者・避難所生活者数、福島第一原発の原子炉の状況が報じられていました。この1年の新聞では、新型コロナウィルスの感染認定者数・死亡者数で、世界で1億1350万人感染・252万人死亡、日本で43万人感染確認・死亡8千人近くと報じられています。「最悪の事態の想定」は、10年前と同じく無視され、日本の場合は世界に比して極端に少ないPCR検査数のもとで、科学的な意味での感染実態もつかめないまま、後手後手の緊急事態宣言・解除の試行錯誤が続いています。
この10年、特に第二次安倍内閣の8年で、国民には「自助・共助」を強いて格差を拡大しながら、国民からの税金を元手に「公助」の利権に群がる、さまざまな「ムラ」ができてきました。20世紀の族議員・関連官庁・業界の分散したムラは文教族・建設族などと残しながらも、存続しています。しかし21世紀に入って、より高度な国家プロジェクトに特化した政官財に軍事もからむ利権集団が生まれているように見えます。例えば「IT・AIムラ」は、金融から電気自動車まで、あらゆる産業・業種を横断してデジタル化が進められる国策に群がって、政府の仕事を請け負い、大手からごくごく小さなプログラム企業まで系列・下請化が進み、オリンピック・イベントからコロナ対策の感染接触ソフトcocoaシステムまで、巨大な「ムラ」を作りつつあります。同様に「宇宙・ロケットムラ」や「気候・温暖化ムラ」も、科学者世界と防衛産業を巻き込んで、産軍学共同体を作るでしょう。国家的事業が政治主導で進められ、内閣官房で予算の骨格や官僚制トップの人事まで決まるようになると、かつての族議員型ムラの再編・統合が進むようです。今度のコロナウィルス対策の中から、古くからの「感染症・ワクチンムラ」と共に、「安全保障・危機管理ムラ」ともよぶべき、個人を監視し個人情報を管理・統制・利用するシステムに寄生する利権グループが、防衛・諜報機関から大手広告産業・メディア企業を組み込んで、蠢いているようです。
どうやらこの10年で変わったのは、米国の衰退と中国の台頭という国際情勢、平成から令和なる国粋的元号暦を別にすると、衰退期日本の国内イシューが、原発から安保法制、オリンピックからコロナウィルスへ、政治スキャンダルのネタが、モリ・カケ・サクラから親子丼といった表面的動きのようです。変わらないのは、地球温暖化・気候変動の深化のなかで新自由主義的グローバル化がいっそう進み、権力は自民党というよりも首相官邸・官邸官僚へと集中し、国民の内部に、「公助」利権に群がる一握りの人々と、貧困化と格差拡大で「共助」も得られず「自助」のみで生きるしかない人々との、絶望的な分断が進んだことでした。菅義偉首相の「最終的には生活保護を」というコロナ困窮者に対する言葉・認識と、その内閣広報官が「電波ムラ」の関係業者から一晩7万円の接待を受けていた事実の、埋めがたい落差が、この10年の帰結です。コロナ対策の緊急事態宣言解除の報道が増えるもとで、憲法学者水島朝穂さんからのメルマガ「平和憲法メッセージ」をもらって気づき、愕然としました。「コロナ特措法32条の「緊急事態宣言」は解除されつつあるが、10年も解除されていない「もう一つの緊急事態宣言」がある。それは2011年3月11日16時36分に発出された「原子力緊急事態宣言」 である。「3.11」で3653日になるも、一度も解除されたことはないし、今後も解除される見通しはない。同じ「緊急事態宣言」なのに、なぜこちらの解除が語られないのか」と。私たちはなお、重い重い「危機管理」のもとにあるのです。
「危機管理ムラ」が暴走すると、政治そのものが殺されます。ミャンマーのコロナ感染統計が、急激に減少に転じたので調べたところ、案の定、国軍クーデターのもとで病院・医療もマヒし、感染検査そのものができない状況によるものでした。日本の感染認定者数減少にも、東京オリンピック決行を至上命題とする「危機管理ムラ」の恣意が入っていないとは断言できないところが、日本の悲しい現実です。ようやく海外からワクチンが入ったものの、変異型ウィルスとリバウンドが危惧されるコロナ状況については、「デモクラシータイムズ」の児玉龍彦さん「変異型がやってきた、悪循環の出口はこっちだ」の参照を求めます。私自身は、3月13日(土)東京・浜松町のNPO法人731部隊・細菌戦資料センタ第10回総会で、「日本のコロナ対応にみる731部隊・100部隊の影」と題する記念講演を行います。昨年12月のyou tube に入っている「ゾルゲ事件」講演以来3か月ぶりの対面講演で、上述の「ムラ」利権のうち、「感染症ムラ」「ワクチンムラ」に流れた731部隊医学、100部隊獣医学、それを可能にした占領期GHQ・PHW(公衆衛生福祉局)の防疫感染症対策・ワクチン開発の事例を述べる予定です。ご出席希望の方は、しっかりと体調を管理し、できればマスクを二重にして、ご参加ください。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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